第120話 かのんちゃんは揃えたい!

「それじゃあ、プレゼント渡してくよー!」


 若葉の進行でサプライズパーティーが進んでいく。


「まずは妹として私からで!」


 凪沙がそう手を挙げて立候補する。

 そして小さい小包みを渡された。


 俺は早速開封していく。


「……腕時計?」


「おにいからもらったものよりは多分安物だけどね」


 五月に凪沙の誕生日は過ぎており、その際に俺も凪沙に腕時計を送った。

 そのお返しということだろう。


 デザインはシンプルな黒の革ベルトで、アナログこ腕時計。

 時計はたまにつけるが、俺が持っているのはラバー製のアウトドアなどでも使えるデジタルの腕時計だ。

 高校の入学祝いに親からもらったものだった。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


「うん! その時の気分とかで、今持ってるのと使い分けてくれてもいいし」


「そうだな」


 もらったものを使いたいとはいえ、やはり用途によっては考えなければいけない。

 街中でブラブラとするだけならまだしも、運動する際につけていくなら壊れにくい方が適している。


「じゃあ次は私にしようかなぁ」


 今度は若葉が立候補する。


「好みかどうかわからないけど、勉強のお供にはなると思うから」


 そう言って渡してきたのは紙袋だ。

 中を覗くと、色々と入っている。

 その中でも一つは透明な包装をされていた。


「ティーセット……ってところかな?」


「うん!」


 見えていたのは紅茶やコーヒーなどが入ったギフトセットだ。

 そしてもう一つ入っている四角の箱を取り出し、包装と箱を開ける。

 中には青色の模様が入ったマグカップが入っていた。


 青は俺の好きな色だ。

 苗字が青木だからという安直な理由だが、若葉はそんなちょっとした話を覚えていたらしい。

 ……もっとも、持ち物は青が多いからということもあるかもしれないが。


「これは嬉しいな。気になってても自分ではあんまり買おうと思わないし。受験のお供にさせてもらうよ、ありがとう」


「喜んでもらえたなら良かったよ!」


 若葉はそう言って笑顔を見せた。


 お高めのティーセットは、気になっていても自分で買おうと思わない。

 好きな人にとっては普通に買うものかもしれないが、俺は特別拘りがあるわけでもないため、気になっていても結局のところ安いインスタントで済ませてしまう。

 インスタントも決してバカにはできないが、やはりなかなか普段は手が出ないものの方が気分は上がるのだ。


 そして次は有無を言わさず虎徹が紙袋を持ってくる。


「布教兼お祝いだ」


「……んん?」


 疑問に思いながら中を覗くと、買いたくても他に買いたい物があって手を出していなかった虎徹からおすすめされたマンガ全巻だった。


「連載中だから、続刊は自分で買ってくれ」


「そりゃな。ありがとう」


 二十巻ほどのためなかなか手が出なかったが、勉強の息抜きに読ませてもらうとしよう。


「じゃあ次はわた――」


「私が先に渡したいです!」


 花音が小包みを持って一歩近づこうとした時、遮るようにして双葉が声を上げた。


「若干ネタもあるので、大トリはキツイです!」


「ネタって……」


 双葉の言葉に俺は苦笑いする。


 花音は「ど、どうぞ」と引き気味に譲ると、双葉は恐る恐るソファの裏に隠していたトートバッグを出した。

 中には大きな四角の箱が入っているのがわかる。


「良い袋がなかったのでバッグはおまけです! ……他の方がちゃんとしすぎてるので見劣りするかもですが」


 軽いノリでのプレゼントはあるため、プレゼントを貰う側としてでもなければ嬉しい。

 もちろん、変な物……例えばその辺で拾った石とかであれば反応に困るが、見た限りそういうものでもないらしい。


 意を決してバッグの中を見ると、そこにはバスケットボールが入っていた。

 そして申し訳程度に青色のリストバンドが添えられている。


「あとこれも、ネタなしで選んだものです」


 そう言って今度は小さめの紙袋を手渡される。

 オーバーサイズの白いパーカーで、胸辺りには申し訳程度にロゴが入っているシンプルなデザインだ。

 ボールとセットで渡されると運動着のように感じるが、普段着で着れるようなものだ。


 双葉はネタと言ったが、俺はそう感じない。


「……いや、普通にありがとうだよ。ネタって言うからどんなものかと思ったけど」


「そう、ですか?」


「ああ。俺が使ってるボールって千円くらいの安いやつだし、最近暑いからリストバンドもありがたい」


 プレゼントの値段を考察するのは失礼だが、バスケをしていた身としては、ボールの値段は大体わかってしまう。

 スポーツ用品店などでカゴで入って売られているボールは安く、一個一個箱に入っているのは少しお高い二、三千円くらい。


 俺が持っているのは中学生の頃に買ったカゴ売りされているボールだが、最近になってたまに運動をする際にせっかくだからと良いボールを買おうか考えていたところだった。

 凪沙は高めのボールを使っているが、自分で買っていたため勝手に使うわけにもいかず、俺も欲しかったのだ。


「パーカーも、今持ってる服に合わせやすそうだ」


 シンプルめの服をよく着るため、シンプルなデザインの服の方が合わせやすい。


 俺のために考えて用意してくれたことを考えると、それだけでも嬉しいが、ものを双葉はプレゼントしてくれた。


「そ、それなら良かったです。……バスケ関連に関しては私の誕生日のお返しのつもりだったので」


 双葉は六月に誕生日を迎えていた。

 その際に当日とはいかなかったものの、俺は双葉と出かけてバスケットシューズをプレゼントした。

 だからこそのバスケ関連ということだろう。


「……なんか、私のハードル上がっちゃったなぁ」


 花音は双葉のプレゼントを見ながらボヤいている。

 ネタと言うから譲ったは良いものの、思いの外ちゃんとしたプレゼントだったからだ。


「こうやって祝ってもらえるだけありがたいよ」


「それならいいん……いや、良くないよー。責任重大」


 そう言いながらも、花音は先ほど見せた小包みを渡してくる。


 ボリュームに関しては双葉はすごかったが、小包みというとなかなか想像できない。


 俺はその小包みを開けると、中のものに既視感を覚えた。


「あれ? これって……」


「多分お察しの通り。前に一緒に見たイヤホンだよ」


 以前に花音と家電量販店に行った際に見たものと同じものだ。

 しかし、花音が買ったのはピンクで、このイヤホンは青色だ。


「自分用に買ったやつ良かったからさ。……まあ、プレゼントしたいって思ってたから探ってたっていうのもあるけど」


 どうやら俺が気付かないだけで、何気ない会話の中で探りを入れられていたらしい。

 言われてからようやくピンときた。


「てか、同じ種類って……」


「そう、お揃い」


 そう言った花音の顔は赤みを帯びている。

 軽く化粧はしているはずだが、その化粧では隠せないほど赤くなっていた。


 恥ずかしそうに照れている花音を見ると、俺まで何故か恥ずかしくなってくる。

 俺は視線を逸らす。


「……ありがとう。嬉しいよ」


「……良かった」


 そんな微妙な雰囲気になったが、双葉の「それじゃあ、みんなでゲームでもしましょう!」という一言で微妙な雰囲気は離散した。


 一日早いが、楽しい誕生日を過ごすことができた俺は満足だ。

 しかし、明日も……今度は四人で出かける予定は変わらないため、俺の楽しみはまだ続く。

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