第195話 青木颯太はため息も出ない
パレードを見る花音の横顔が綺麗だった。
煌びやかなパレードが映る瞳は輝いて見え、俺はパレードよりも花音の輝く瞳に目を奪われていた。
いつも思っているが、改めて実感してしまう。
こんなにも可愛い花音が自分の彼女でいてくれることに、俺は嬉しさと照れが混じり合っている。
宿泊するホテルに戻ってからも、その余韻はなかなか抜けないでいた。
「秋葉原ー!」
「花音ちゃん、元気だねー?」
「いっぱい寝たからね。それに、なんて言ったって
嬉しそうにはしゃぐ花音。
昨日の幻想的な様子とは打って変わって弾けるような表情を見せているが、依然俺の心は揺さぶられている。
夢の国を堪能してホテルに戻った後、流石にみんな疲れていたため男女別の部屋から出ることはなく、すぐに寝てしまったのだろう。
しかし疲れた体とは裏腹に、なかなか寝付けずにいた。
疲れが抜けきれず寝不足のまま、俺は今日を迎えることとなった。
「颯太くん、大丈夫?」
「えっ? う、うん。大丈夫」
「それならいいけど、ちょっと疲れてる顔してるからさ」
花音にはお見通しだったようだ。
それでも楽しい時間に水を差すわけにはいかず、俺は曖昧に濁した。
「枕変わって寝付けなかっただけだから」
「……そっか」
やや疑問に思ったようで、花音は首を傾げながらも飲み込んだ。
俺がこの時間に水を差したくないことを察してくれたのだろう。
「とりあえず、どこ回るの? 私も色々知りたいけど、まだアニメとか詳しくないし……」
「大丈夫! 私も来たことないけどリサーチしたから!」
「ちなみに俺も来たことない。適当に目に入ったものを見たいだけだから期待するな」
……どうも先行きが不安だ。
花音はリサーチをしたと言った。
しかし、俺の嫌な予感は的中していた。
「……俺、ちょっとねこのあな行ってくる」
「私、スイカブックス行きたい」
「えっ、私はどうすれば……」
「……はぁ」
それぞれが別行動をしようとする。
……正確には花音と虎徹の二人が自由だった。
よくわかっていない若葉は、ただ戸惑うばかりだった。
「ね、ねえ颯太。ねこのあな? とか、スイカブックス? って何?」
「……若葉にはまだ早いよ。二人が見終わるまで、俺らは適当に時間潰そうか」
「う、うん……」
原作すら未履修な若葉にとって、いきなり同人誌は厳しいだろう。
それに俺も去年の冬に凪沙と一緒に双葉の応援に来た際、帰りがけに興味本位で入ってみたことがある。
入り口付近には健全なものが並んでいて安心したのも束の間、スイカブックスのレジ前は十八歳以上しか買えない本が並んでいた。
四人のグループに、『適当に散歩してる』とメッセージだけ送り、俺たちはその場を後にした。
「……本当はアニメのこととか教えてほしかったんだけどね」
「あとでもっと初心者向けのところは行くから、それまでは食べ歩きでもいいんじゃない?」
「それもそっか! じゃあ、タピオカ飲みたい!」
やや流行から遅れてはいるが、若葉の要望通り目に着いたタピオカの店に寄る。
こういったタピオカ専門店で飲むことは初めてだが、想像以上に種類が豊富で楽しんでいた。
タピオカを片手に、俺たちは適当に外から店を眺めている。
……正直、今は花音と一緒にいると緊張してしまうため、若葉といる方が落ちつけているかもしれない。
「それで、花音ちゃんと何かあったの?」
「んなっ!?」
「颯太わかりやすすぎ。私たち、ずっとじゃないにしても三年の付き合いだから大体わかるよ?」
虎徹と言い、若葉と言い、どうしてこうも察しがいいのか。
もしくは、ただ俺がわかりやすいだけなのかもしれないが。
「花音と一緒にいると緊張しちゃって……」
「うんうん、花音ちゃん可愛いからね。……それで?」
「えっ?」
「えっ?」
それでも何も、それ以上のことはない。
ただ意識をしてしまっているだけなのだ。
「え、それだけで悩んでるの?」
「悩んでるって言うか、意識して話せないだけだけど……」
どうやら流石に俺の全部は察せられてはいないようだ。
理解してくれるのは嬉しい反面、すべてを悟られたらそれはそれで見透かされているようで怖さもある。
「なーるほどね。……乙女かっ!」
「えぇっ!?」
「結構付き合い長いじゃん? 確かに緊張したり可愛いって思ったりするかもしれないけど、そんなにキョドるほど?」
「……キョドってた?」
「少なくとも私は気付いたよ」
指摘されてしまうと恥ずかしさしかない。
穴を掘って埋まっていたいくらいだ。
「言っちゃあれだけど、悩むようなことじゃないんじゃない? まあ、私が勝手に突っ込んだことだし、悩んでる人に言っても悩んでるものは悩んでるんだけどさ」
「そうだよな……。わかってるんだけど、なんか不安があるんだよ」
「不安?」
聞き返され、俺はその時に気が付いた。
つい口からこぼれてしまったが、不安があると思っていたわけではない。しかし、自然とその言葉が溢れていた。
「……もしかしたら、心のどこかで花音みたいに可愛い子と、俺が付き合っててもいいのかって不安があったのかもしれないな」
振り返ってみると合点がいく。
釣り合ってるかどうかというのは考えるのも花音に失礼だとわかっている、それでもやはり気にしてしまうものだ。
輝いている花音の隣を、俺は果たして歩けるのだろうか。
「わかってると思うけど、花音には言わないでくれ。花音が気にしてないことも、気にしてどうにかなることでもないことはわかってるから」
「うん、わかってるよ。……それに、颯太自身自覚してるなら、私が口出ししなくても良かったね」
「いや、おかげで気付けることもあったから、ありがとう」
「どういたしまして!」
完全に解決したわけではないが、解決の糸口は見つけられてような気がする。
そうやって話している間に、虎徹から『終わった』と連絡が来ていた。
少しして花音からは『ちょっと
最近集め始めていたことは知っていたが、また別の扉を開こうとしているようだ。
虎徹と合流した後、俺も花音と一緒に
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