第113話 藤川虎徹は踏み切れない
「悪い。俺が何言っても外野から首を突っ込むうざいやつになるけど、言っていいか?」
「ああ、いいぞ。というか頼む。そのために話してるんだ」
こういった話に第三者が介入すると面倒くさいことになる。
しかし、虎徹はそれを求めていた。
それなら、今俺が思っていることをはっきりと言おう。
「虎徹は考えすぎだ。若葉が嫌がる可能性はあっても、むしろ望んでいる可能性だってあるんだ。それに、待たせるのが枷になるって言っても、どれだけ待たされても虎徹がいいって思ってくれてる可能性もあるだろ?」
「それは、そうかもしれないが……」
「虎徹はどうしたいんだ? 伝える伝えないじゃなくて、若葉にこれからどうしてほしいのかってことと、若葉との関係をどうしたいのかってことな」
虎徹は若葉のことを考えている。
しかしそれはあくまでも考えているつもり……ということは虎徹自身自覚している。
それなれば結局のところ、虎徹の気持ちを伝えた上で、若葉の気持ちを知るしかないのだ。
「言っちゃ悪いが、今付き合っても別れることなんていくらでもある。俺たちは高校生だ。『結婚したい』って言ってるカップルがすぐに別れることくらい知ってるだろ?」
虎徹の気持ちを聞き、俺がそう言えばどんな反応が返ってくるかくらい容易に想像ができた。
だからあえて言ったのだ。
「付き合うんなら別れたくない。でも関係を壊したくないから、簡単に付き合うなんて言えない。どっちも俺にとっては大切だから」
「……じゃあそう言えよ」
俺はたまらず声を荒げてそう言った。
「少なくとも今の状態で、関係が壊れないわけないだろ? すでに壊れかけてるんだ。話すのはダメだって言うけど、それならずっとこのままだぞ? それならはっきりと言えよ、『好きだから付き合えない』って。前みたいにじゃなくて、ちゃんとした理由も。今、虎徹は若葉のことを傷つけているんだ」
虎徹は大切な友達……親友だ。
ただ、若葉だって同じだ。
どちらもこれ以上傷つかないためには、結局は虎徹が伝えないといけない。
話が逆戻りしているが、そうしなくては話は始まらないのだから。
「そうか……、そうだよな」
納得したように、虎徹は言葉を噛み締めた。
そしてあっさりと言葉を
「伝えないといけないことくらいわかっていたよ。でも、俺はビビってたんだ。多分俺は、颯太に背中を押してもらいたかったんだな」
「正直、話を聞いてる途中でそんな気はしてた」
こうだったら、ああだったらと考えて、一歩も前に進めていなかった。
こう伝えたら若葉はこう答える。……そう予測するのは簡単だが、その答えは若葉にしかわからない。
わかった上でなんとか上手い理由を見つけて逃げようとしているのは、話を聞いていればわかっていた。
俺だって、同じ立場ならそうすると思うから。
似てないようで、俺と虎徹は案外似てるのかもしれない。
「まあ、背中を押すっていうか、蹴っ飛ばしてる感じだけど」
「間違いない」
俺は虎徹のような上手い理由を見つけられない。
最後はゴリ押しで、虎徹の気持ちを若葉に伝えるように言うしかなかった。
「……なあ、頼みたいことがあるんだが」
「なんだ?」
「一人だと土壇場でビビると思うから、来てくれないか?」
「お、おう……」
……なんと言うか、意外にも女々しい頼みだ。
普段の虎徹なら、『自分で決着をつける』と一人で解決しそうなものだが、やはり虎徹にとって若葉という存在は簡単なものではないのだろう。
「……てかさ、このことって本宮も春風も知ってるよな?」
「まあ知ってるな。少なくとも告白の部分は」
最後の虎徹も好きだと伝えたところは知っているかどうか知らないが、虎徹から話を聞く前までの俺と同じことは知っている。
俺の言葉に虎徹はため息を吐く。
「流石に二人にも言わないといけないよな……」
「無理にとは言わないけど、気にはなってるだろうな」
昨日は別れ際まで、二人とも若葉のことを心配していた。
告白シーンを目撃してしまった時点で、すでに無関係とは言えない。
結果がどうなるにしても、虎徹の心情を知らなければモヤついた気持ちは残るはずだ。
「……もういっそのこと、若葉と二人がいいならまとめて話した方が楽かもな」
もう割り切ったのか、諦めたのか、赤裸々な告白を待っているにも関わらずそんなことを言い始める。
「それ公開告白じゃね?」
「昨日の話聞かれた時点で今更感しかないな」
そう言われてしまうと、虎徹自身がいいのなら俺が止める理由はなかった。
「……まあ、虎徹がいいならいいけど。とりあえず、俺の方から伝えておけばいいか? 自分からは言いにくいだろ?」
「……そうだな、頼む」
変な形にはなってしまったが、これで話はまとまった。
俺は発破をかけて二人が納得する形に収まればいいと思っていた。
正直、ここまで首を突っ込むつもりはなかった。
ただ、本人がいいと言うなら、とことん首を突っ込もう。
俺の大切な人たちなのだから。
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