IFルート 綾瀬碧編

第1話 綾瀬碧は付き合えない

「私、青木くんが好き。もちろん、恋愛的な意味で」


 期待しているわけではない。

 ……でも、まったく期待していないわけでもなかった。


 元々玉砕覚悟での告白で、この告白が上手くいく可能性なんて限りなく低いものだと思っている。


 ただ、伝えたかっただけ。


 遊園地に来た、初めてのおでかけ。

 私としてはデートのつもりだけど、青木くんはそうは思っていないと思う。

 最後の観覧車に乗っていいムードになっても、青木くんは普段通りの平常運転だった。


「……だから――」


「ありがとう」


 私の言葉は青木くんによって、途中で遮られた。

 このままお断りの流れになるんだろうと思い、続きの言葉を聞いてもらえなかったことが少しだけ悲しい。

 まあ、続ける言葉なんてフラれる前提の言い訳がましくも、本心の言葉だけども。


 これから青木くんから聞かされる言葉を考え、私の手は震えが止まらなかった。


 しかし、青木くんの言葉は想像とは違う……想像の斜め上の言葉だった。


「気持ちはすごく嬉しい、……でも、まだ俺は綾瀬のことを何も知らないから、まずは友達として仲良くなりたいと思っている」


「……え?」


 即答でフラれると思っていたからこそ、その言葉をすんなりと飲み込むことはできなかった。


 ただ、顔を真っ赤にして照れるように口元を隠している青木くんを見て、私の耳は正常だということに気が付いた。


「それって……前向きに考えてくれるってこと?」


「そういうことだ」


 嬉しさのあまり、飛び跳ねてしまいそうだ。

 ……観覧車に揺られているから、そんなことをしたら大変なことになってしまうため、自重するけども。


「正直、気持ちはすごく嬉しくて、俺も単純だけど綾瀬のことが好きだって思っている。今すぐにでも付き合おうって言いたいけど、まだ綾瀬のことはよく知らないから、今のままで簡単には答えられない」


「……物は言いようだね。もしかしてキープ?」


「違うわ!」


「冗談冗談」


 恥ずかしさのあまり失礼なことを言ってしまったが、青木くんは笑いながら流してくれた。


「……余程のことがなければ、綾瀬と付き合いたい」


「……わかった。青木くんが良いって思うまで、待ってるね」


 そんな約束を取り交わし、私たちは観覧車を降りる。

 安心と嬉しさと、色々とごちゃ混ぜになった感情で温かいものが頬を伝っているのだけど、それは青木くんには内緒だ。




 同級生の女の子に告白された。

 今日一日、意識しっぱなしだった。

 そして告白されたことで、好きという気持ちがハッキリとした。


 その気持ちに即答する勇気はなく、保留という形を取った判断は正しかったのだろうか。


 綾瀬は冗談半分に言っていたけど、捉え方によっては確かにキープにしか思えない解答だ。


 ただ、俺は本当に綾瀬と付き合う前提で、まずは友達として仲良くなりたい。

 ……まずはこの気持ちを、ハッキリさせたいのだ。


「ねえ、青木くん」


 帰り道、前を歩く綾瀬が振り返り、夕日で綺麗に照らされている。

 こんなにも可愛い子に告白されたなんて、ちょっと前の俺に言っても信じられないほど、今でも信じられなかった。

 夢だったらどうしようと思ってしまうが、これが現実でなければなんだというのだろうか。


「どうした?」


「これからの私たちってさ……、友達だけど、ある意味友達以上恋人未満的なやつだよね?」


「ま、まあ、そうなるかな?」


 俺の返事を待ち、綾瀬は嬉しそうに顔をほころばせた。

 あるいは悪い顔とも言えるだろう。


「じゃあ……、颯太くん!」


「うぇっ!?」


「何その声? 仲を深めるなら、名前呼びはどうかなって思ったんだけど……」


 確かにそれは一理ある。

 苗字呼びがイコール仲が悪いわけではないが、名前で呼んでいる方が距離は縮まる気がするのだ。


「……碧」


「も、もう一回呼んで!」


「い、嫌だ! これから何回でも呼ぶんだからいいだろ!」


「えー、ケチー」


 碧はそう言うと、ニシシと笑う。

 つられて俺も笑ってしまった。


 今はまだ中途半端な関係だ。

 しかし、これから俺は、この子のことをもっと好きになっていくのだ。

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