第11話 春風双葉ははしゃぎたい!
もうすぐ年が変わる年末、俺は双葉とようやくクリスマスの代わりを過ごすことができた。
結局、俺が選んだ場所は……、
「見てください! イルカですよ! イルカ!」
「まあ、水族館だし……」
去年と同じ場所。
しかし、関係性は以前と変わっている。
同じ景色でも、恋人となった今見てみると、少し変わっているようにも感じる。
「きゃっ! ちょっと濡れちゃいました」
「まったく……。タオル持ってきておいて良かったよ」
「えへへ、ありがとうございます」
はしゃいでいる双葉はイルカが飛び跳ねた拍子に飛び散った水に濡らされる。
冬の肌寒い時期だが、少しかかったくらいなので、大した影響はないだろう。
俺にも少しかかってしまったが、濡れた寒さよりも、こうして双葉と隣に座りながらイルカショーを見ているという事実に、熱に浮かされそうになっていた。
十二月三十日。
明後日になれば年越しという時に、俺と双葉の予定はようやくあって出かけることができた。
俺は双葉の家に迎えに行き、一緒に並んで歩いて駅まで向かうことにした。
普段はあまりしないが、今日は特別な日なのだ。
「先輩! お待たせしました!」
俺が家についたと連絡をした数分後、双葉は元気よく家から出てくる。
おおよそ実はまだ予定の三十分も前だ。
しかし、朝からメッセージのやり取りをしていて、お互いに今日が楽しみなこともあって早く起きてしまったことを知り、予定を早めることになったのだ。
双葉は急いでいたのか、少しだけ息を荒げているが、いつも以上に可愛かった。
普段はすっぴんだけど、今は化粧をしている。
休日に出かける時はメイクをするが、今日に限っては何倍も増して可愛く感じた。
そんな双葉に見惚れていると、キョトンと首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「……いや、何でもない」
照れくさくなった俺はそっぽを向きながら言う。
双葉は褒められたかったのか、頬を膨らませる。
気恥ずかしい俺は言葉の代わりに双葉の手を取った。
「それじゃあ行こうか」
「……はい」
双葉は満足したようだが、いつもと違って気恥ずかしそうにはにかみながら、手を握り返してきた。
こうして俺たちのデートは始まったのだが、いきなりメインであるイルカショーに向かった。
「これって、中盤くらいに見た方が楽しかったんじゃないか?」
コース料理なのにメインディッシュが最初にやってきたみたいな?
そんな感覚に陥ってしまう。
言ってしまえばで落ち感が半端ない。
……コース料理なんて食べたことないけど。
そんなことを言ってみると、双葉をわざとらしく呆れたような口ぶりでため息をついた。
「何言っているんですか、先輩と水族館を回れるならいつでも楽しいですよ。だから、全部がメインディッシュみたいなもんです」
相変わらず嬉しい言葉ではある。
照れくさく思いながらも……、
「いや、そういう話じゃないんだけど」
確かにどこを回っても楽しいとは思う。
こういう時こそ、どこに行くかじゃなくて誰と行くかという言葉が適応されると思うが……、そうじゃない。
序盤で見るよりも、後で見る方が盛り上がるんじゃないかという話だ。
「見たかったんですもん」
双葉はいじけたようにそう言った。
「先輩と来れるのが楽しみで、テンション上がっているんです。楽しい思い出を作りたいので先走っちゃんったんです」
そんなことを言われてしまうと、たとえ冗談でもツッコミを入れる気にはなれなかった。
「それじゃあ、次見に行こうか。どこに行きたい?」
「たくさんあります! 全部見て回りましょう!」
「それなら、時間配分も考えないとな」
あからさまに機嫌が良くなった双葉を見て、俺はつい笑みがこぼれてしまう。
彼女のことが本当に愛おしいと思っていた。
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