第15話 この四人は変わらない
「おいコラ、本宮ァ!」
「ご、ごめんなさい……」
「流石に許せないんだが?」
「だって、これは言わないといけないと思って……。全部虎徹くんが悪いんだよ!」
「だからってなぁ……」
怒り心頭の虎徹が花音に詰め寄っている。
助けを求めるような視線を向けられるが、俺は知らんぷりをかます。
裏切られたとでも言わんばかりに絶望した顔の花音がいるが、今回に限っては虎徹の味方だ。
……いや、花音の気持ちもわからなくはないけども、それより虎徹に同情してしまう気持ちの方が強かった。
「かのんちゃんはわるくないんだよ!」
そう言って小さな天使が花音の見方をする。
まさかの救世主に、絶望に満ちていた花音に希望の光が差し込んでいた。
「でもなぁ……」
「だって、おとうさんとおかあさんのなれそめばなし? はおかあさんからきいてたから!」
「若葉……?」
裏切られたのは虎徹の方だったらしい。
若葉は「ギクリ!」とわざとらしく声を上げ、虎徹と目を合わせようとしなかった。
そっちはそっちで戦いが始まると、花音は救世主である小さな天使の頭を撫でていた。
「
「もみじね、すききらいもしないし、はちじにはねるいいこなんだよ!」
「そうだねー、よしよし」
「へへへへ」
花音はそうやって、六歳となってもうすぐ小学生になろうとしている藤川家長女……藤川紅葉を猫かわいがりしていた。
俺と花音が結婚してもうすぐ七年。
すでに三十歳を超えた今でも、俺たち四人の仲は相変わらずだった。
ただ、変わったことと言えば、お互いに子供ができたことだろう。
「もみちゃ! あそぼ!」
「はーい! ……おとうさんとかのんちゃんのけんかもおわったから、もみじはこうたくんとあそんでるね!」
「うんうん。
「まかせて! わたしおねえちゃんだから!」
早生まれでもうすぐ二歳になる青木家の長男……青木幸太にお姉ちゃん風を吹かせるのはいつものことだった。
入れ替わるようにして、またしても小さな天使がやってくる。
「ねえ、てつおじさん」
「お兄さんな? それでどうした?」
「おじさんって、たまにおかあさんのことを『ほんみや』ってよんでるけどなんで? みょーじはあおきだよ?」
「お兄さんな? ……ああ、
俺たちが結婚してからというものの、花音は『虎徹くん』と呼び、虎徹は『花音』と呼ぶようになった。
ただ、いまだに慣れていないらしく、時折『本宮』呼びが出ることもあるのだ。
「へー、そうなんだ。……それならわたしとこたろうくんがけっこんしたら、わたしはふじかわになるんだね!」
まだ四歳の青木家長女……青木颯音は高らかに宣言する。
同じく四歳の藤川家長男……藤川
とはいえ、虎太郎本人は……、
「けっこん……? はやねちゃんのことすきだからするー」
こんな感じで呑気なものだった。
女の子の方がませているとはよく言うが、うちの子供たちは例外ではなくませているらしい。
「だって、颯太くん。颯音、結婚しちゃうんだってさー」
「そ、そうか……」
「寂しいんでしょ?」
「ま、まだ先の話だから、そんなことないぞ?」
「動揺隠せてないからね?」
ケラケラと笑いながら花音はからかってくる。
……まあ、こうして幼馴染の関係のため、二人が将来的に結婚するのは良いんだけども。
こんなに小さくて可愛い娘が将来的に結婚するというのは、考えてみると寂しくて仕方ないが。
そんなことを考えていると子供たちは遊び始め、俺たちはテーブルに移動し、子供たちの様子を見ながらゆっくりとお茶を飲んでいた。
今日来た目的は子供たちを遊ばせること……ということもあるが、ついに一軒家を購入して引っ越した藤川家をお祝いがてら遊びに来たのだ。
ささやかなプレゼントを渡しつつ、俺たちは日ごろを疲れを癒すように、子供たちを眺めながら話し始めた。
「ふと思ったんだが、虎徹は捻くれてるし若葉は元気すぎるのに、虎太郎は誰に似たんだ……」
「捻くれてるとはなんだ。……そうだな、確かに俺たちに似てないな」
紅葉の性格や容姿はマイルドにした若葉と言って差し支えないだろう。
