第192話 わかばちゃんは進展したい
「久しぶりー!」
元気な声がすでに懐かしい。
まだ卒業してから二週間も経っておらず、それぞれタイミングが合うときはあっていた。
しかし、こうして四人で集まるのは卒業して以降、初めてのことだった。
「遅いぞ」
「えっ、酷くない?」
「若葉が一番最後だからな」
「そんなこと言っても、虎徹なんて自分ちだから絶対遅刻しないじゃん! それに部屋着で髪の毛ぼさぼさだから、実質遅刻みたいなもんだよ」
集合はいつものように虎徹の家だった。
隣の家の若葉は遅刻をしていないどころか十五分も前に到着しており、俺と花音が早く来すぎただけなのだ。
そして若葉を待っている間、俺たち三人は部屋でゲームをしていた。
とはいえ、文句を言う虎徹も実は本気で言っているわけではなく、いつものじゃれ合いと言ったところだ。
「……なんか二人とも、距離近くない?」
「そう?」
花音の指摘は俺も思っていたことだ。
元々距離の近い二人だったが、今日はいつもよりも距離が近い。
今までも何度か会っていたが、今日ばかりは違和感を覚えていた。
「え? うーん……、まあね」
若葉はそう言うと、虎徹の方を見る。
虎徹は「やめろ」と言いながらも、恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
「なになに? 気になるなぁ」
「えー、でもなぁー……」
二人の反応に花音は食いついている。話すことに躊躇している風な若葉だが、まんざらでもない様子だ。
何か進展があった……それもかなりの進展だ。
そう直感した。
「まさか若葉ちゃん……」
気付いたのは花音も同じで、目を見開いて驚きながらも進展したことを想像しているのか顔を赤くして手で口元を隠していた。
そして若葉は白状した。
「うん、実はしちゃったんだ……」
四人が揃っている場面で話を聞くのは、俺まで恥ずかしくなってくる。
興味がなかったわけではないが、ぜひガールズトークで話してほしかったものだ。
「おい、言い方」
「だって、本当のことじゃん」
「いや、そうだけど、言い方で誤解が生まれるんだよ」
「えー」
何故か二人はそうやって言い合っている。
――しちゃったと言うのは、
「誤解も何も、キスしちゃったんだから誤解じゃないじゃん!」
その言葉を聞いた俺はどんな顔をしていただろうか。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている花音を見れば、今の自分もどんな顔をしているのか容易に想像がついてしまう。
「主語がないから、絶対誤解生んでるぞ? 二人の顔見てみろよ」
「そんなことないよね? ちゃんと伝わってるでしょ?」
同意を求めるように花音を揺さぶり、その振動で花音は正気を取り戻した。
「ええと……、勘違いしちゃってたかな?」
「えぇっ!? なんでぇ!?」
「その、言い方的に……」
口をもごつかせながら、顔を赤くしている。自分の口からはっきりとは言えないのだ。
俺も自分が標的にならないよう、目を逸らす。
把握できていない若葉以外、気まずい雰囲気になっていた。
「虎徹……、何で? こっち見て教えてよ」
依然、虎徹は目を逸らしたままだ。
「もしかしてもう私のこと嫌いになったの? 責任取ってくれるって言ったのに!」
「だから言い方! 嫌いとかじゃなくて、颯太も本宮もいるのに気恥ずかしいんだよ!」
――俺たちも気恥ずかしいです。
どういうやり取りと会話をしたのかわからないが、虎徹と若葉はキスをしたらしい。その際に若葉が言ったように『責任を取る』と言ったのということらしい。
虎徹は以前、キスをすると
それにしても、若葉は俺たちの中で一番学力が高いはずだが、こうも話が噛み合わないと言うのは学力と頭の良さは必ずしもイコールにはならないという証拠だ。
何を言っているのかわからないというように、キョトンとした表情の若葉。
しかし、しばらくすると、熱が上がってきたようにみるみるうちに顔が赤くなっていく。
「あっ、いや……、そういうつもりじゃなくて」
燃えそうなほど真っ赤な顔を隠すように、身振り手振りしながら必死に弁解をしている。
わざとではなく無意識に言ってしまい、ようやく気が付いたため恥ずかしくなったというわけだ。
「うぅ……」
逃れるようにして部屋の隅に縮こまる。
しばらくのあいだ、若葉は再起不能になりそうだ。
「さて、俺は準備してくるよ」
「まったく……、若葉が来る前に準備しておけばよかったのに」
話し込んでいたことで、せっかく時間よりも早く集合できたにも関わらず、既に時間は過ぎていた。
これから虎徹が準備をするとなれば、さらに遅くなるだろう。
ただ、若葉の冷却時間と考えれば、どちらにしても変わらなかったかもしれない。
俺たちは遊ぶために集まった。
しかし、遊ぶのは虎徹の家ではない。
これから出かけるのだ。
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