第124話 かのんちゃんは解せない!
「おっまたせー!」
そう声を上げて虎徹の部屋に入ってきたのは若葉だ。
そんな若葉ではなく、俺たちは画面に集中してる。
「ごめん、この一戦だけ。今途中だからっ!」
「あらら、微妙なタイミングだったか」
若葉が遅れて来るのは予定通りだ。
そんな若葉を俺たちは虎徹の家でゲームをして待っていた。
「じゃあ失礼して……」
部屋に入って来た若葉は、マンガを一冊手に取ると、虎徹の背中に体重を預ける。
「おい、ちょっ……」
「ハンデだよハンデ」
呑気そうに笑う若葉。
虎徹は色々な意味で集中ができなくなり、操作しているキャラの動きが鈍り始めた。
途中までは虎徹が優位に進んでいたが、ここで俺と花音が一気に追い上げる。
しかしやはり虎徹は強かった。
「……若葉。後で覚えとけよ」
「いやん。何されるのかなぁ?」
そんなことを言いながらも、期待したような目をしている若葉。
言ったはいいものの、虎徹は何もできなさそうだ。
レースゲームをしていた俺たちだが、最終的に虎徹が一位、花音が二位、俺は四位だ。
俺は終盤に一位に立ったが、追いかけてくる虎徹のアイテムによって一気に七位あたりまで転落し、その後追い上げたが届かなかった。
もう一戦して雪辱を晴らしたいところだが、今日の目的はゲームではない。
「さて、若葉も来たし、行きますか」
俺は続けたい気持ちをグッとこらえながら立ち上がる。
今日は夏休み最終日。
……夏祭りの日だ。
駅に近づくにつれて人がだんだん増えていく。
やはり祭りを目的にやってくる人は多かった。
そして多くの人が浴衣だ。花音と若葉も前の時と同じ浴衣を着ており、俺と虎徹も甚平を着ている。
中には私服や、部活帰りなのか学校の名前が入ったジャージを着ている人もいるため、中学時代の知り合いと出会う可能性もあるだろう。
そんなことを思っていると、さっそく知っている顔をちらほらと見かける。
同じ高校の人たちはもちろん、中学時代の人もいる。
あまり話す人たちではないため、俺は声をかけようとはしない。
「じゃあ、とりあえず何か買いにく?」
「そうだねー。花火とかないから基本は食べ歩きか屋台のゲームとかだし、どこから回ろうかなぁ」
若葉はそう言いながら様々な屋台に目移りしている。
回りたいところはたくさんあるだろう。
……そして、一緒にいたい人も隣に。
「せっかくだし、二手に分かれて色々買ってから集合しないか? 五個くらい買って、買ったものがどれだけ一致するかゲームみたいな」
「お、いいね! 楽しそう!」
こういえば、若葉は食いつくと思っていた。
クリスマスの時も動画の企画のようなゲームを持ち出してきたため、二手に分かれるならこれが良いかもしれない。
「じゃあ、制限時間は……短いけど三十分くらいにしとくか」
「了解! チーム分けは?」
「そうだなぁ……、付き合ってるんだから虎徹と若葉チームと俺と花音チームでいいかな」
「わかった! じゃあ虎徹、行こっか?」
今の時間は五時半前。
ちょうどキリ良くするために六時に再集合することにし、俺たちは二手に分かれる。
もちろん人混みを考えて、集合場所は人通りが少なめの外れた場所だ。
「……颯太くん、もしかして私と二人きりになりたかったの?」
「そ、そんなわけないだろ!」
怪訝そうな表情を見せる花音からの突然の言葉に、俺はキョドってしまう。この否定の仕方だと誤魔化しているようにも聞こえるが、本当にそんなつもりはなかったのだ。
「嘘嘘。二人に気を遣ったんでしょ?」
花音は表情を一変させ、笑いながらそう言った。
――からかわれていただけか。
からかわれることには慣れてきたと思ったが、意表を突かれると弱かった。
もしかしたら、花音のからかいが成長しているのかもしれない。
「じゃあ、私たちも行こっか」
花音は一歩踏み出してから振り返る。
揺れた髪と浴衣の袖。
そして花音の笑顔。
屋台の隙間からこぼれる夕日に照らされて、神秘的に見えた花音に俺は目を奪われていた。
設定した制限時間も短いため、集合場所に戻ることを考えたら五分に一個は買わなければならない。
もう少し時間にゆとりを持たせればよかったかもしれないが、今日来たのはあくまでも
虎徹と若葉、二人の時間を作る意図もあったが、四人での時間が本命のため、あえて時間を短くしたのだ。
その意図が伝わったのか、虎徹からは一言『サンキュー』とだけメッセージが来ていた。
そっけない一言だが、照れくさそうに言っている虎徹が目に浮かぶ。
俺と花音は色々と見て回りながら歩く。
まずは虎徹と若葉がどういうものを買いそうかという予想をすることから始まった。
「あれ、青木くん?」
花音と話しながら歩いていると、不意に後ろから声がかかる。
振り向くと、そこには見慣れた顔の女子が数人並んでいた。
「おー、綾瀬」
「やっほ。かのんちゃんも」
「あっ、綾瀬さん」
「今日は……二人なの?」
「いや、四人で来てるけど事情があって別行動中。ちょっとしたゲームをしてるんだ」
「なるほどねぇ」
事情だけで止めておくとあらぬ誤解をされると考え、補足として言っておく。
綾瀬の方は元陸上部のメンバーで来ているらしい。
――てっきり二人で遊ぼうと誘われるものかと思っていたが、それは自惚れすぎか。
そんなことを考えながら綾瀬の友達たちに一瞬視線を向けると、綾瀬はそれに気づいたらしい。
「四人で来るんだろうなって思ってたから、誘わなかったんだー」
――完全に心を読まれている。
俺は気恥ずかしくなりながらそっぽを向いた。
「……まあ、また学校で」
「そうだね。二人も楽しんでねー」
綾瀬は手を振って、俺たちは別の方向に歩き出した。
綾瀬の笑顔につられて俺も笑って返したが、横から冷たい視線が突き刺さっている。
「……なんか、思ったより仲良いね?」
「そ、そうかなぁ?」
話の流れで、綾瀬と仲良くなったことは三人に話していた。
遊びに行くことも流れで話したとは思うが、告白をされたことは話していない。もちろん、付き合うよりも友達のままでということもだ。
事細かに説明するのは俺自身もあまりいい気もしなければ、告白したことを言いふらしてしまうことになるため綾瀬もいい気はしないだろう。
俺は適当に誤魔化すしかなかった。
「……俺が綾瀬と仲良くしてたらダメだったか?」
「い、いや、私は颯太くんの彼女でも何でもないから、いいんだけど。……し、親友として?」
何故か疑問形の花音。
花音が俺の交友関係に嫉妬してくることは今に始まったことでもない。
友達との距離感の測り方が上手くない花音は、どうしてもやきもちを焼いてしまうのだろう。
詰め寄られるかと思いきや、言い返してみると立場が逆転した。
花音の反応が可笑しく、俺は思わず吹き出してしまう。
「な、なにが可笑しいのさー!」
「なんでもない。なんでも」
そう言いながらも笑ってしまう俺に花音は怒りながらも、迫っている時間を考え、俺たちは喧嘩をしながら屋台を回っていた。
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