第8話 青木颯太は祈っている
クリスマス。
一年に一度だけ行われる行事で、日本では主に恋人同士で過ごす人が多い。
もちろん、俺も例には漏れない……と思っていたのだが、
……今日は双葉の全国大会の日。
俺は一人虚しく東京に来ていた。
「あれ? お兄ちゃん?」
会場内で妹の凪沙と遭遇する。
まさかここまで人がいるのに、会えるとは思っていなかった。
「凪沙、お疲れ様。応援行くって言ってなかったか?」
「聞いてたけど、今日からだったっけ? クリスマスだし、てっきり家にいるのかと」
「クリスマスだからこそだよ。それに、去年なんか二人で来ただろ?」
凪沙は「それもそっか」と言うと、遠くから部員に呼ばれる。
「双葉ちゃんに会ってく?」
「いや、邪魔したくないからいいや。試合頑張れよ」
「ありがと! 行ってくるね」
そうして凪沙は笑顔で去っていった。
まだ高校一年生というのに、すごい余裕だ。
凪沙は控えながらも、それなりに試合に出ている。
しかもこの時期だから、三年生は引退しているため、スタメンで出ることも多い準レギュラーくらいだろう。
夏に全国を経験しているとはいえ、肝が据わっているというのか……。
「とりあえず、席に行くかぁ」
俺はまたも一人寂しく、観客席へと向かった。
クリスマスだろうと、恋人である双葉と過ごせないのであれば、少しでも近くで応援したい。
そう思うのは何らおかしなことではないだろう。
去年は悔しい思いをしている。
そして今年も喜んで冬を終えられるとは限らない。
なんせ、ここには五十校近くの学校が来ていてしのぎを削る。
県大会などを合わせると、数千もの学校の選手たちが涙を流してきた。
去年同様、今年もそんな涙を流す一校になっても不思議ではないが、俺はそんな双葉を近くで支えてあげたい……そう思っている。
ブザーが鳴り響き、試合が始まる。
軽快に動き出す双葉と、今回はスタメンだった凪沙。
二人は中学時代から一緒にプレーしていて、部活以外でも暇さえあれば二人で練習をしている。
それもあってか、息の合ったプレーがさく裂して、点数を重ねていっていた。
……俺もあの場に立ちたいな。
なんて今になって思う。
選手としてではなく、凪沙の立場が羨ましい。
ただ、男女に違いもあって、無理なことはわかっているし、嫉妬しているなんてわけもない。
何らかの形で双葉の支えになりたい。
少しでもなりたい。
俺は強くそう思っていた。
俺はまだ双葉には言っていない夢がある。
就職とも悩んだのだが、大学を受験しており、既に合格はもらっていた。
形にもなっていないこの気持ちを抑え込みながら、いつか早いうちの伝えたいと思いながら、
……そして、今はただ双葉たちの勝利を祈りながら、俺はただ試合を観戦していた。
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