第145.11話 かのんちゃんは詣でたい!

「あけましておめでとう!」


 新年早々、若葉は元気だった。


「おー、おめでとう」


 俺が虎徹の家に行くと、すでに準備ができていた若葉によって迎え入れられる。

 そして部屋に入れば相変わらずのように花音と虎徹の二人はゲームに熱中しており、一段落ついたところで「おめでとう」と言葉を交わす。


 今日は一月一日。新年が明けて最初の日だ。

 花音と仲良くなってから初めての正月で、もうしばらくで高校二年生も終わろうとしている。

 俺たちは四人で初詣に出かける約束をしていた。


 いつものように虎徹の家に集まる。それから神社に出かけるという流れだ。

 そしていつもなら家の遠い花音は遅めに来るのだが、今日に限っては違った。


「……どうかな?」


「似合ってると思うよ」


 振袖に着替えている。

 そんな花音を褒めると、わずかに口元が緩んでいるように見えた。


 今日の花音は朝から若葉の家にいた。浴衣は一人で着れるとのことだが、振袖となると手助けがないと難しいらしい。

 それもあって早めに集合しており、俺が虎徹の家に到着した頃にはもう三人とも揃っていた。


「来て早々だけど、早速行くか?」


「そうだねー。人もそこそこいたから、時間かかりそうだし」


「そうなのか?」


「うん。若葉ちゃんちに行く前に通りかかったけど、結構すごかったよ」


 花音の家は学校の真反対にある。そして行こうと考えている神社は、少しだけ学校方向に向かったところにあった。そのため花音は通りすがりに様子を見てきたということだ。


「まあ急ぎたくないし、ゆっくり行こー!」


 最終的には若葉が取り仕切り、俺たちは神社へと向かった。




 そして神社に着いてからはお参りをする。

 お賽銭は願掛けとして、『ご縁があるように』ということで五円玉だ。


「そういえば、お賽銭って意味あったよね?」


「ああ、十円と五百円はあんまりよくないって話しな」


 若葉のふとした疑問に、虎徹が答えた。


「十円は遠縁だから縁が遠のくとか何とか。五百円はこれ以上硬貨がないから効果がないってことらしい。まあ、言葉遊びみたいなもんだな」


「へえ。五円はそのままだけど、一円とか五十円とか百円は?」


「確か一円は縁があるとかでそのままだし、百円も似たようなもん。百個の縁とかだったかな? 五十円は五円の十倍だから十分な縁とかそういうの。諸説あるけど」


「虎徹……、物知りだな」


「俺っていうか、親がそういうの気にするから教えられたんだよ」


 虎徹はため息を吐いている。

 必ずしも必要な知識というわけでもないが、知っておいて損はない雑学というのだろうか。


「あと、おみくじも木に結んだほうがいいのと結ばない方がいいのがあるんだよね?」


「正直どっちでもいいらしい。凶とかは結んだ方がいいって聞くけど、諸説が多すぎて何とも言えないな。結局は書かれてる内容が大切ってことだし」


「おぉー……」


「ちなみに俺は凶だけは結んで、それ以外は持って帰ってる」


 気にはなるがそこまで気にしていなかったことだ。

 いつも初詣には来ているが、どうもそこまで意識をしたことがない。

 ある意味勉強になった。


「おみくじと言えば、みんなおみくじ引く」


 花音はおどおどとしながらも、目を輝かせてそう尋ねてくる。

 それに真っ先にこたえるのは若葉だ。


「もちろん!」


 俺と虎徹も続くようにして、「引こうかな」「せっかくだしな」と言う。

 おみくじはどこまで信じられるのかわからないが、気持ちを引き締めるためにもいいのかもしれない。そう思って毎年引いている。


「じゃあ行こ! 早く引きたいんだぁ!」


 花音は嬉しそうに声を上げ、おみくじのある方に足早に向かう。

 若葉は花音の後を追いかけていくが、俺と虎徹はゆっくりと二人を追いかけていった。


「じゃあ、私から!」


 花音が最初におみくじを引く。

 中身は……、


「す、末吉……」


 何とも言えない結果だ。

 悪くはないが、めちゃくちゃ良いというわけでもない。


旅立旅立ちは『用心せよ』って。どうなのこれ? あっ、でも学問は『安心して勉学せよ』だって」


「受験生だからねぇ。……それよりも、恋愛関係とか気になるな!」


「えぇ……。んっと、待ち人『くる』って。恋愛が……『誠意にこたえよ』だってさ」


「おぉっ!」


 何故か花音本人よりも、若葉の方が興奮気味だ。

 そして今度は若葉がおみくじを引く。


「私中吉だ! って、吉より悪いんだっけ?」


「上から大吉、吉、中吉、小吉、末吉、凶だな」


「じゃあ真ん中くらいかぁ。……ええと学問は、私も花音ちゃんと一緒で『安心して勉学せよ』だって。待ち人は『遅いがくる』で、恋愛が『思うだけでは駄目』ってさ」


「ほう……」


 虎徹は少しばかり反応する。

 やはり幼馴染として気になるところもあるのだろう。


「次は虎徹引くか?」


「いや、颯太が引いてくれ」


 譲られたため、俺はさきにおみくじを引いた。

 すると……、


「おっ、大吉」


 最高の運勢となる大吉だ。

 内容を見る限りも良いことばかり書いてある。


「学問が『安心して勉学せよ』だって。二人と一緒か」


「颯太が勉強してどうにかなるの……?」


「失礼な」


 ――全くその通りではあるけども。


「恋愛系は?」


「待ち人『くる』で、恋愛が『誠意を尽くせ』だって。そもそも好きな人いないんだけど」


「もしかしたらこれからあるのかもね」


「そうだと良いんだが……」


 一応は男子高校生なのだ。好きな人と付き合いたいというこだわりはあるものの、そもそも好きな人ができないのが悩みだ。

 もしかしたら今年は何かが起きるのかもしれない。


「じゃあ、最後は虎徹ね!」


「ああ。……まあ、凶とか引く確率って高くないからな」


 そんなフラグを建てて虎徹はおみくじを引く。

 フラグの効果は恐ろしかった。


「……凶、だと?」


「フラグ回収乙」


 虎徹は落胆しているが、確率が低いものを引いているのだからある意味幸運だと思った方がいいかもしれない。


「学問『安心すれば悪し』、待ち人『くること遅し』、恋愛『誠意を尽くせ』だって」


「私たちと同じような内容もあるけど……そういうの多いね」


 俺たちは良いことが書いてあれば悪いことも書いてある。

 しかし虎徹は微妙な内容ばかりだ。


「……心しておこう」


 それぞれバラバラの結果となったが、改善の余地はある。

 それに、おみくじの内容が全部で、すべて当たるわけでもない。

 気を付けて行動すれば、おのずと結果も変わってくるのだ。


 新たに気持ちを切り替えて、これからの一年を過ごしていきたい。

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