第191話 春風双葉が好きになった日

 私が先輩を好きになったのは中学生の頃だった。


 最初はバスケが下手な自分をどうにか変えたくて、たまたま残って練習をしていた先輩に声をかけただけ。

 面倒見が良くて優しいというのは、同級生の男子が話していたから知っていた。

 そんな先輩だから、私がお願いしても助けてくれるんじゃないかって、軽い気持ちで声をかけていた。


 先輩は話で聞いていた通り優しくバスケを教えてくれて、私は徐々にバスケが上手くなっていった。

 別に上手くなりたいわけでもない。下手なのをどうにかしたかっただけで、せめて普通くらいになれればと思って教えてもらっただけだ。


 中学校は部活に入らないといけないから、体育の授業で楽しかったからという理由でバスケ部を選んだ。それ以上の理由がなく、今ほどバスケが好きじゃなかったから適当に部活をして適当に引退して、バスケは中学で辞めるつもりだった。

 中学生の間は逃げ出したと思われるのが嫌だったから、部活を変えるとかは考えないようにしていただけで、私は逃げたくない以外にバスケに情熱を持っていなかった。


 そんな私が上手くなっていくにつれて、気持ちが変わっていった。

 私が上手くなると、先輩は自分のことのように喜んでくれる。

 練習は別でもたまに声をかけてくれて気にかけてくれていた。

 その頃からバスケが好きになっていくと同時に、先輩のことを異性として気になり始めた。


 ――これが初恋だった。


 先輩のことを気になり始めてから、私は少しでも変わりたいと思っていた。

 最初に二人で出かけた時、その時は特に意識はしていなかったけど、ジャージ姿で出かけるという失態を犯してしまった。

 ほんの少し前まではおしゃれなんて興味のなかった小学生だったのだ。少しだけ大人になって中学生になったけど、すぐに変化なんてなかった。

 きっかけがなければ変化なんてない。でも、そのができてしまった。


 先輩のことを意識して、私は可愛く見られたいと思うようになっていた。

 だんだんバスケが好きになって、おしゃれにばかり気を遣うことはしなかったけど、それでも変えられるところは変えたかった。


 メイクはまだまだ下手。それでも服は勉強してみたら変えられる。

 高いものじゃなくても、安くて可愛い服はいっぱいあるのだから。


 幸い、私は大体の服は似合う。これは自慢でもなければただの自虐だ。

 胸があまり大きくない私は、服を選ばないのだから。

 それに、バスケをしている私は体型も整っていた。……これは少し自慢。

 先輩に可愛いと思ってもらえるように、少しずつ私は変わっていった。


 そして気が付けば高校生になっていた。

 中学生に頃の先輩は私に興味があるように思えなかったから、私はあえて告白をしなかった。

 気持ちは軽い感じで伝えていたけど、いまいち感触は良くなかったから。

 だから高校生になってから、もっと積極的になろうと思った。中学生の頃よりも自由は増えるから、それからじっくりと時間をかければいい。


 ……でも、私は焦ってしまった。


 気が付いたら、先輩の近くには花音先輩がいたから。

 中学三年生の時に文化祭に行ったから、とてつもなく可愛い先輩がいることは知っていた。

 それでも先輩は関わりがなかったみたいで、先輩はそんな人を好きになるような人ではない。

 それもあって安心していたけど、先輩が二年生……私が一年生として入学して、半年経った頃には花音先輩は先輩にとって身近な人になっていた。


 積極的に先輩にアプローチをしていたけど、なかなか上手くいかない。

 そうこうしている間に、二人はいい感じになってしまった。


 このまま気持ちを伝えられないのは嫌だ。


 私はそう思って、無理だとわかった上で告白をした。

 ……そしてフラれた。


 わかってはいたけど、もしかしたら……っていう期待も少しはあった。

 だって、今まで先輩と付き合いが長いのは私の方だったから。

 もちろん時間がすべてじゃないことはわかっているけど、やっぱり少しは考えていた。


 こうやって、私の長い長い初恋は終わった。

 いや、終わらせないといけない。


 先輩が花音先輩のことを好きなことは知っていて、しばらくしたら二人は付き合い始めていたのだから。


 普通なら見たくもない二人に、私は自然と嫉妬よりも応援したい気持ちが湧いていた。

 先輩のことは好きで、これからもその気持ちは変わらない。

 私は先輩のことが好きだからこそ、先輩が幸せになってくれることを願っていた。

 叶うなら隣にいるのが私ならよかった……とは思っているけど。


 これからも先輩とは一緒にいたい。

 それは当然恋人としてじゃなくて、後輩として。


「先輩、愛してます」


 私はこの恋を諦めきれない。

 これからもずっと思い続けている。

 少なくとも、他に好きな人ができるまでは変わらない気持ちだと思っている。

 それほどまでに、私は先輩に恋をしていたのだから。


 そして、これからも先輩のことを応援し続けたい。

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