第139.24話 青木颯太は忍びたい!
「ねえ二人とも! クリスマスの予定は?」
「あると思うか?」
「愚問だな」
若葉の問いに、俺と虎徹は即答する。
悲しくもなるがこれが現実だ。
俺と虎徹は彼女いない歴
どうしてこんなにも悲しい思いをしなくてはならないのだろうか。
「若葉、むしろ俺たちと一緒にいて、予定があるように見えるか?」
虎徹の言葉に、俺は「そーだそーだ」と心の中で同意する。
しかし若葉の答えは想像のものとは違った。
「うん。だって颯太は双葉ちゃんとかとの予定があるかもしれないし、虎徹だって家族仲良いじゃん」
どうやら俺たちの心は
別にクリスマスは恋人と過ごさないといけないということが決まっているわけではない。
若葉は純粋に俺たちの予定を確認しただけで、俺と虎徹は勝手に勘違いしていたのだ。
「……なんかすまん」
「悪いな……」
「ん?なんで謝るの?」
若葉はキョトンとした顔でそう尋ねるが、俺たちは無言のままだ。
「……あっ、俺は夜中に用事あるから、夜までなら大丈夫」
「流石に夜中までは考えてないよ。……まあ、二人とも予定がないなら丁度良かった」
若葉はそう言って笑顔を見せる。
何かを考えているような含みのある笑顔だ。
「うちでパーティーしよ!」
そんなことがあって、俺たちは若葉の家にお邪魔していた。
「そ、颯太さん。お久しぶりです」
「初花ちゃん、久しぶり。……って、そんなに久しぶりかな?」
「一ヶ月ぶりくらいじゃないですか? 私にとっては久しぶりです」
小学生と高校生の感覚の違いもあるのだろうか。
初花ちゃんはよく若葉についてきて、虎徹の家で一緒に遊んでいる。虎徹と若葉が幼馴染なのだから、それも何らおかしなことではない。
俺はそこで初花ちゃんとも話をする機会は多かった。
しかし、確かにここ最近は会っていない。予定が合わないということもあるが、初花ちゃんは寂しかったのだろう。
凪沙という妹がいる俺にとっては、初花ちゃんは妹のような存在だ。
友達とはいえ同級生で女子を意識してしまう若葉よりも、初花ちゃんと話すときは緊張しない。
「これ、クリスマスプレゼント。好みかどうかわからないけど、学校に使えたらって思って」
「わっ……ありがとうございます」
センスはあまりないためありきたりかもしれないが、もこもことした手袋だ。茶色で地味な見た目ではあるが、可愛い熊さんが入っているため使えないこともないだろうと考えた。
……凪沙が小学生の頃に似たようなデザインのものを使っていたということで選んだものだ。
「どうしたのー? ……って、プレゼントかぁ。初花、良かったねぇ」
「うん!」
若葉はお姉ちゃんらしく、初花ちゃんの頭を撫でながらそう言った。
しかし、一瞬俺に向けた『いいなぁ』と言いたげな視線を俺は見逃さなかった。
「若葉にも用意してるぞ」
「やったね!」
ちょっとしたものだが、それで喜んでくれるのなら嬉しいものだ。
俺はバッグに入っているプレゼントに目を落としていた。
あまり長い時間は遊べるわけもなく、ご飯とケーキを食べてプレゼントを渡すと、キリのいいタイミングで俺は若葉の家を後にする。
この後にもっと大きな仕事が残っているからだ。
俺はいつも通り風呂に入って、日付が越える前に布団に入り意識を落とした。
……そしてアラームが鳴り響く。
「……もうこんな時間か」
時刻は三時。
それは昼ではなく、夜中の三時だ。
寒さに震えながら無理やり布団から這い出ると、足音を立てないように押し入れに隠してあるものを取り出した。
そしてゆっくりと部屋から抜け出し、一室に入る。
「……爆睡しておられる」
気持ちよさそうに寝ている凪沙の寝顔をしばし眺めた後、俺は枕元に用意してあったものを置いた。
それは二カ月も前からリサーチしていた凪沙が欲しがっていたものだ。
当日までは素知らぬふりをして、クリスマスプレゼントなんて忘れているように振舞っていた。
そして、俺が選んだものを凪沙が買っていないのを確認しつつ、俺は密かに用意していたのだ。
凪沙も中学二年生。サンタさんを信じていない年齢だ。凪沙も信じているフリをしているのを俺は知っている。
しかし、反応が面白くて可愛い妹だからこそ、ついこんなことをしたくなる。
俺は任務を遂行すると、起きていないかを確認するためにもう一度凪沙の寝顔を眺めてから自室に戻った。
翌朝、嬉しい悲鳴で起こされるのは毎年のことだった。
そしてプレゼントを片手に興奮気味で俺に報告してくるあたり、わかっているのだろう。
凪沙がサンタさんを信じていないことを知っている俺と、それを知らない凪沙。毎年行われる兄妹の茶番が今年も行われた。
花音と仲良くなる約一年前。
俺たちが高校一年生の頃のクリスマスイブと、クリスマスの時の出来事だ。
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