第146話 青木颯太の想い
何を応援されているのだろうか。
俺は綾瀬の言葉で変に意識をしてしまっていた。
その意識をしているというのは、もちろん花音に対してだ。
「颯太くん、どうかした?」
「い、いや、何でも……」
「そう? っていうか今日の颯太くん、なんか変だよ。さっきも同じこと聞いちゃったし、それくらいなんか様子が違う」
確かにそうかもしれない。
日常とは違う状況になって、改めて意識することもある。
また違った見方ができるからこそ、気付いてしまうのだ。
しかし、花音に悟られることだけは避けたい。
俺は適当に誤魔化していた。
「修学旅行だけど、やっぱり進路が不安になるからかなぁ……?」
「……一緒に回っててもつまらない?」
「そういうわけじゃないよ。ただ気になっちゃって、たまに考えごとしちゃうだけ」
「……そっか」
もちろん嘘だ。
不安がないと言えばそれも嘘にはなるが、ごちゃごちゃと考えてしまう日常から離れた非日常で、俺はリフレッシュできている。
考えてしまうのは、やはり花音との関係だけだった。
それから俺たちは北海道を回り、テレビ塔や時計台など街を散策していた。
街並みを堪能するだけでもかなり満喫できる。地元の人からすると普通の光景なのかもしれないが、俺たちのような修学旅行に来た人にとっても特別感があるのだ。
「ここだけで二日くらい回れそう……」
「大袈裟じゃないか? まあ、言いたいことはわかるけど」
細かなところまで見て回れば、二日かけても足りないかもしれない。
しかし今日のうちに、すでに回れるだろうと思える主要な観光地は回ることができた。
そして、夜を告げるように日は沈み、辺りは暗くなっていた。
「まだ五時なのにね」
「もう十月だからな。ちなみに北の方が日が沈むのが遅いらしい」
「へぇ、詳しいね」
「……調べたからな」
「そうなんだ。何で?」
「……花音が夜景見たいって言ってたし、一応な」
若葉が特に言っていたが、花音も同じように夜景を見たいと言っていた。
地元だとどうしても見慣れてしまっているため、こういった特別な日に楽しみたいということだ。
「わざわざ私のために調べてくれたんだ」
からかうような目をしながらそう言う花音。
俺は恥ずかしさからそっぽを向く。
実際に花音の言う通りではある。
しかし、サプライズ……というほどのものではないが、隠れてしていたことを知られてしまったとなれば、なんとも言えない気恥ずかしさがあった。
自白しているのだから自分のせいではあるが、いつもと違って調子が狂う。
「ねえねえ、そろそろ別行動にする?」
変に意識をしてしまっていたが、タイミング良く若葉が声をかけてきた。
「……そうだな。暗くなってきたし、そろそろ動くか」
「じゃあ、また連絡取り合う感じで。多分ホテルで現地集合になると思うけど」
「了解」
「若葉ちゃん、藤川くん。楽しんできてね」
「……おう」
「かのんちゃんと颯太もねー!」
手を振りながら歩き出した二人を俺たちは見送った。
花音も若葉も夜景が見たいと言っているが、行きたい場所が違った。
例え一緒だったとしても、虎徹と若葉の邪魔をしないためにも別行動していただろうが。
「……じゃあ、私たちも行こっか」
「そうだな」
いつの間にか、からかわれていたことも忘れ、俺たちは花音の行きたいと言う場所を目指して歩き始める。
目的地は『藻岩山』と言う山だ。
今から登るとなれば時間があるはずもないが、どうやら遅い時間までロープウェイが稼働しているようだ。
俺たちは電車で山の最寄りまで移動し、そこからロープウェイに乗った。
「楽しみだなぁ……」
花音は一人でそう呟いている。
よほど夜景が見たいのだろう。
そして俺としても、好きな子と一緒に夜景が見れるという状況で緊張しないはずもない。虎徹と若葉と分かれてからというものの、喉が渇きっぱなしだった。
五分ほどすると中腹に到着する。
すぐにケーブルカーに乗り換え、次は山頂を目指す。
山頂までは中腹からたった二分と短い時間だった。しかし、さらに緊張が増している俺にとっては、中腹までよりも長い時間に感じた。
そんな時間が流れた後、ようやく山頂に到達する。
「わぁ……!」
展望台に行くと、花音は感嘆の声を上げた。
北海道では有名な景色というだけあって綺麗だ。
ただ、平日ということもあるからか、他にいるのは一組の客だけ。その客も俺たちと入れ替わるようにして降りていった。
つまり、次のケーブルカーが来る十五分後までは、少なくとも二人きりだということだった。
「……綺麗だな」
夜景は綺麗だ。
そして夜景に照らされた花音の笑顔……その瞳も綺麗に輝いている。
思い出の一ページとして、写真に何枚か納めながらも、ほとんどは目に焼き付けている。
写真に撮ること自体は思い出として
夜景を眺めるだけの時間。
その時間が俺には心地の良い時間に感じていた。
周りには誰もいないことも相まって、まるでこの世界には俺と花音の二人しかいないのかと思わされる。
「……ねえ、颯太くん」
「……どうした?」
「……私、やっぱり颯太くんには勘違いしてほしくないんだ」
唐突な言葉に俺の胸は抉られる。
しかし、その言葉の真意は、本当に俺が考えている通りなのかという疑問があった。
――だから聞くしかない。
「……勘違いってさ、どういうこと?」
「えっ?」
「花音の言動で俺が好きになったってこと?」
そう尋ねるものの、花音は困惑していて答えを出さない。
花音の言う『勘違い』と言う言葉を、俺は
そう思うと、俺は言葉が溢れた。
「……花音。好きだ」
真っ直ぐに花音を見つめる。
花音は相変わらず夜景を見たままだったが、そんなこと構わずに俺は花音だけを見ていた。
俺は勘違いをしていた。
そして俺の出した答えを言葉にせるだけだ。
もしこれが勘違いだったとしても、黒歴史の一ページが増えてしまうだけ。
何も言わなければ、一生黒歴史が増え続けるのだから。
「花音、好きだ」
「……そっか」
花音は目を合わせてくれない。
それでも俺は続ける。
「花音は俺にどうしてほしいんだ?」
「それは……、勘違いしてほしくない」
「その勘違いがどういう意味なのか、俺は知りたい」
そのままの意味で受け取れば、優しくされたことで好きになってしまったという勘違いだろう。
しかし、それなら花音の言動は明らかにおかしいのだ。
依然として、花音は口を開かない。
でも、ようやく目を見てくれた。
ただ、花音は前に素直になれないと言った。
何か理由があった上で断ったからこそ、勘違いしてほしくないと言ったのではないか?
俺はそう考えた。
だから――、
「花音、好きだ。結婚してください」
俺は改めて想いを伝えるのだ。
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