第9話 春風双葉は強がりたい

「負けちゃいました」


 俺はただ、静かに涙を流す双葉の隣にいるだけだった。




 全国大会ベスト8。

 それだけを見れば、十分な成績にも思える。

 去年はベスト16のため、少し前進したとも言っていいだろう。


 しかし、双葉にはただ悔いが残っていた。


「あのシュートが決まれば勝てていたんです」


 二点差で迎えたラスト五秒。

 双葉が放ったスリーポイントシュートは奇しくも外れてしまった。

 もちろん簡単なシュートではないが、苦し紛れに打ったものではない、準備を整えた上でのものだからこそ、チャンスがあったかもしれないと思ってしまうのだ。


 それでも、結果は変えられない。

 逆の結果になって、相手が同じようなことを思っている可能性だってあったのだ。

 ……ただ、そんなことは俺の口からは言えない。

 今の双葉の姿を見ていて、俺が発する言葉はどれも軽く感じてしまうのだ。




 双葉はひとしきり泣いた後、苦笑いを浮かべる。


「困らせてしまってすみません」


「これくらいいいよ。……いいんだよ」


 双葉は少しほっとした表情をしている。

 多分、俺の返事に期待しながらも、もし厳しい言葉が返ってきたらどうしようか……とでも思っていたのだろう。

 俺はそんな鬼畜ではないし、少なくとも今日のところは双葉を甘やかすつもりだ。


「帰ったらどこに行きたい?」


「えっと……」


「今日はクリスマスだろ? ……まあ、都合もあるから多分年末くらいになるけど、どこか行こう。俺たちだけのクリスマスってことでさ」


「……先輩ってそんなきざなこと言う人でしたっけ?」


「は?」


「あははっ! ごめんなさいっ!」


 前言撤回。

 ふざけたことを言うやつは、今日だろうと厳しく接しようと思う。


 ……ただ、そんなふざけた双葉だけど、作ったものではない心からの笑みがこぼれたことに気付き、俺は少し安心していた。

 あのままだと、そのままどこかに消えていってしまいそうだったから。


「行きたいところはありません」


「そうなのか? 双葉も大会終わりで休み取れるし、俺も大学決まってバイトも自由にシフト組めるから、ちょっとした遠出くらいならできるけど……」


「ワガママかもしれないですけど、先輩が考えたデートプランで楽しみたいです。私も全力で先輩のことを楽しませますから!」


「……それくらいなら、お安い御用だよ」


 笑顔の奥にはどこか不安そうな感情が見え隠れしている。

 そんな双葉が精一杯の空元気を装っているのだから、俺は全力で答えるだけだった。


「楽しみにしていますね!」

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