第193話 かのんちゃんは夢を見たい
時間に余裕を持たせておいて、本当に良かったと思っている。
「あ、危なかった……」
最後はかなり急ぎながら俺たちは新幹線に乗る。
運動神経はそこそこいい花音も、俺たちの中では一番運動ができないため、何度か置いて行かれそうになっていた。
そのたびに内心焦りながらも、俺たちは花音を待って行動する。
そして、何とかギリギリ予定通りの新幹線に乗れたのだ。
「遅れてたらやばかったねー」
「まったくだ」
元凶となる二人はあっけらかんとしている。
こうなってしまったのも若葉が変な言い方をしたことがきっかけで、最終的に虎徹と若葉の口論があったからなのだ。
この時ばかりは心の広い花音でも、こめかみに血管が浮き出そうな勢いだった。
「二人の痴話喧嘩のせいだってわかってる?」
「まあまあ花音ちゃん。落ち着いて。ここ新幹線の中だよ?」
「そうだけど……、若葉ちゃんに言われるとなんか釈然としないなぁ」
言いたいことはわかってしまう。
そのため、俺は花音を落ち着かせるために用意していたものがあった。
「花音、ゲームでもして怒りをぶつけよう」
「こ、これは……、私のピッチャマ……!」
しばらく虎徹の家に封印してあったものだ。
受験後は解禁されていたのだが、別で積んであったゲームを消化するために手を着けれていなかったため、いまだに虎徹の部屋で眠っていたのだ。
今日ならば全員が同じゲームを持っているため、ちょうどいいと思い回収していた。
「よし……、ひと狩り行こう!」
「それ別ゲーじゃね?」
「このストレスはモンスターをハントしないと収まらないよ! 古代龍を若葉ちゃんに見立てて……」
「私ぃ!?」
普段はしないようなぞんざいな扱いだが、今回ばかりは文句の言いようもない。
俺としてもバカップル二人には呆れていたのだから。
付き合うことは応援していても、痴話喧嘩……しかも半分惚気のような話を聞いていると砂糖を吐きそうだった。
「よし、俺も
「んじゃ、俺も」
「颯太に虎徹まで!?」
「若葉ちゃん、新幹線の中だから静かに」
「その通りだけど……、釈然としない」
こんなことを言いながらも、特に大きな喧嘩に発展しないのは普段の行いあってこそだろう。
俺たちは結局四人で古代龍をハントしながら、新幹線での時間を過ごしていた。
「ついに来たよ……、夢の国!」
俺たちが新幹線で向かった先は、東京と名前が付きながらも千葉県某所に位置する夢の国だった。
夢の国を前にして、花音はやけにテンションを上げていた。
三月も下旬に差し掛かっている中、俺たちは卒業旅行を敢行した。
今まではなかなか泊まりがけで出かけることができなかったこともあり、卒業という機会に旅行をすることになったのだ。
俺は花音の家に行くことが多く、花音が俺の家に来ることもある。
しかし、俺たちはまだ泊まりで時間を過ごしたことはなかった。
……とは言っても、今回の旅行では俺と虎徹、花音と若葉の部屋割りになっているが。
「とりあえずどこ回る?」
「花音が真っ先にテンション上げるの珍しいな」
「そうかな? でも夢の国だから仕方ないよ!」
普段なら若葉が真っ先に声を上げそうなものだが、花音のテンションに気圧されてしまって黙っていた。
虎徹はと言うと、のらりくらりと花音の勢いに着いていこうとしているのか諦めているのかいまいちわからない。
「ま、まあとにかく……、どこに行くかだっけ?」
「そうそう!」
「二人はどこか行きたいところある?」
「んー、片っ端から乗ってく!」
「絶叫系以外」
どうもこう極端なのか。
二人の意見は真っ二つのため、この際虎徹の意見は無視しておこう。絶叫系……というほどではないが、虎徹が嫌だと言うものに乗らないとなるとかなり限られてしまう。
「じゃあ最初は……さっきまでハントしてたし、ハチミツでもハントしとく?」
「賛成!」
「それなら俺も乗れるな」
どういう理屈なのかわからないが、こうやって俺たちはハチミツをハントしつつ、夢の国を楽しんでいた。
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