第144話 かのんちゃんたちは満喫したい!

「何食べよっかなー」


「……最近思うんだけど、花音ってそんなに大食いキャラだっけ?」


「大食いじゃないけど、色々と回れるなら色々と楽しみたいじゃん?」


「それはそうだけども、なんか大食い感出てるぞ」


 飛行機が着陸し、三年生全体で集合しようとしているところに俺はそんなことを冗談めかして言った。

 どうやら花音は気にしているのかお腹をつまんでいる。

 ――失言だったか。


 あれから俺たちは良い距離を保てている……と思っていたが、どうやらまだ難しいところもあるようだ。

 普段は言わないようなことでも、冗談めかして言おうと思って空回りする。

 しかし、花音も同じように距離の測り方に悩んでいるようだ。


 お互いに悩んでいるのだから、それはそれでうまくやれているのかもしれない。


 高校三年生の十月という微妙な時期。

 こんな時期にも関わらず、修学旅行は始まる。


 今年に限ってはやや特殊で、普段なら三年生の五月頃なのだが大人の事情でずれ込んだらしい。

 しかし、なかなか勉強に集中できずに進路に悩んでいた俺にとって、リフレッシュをするいい機会にもなっていた。

 それに、花音との関係も、だ。


 まだ気まずさは残っていても、話はできている。

 この修学旅行は何とか楽しめそうだ。




 俺たちが来たのは北海道。海産物が有名なため満喫したいところ。

 修学旅行前に凪沙は「蟹! 蟹買ってきて!」と興奮気味に言っていたが、流石に配送をしたとしても金銭面で難しいため却下した。有名なお菓子の『雪の恋人』でも買っていくとしよう。


 そして俺たちは……、


「とりあえず海鮮丼食べたい」


「だよねー!」


 四人で自由時間を回っていた。


 範囲は限られているため同じ学校の生徒と会うが、逆に限られた範囲内なら自由だ。

 俺たちは真っ先に海鮮丼の店を探した。いつものごとく花音と若葉が主導で、俺と虎徹は着いていくだけだ。


 入った店で食べたのはイクラとサーモンの海鮮親子丼だった。

 イクラのプチプチとした食感ととろけるようなサーモン。

 安物の味しか知らない俺にとって、北海道の魚の味は格別だ。


 俺たちは短い時間ながら北海道を満喫する。

 昼食の後には街を散策した。ガラス細工が有名なため色々と見て回り、気に入った置物を買う。

 ただ、一日目に壊れ物を買うため、慎重に持って帰らないといけない。


 そして……、


「ねえねえ、これどう?」


 若葉の持ってきたのはガラス細工のキーホルダー。

 壊れやすそうではあるが色の種類は豊富だ。


「おそろいにする感じ?」


「流石かのんちゃん! そういうこと」


「いいねー。颯太くんと藤川くんはどうかな?」


「いいと思う」


「俺も別にいいぞ」


 こうやって四人で一緒に過ごすことは多いが、俺たちはおそろいなんて持っていない。

 こだわるようなタイプではないが、修学旅行という特別感がそうさせるのだろうか。


 俺が青色、虎徹は黄色、花音がピンク、若葉が緑色を買うこととなった。


「……こういうのって、普通は一人くらい赤の人いるよね」


「でもあんまりイメージないしねぇ。かのんちゃんが一番イメージっぽいけど、花音の『』的にはピンクとか白っぽい」


「確かにそうかも。あとは本宮の『本』で茶色とか」


 若葉や花音の言う通り、それぞれ色を連想できる文字が名前に入っていた。

 俺は『青』木で文字通り青色で、『虎』徹は虎から黄色や黒色、若『葉』は葉っぱの緑色だった。

 結果、買った通りの色となっていた。


 こうしているうちに気が付けば夕方になり、自由行動は終わる。


 それからは学年全体で移動すると、北海道と言えばとも言えるジンギスカンの店での夕食だ。

 日ごろは食べれないようなもののため、俺たちはテンションが上がっていた。


 この日のうちに取れないような強烈な臭いがついてしまったが、満足な修学旅行一日目が終わった。

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