虎太郎の顔は目つきの悪さ以外は虎徹そのものだった。
しかし、性格はどちらとも似つかないほどのんびりとした性格をしている。
「虎徹の小さい頃にそっくりだよ?」
「えっ」
「目つきだって、虎徹も小学生に上がる頃から悪くなって来たし、性格だって小学生の中学年くらいまでは結構不思議ちゃんんところあったからね」
「嘘……だろ?」
「こういうのって、本人は自覚ないよね」
……つまり、虎太郎はこれから目つきが悪くなる可能性があるのか。
虎徹の両親もそうだったが、藤川家は遺伝的に仕方ないのかもしれない。
「……というか、それなら颯音の方はどうなんだ? 幸太はまだ物心がついてないにしても、颯音は結構良い子だろ?」
「それ、俺たちのことディスってないか?」
「……気のせいだ」
いや、颯音が良い子なのはそうだけども……。
「ぶっちゃけ、颯音は猫被ってるからなぁ」
「そうなのか?」
「家でも良い子なのは良い子だけど、俺のことをよくからかってくるんだよ、誰かさんに似て。外ではお父さん大好きっ子って感じなのにな」
「ほう……」
何故か颯音の方から視線が向けられている気がするが、気のせいだと思って振り向かないようにする。
見なければ視線を向けられていることにはならない、シュレディンガーの颯音というやつだ。
そんなしょうもない会話をしながら、俺たちは時間を過ごしていた。
夕方にもなると、デリバリーで寿司を取る。
普段ならファミレスでご飯を食べているが、せっかくの新居祝いなのに外で食べるのはもったいないという若葉の提案だった。
ご飯を食べて、デザートとして買っておいたお高めのプリンを食べる。
七時を超えた頃には、子供たちもうつらうつらとし始めた。
「さて……、俺たちはそろそろ帰るとするかな? 今日はありがとうな」
「いやいや、こちらこそだよ。……と、その前に」
「ん?」
「一つだけ報告したいことがあるんだ」
立ち上がろうとしたところで若葉の言葉に、俺は座り直す。
虎徹と若葉は意味深に目配せをすると、頷き合っていた。
「実はね……、三人目ができたんだ」
衝撃的……というほどでもないが、めでたい報告に祝福の声を上げようとする。
しかし、その言葉は小さな天使に遮られた。
「ほんとう!? たのしみだな!」
今まで半分寝かけていた颯音は一気に覚醒すると、喜びの声を上げる。
何事かと、完全に寝ていた幸太は驚いて起きていた。
「こうた、おにいちゃんになるね!」
「にいちゃ?」
幸太に言ってもいまいち理解はできていない。
そもそもうちの子ではないんだけども……。
「いや、めでたいな」
「うんうん、おめでとう!」
「ありがとー!」
嬉しそうに笑いながらも、祝福されたことに涙を浮かべている。
そんな祝福もそこそこに、子供たちの寝る時間のことも考えて、少しだけ話をした後に俺たちは帰ることとなった。
子供たちを寝かしつけた後、俺は異様にドギマギさせられていた。
それは子供たちが寝てからというものの、花音がやけに俺にくっついてくるからだ。
「若葉ちゃんと虎徹くん、三人目だってね」
「そ、そうだな」
「私たちもいいんじゃない?」
言われるんじゃないかとは思っていたが、本当に言われてしまうと俺の緊張は高めるばかりだ。
高校生の頃は美少女で、普通に話すだけでも緊張させられていた。
しかし、美少女から美女になった花音に対して、普段はまだしもこういう時はいまだにドキドキとしてしまうのだ。
……そう、こうしてからかってくるときは。
「……また考える」
「ちょっと想像したでしょ?」
「何をだよ!」
「なんでもー」
本気かどうかわからないように花音は笑っている。
ただ、その頬はほんのりと赤くなっているような気がした。
俺たち四人の関係は、形を変えながらも根本は変わらない。
これからも続いていく、大切な関係だ。
そして、俺と花音は相変わらずの調子で、これからも続いていく。
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