第8話 城ヶ崎美咲は抜けている

 俺と美咲先輩はデートに出かけるために、家を出た。

 しかし……、


「デートって言っても、どこに行くんですか? 急だったので、俺は何も考えてないんですけど……」


「安心して、私も何も考えてないから」


「それ、ダメなやつじゃないですか……」


 完全にノープランだった。


「そもそも、俺ってこの辺あんまり知らので、何があるのかもわからないんですけど……」


「ふむ……」


 同じ県内のため地名は知っているし、来たことがないわけではない。

 ただ、来るとしても家族で出かける時にくらいのため、詳しくはなかった。

 それだけ、わざわざ遊びに来るところではないということだ。


「私も済み始めてそんなに経っているわけじゃないからね……」


「大学に入学するちょっと前からでしたよね? 半月くらいですか?」


「そうだね。引っ越し準備でたまに来ていたけど、本格的に住み始めたのはそれくらいかな? 友達という友達がいるわけでもないし、あんまり遊びに来ないんだよ」


 友達がいないという点はやや心配になってしまうが……。

 ただ、美咲先輩が住んでいる土地とはいえ、お互いにほとんど土地勘はない状態だ。


 つまり……、


「……適当に映画でも見ますか?」


「映画館か……二十分くらい歩かないとないよ?」


「マジですか……」


 歩くことは構わないが、予想以上に何もないらしい。

 ……一応ここ、県庁所在地なんだけどな。




 それから俺たちは調べた結果、駅からアミューズメント施設に繋がる無料のバスが出ているということを知ったため、バスに乗った。


「まあ、お互いに動きにくい服装なので、軽くボウリングくらいにしておきますか」


「面目ない……」


 美咲先輩は元々デートに出かけるつもりだったため、いつもよりオシャレをしている。

 会った時から少し意識してしまっているくらい気合が入っていたのだが、それが裏目に出たというところだ。

 ボウリングも際どいが、一番マシな選択肢がこれしかなかった。


「カラオケも一応ありますし、夜までずっとっていうのも寂しいので、あとで行きましょう」


「そうだね……」


 無計画に突っ走った美咲先輩は、やや落ち込み気味だ。

 俺としたら何事も完璧にこなしている美咲先輩を見てきていたため、こういう一面もありだと思っていた。

 これがギャップ萌えというやつだろうか。


「落ち込んでます?」


「そりゃあね……」


「でも、そんな美咲先輩も可愛いですよ」


「なっ……!」


 顔を赤くして、驚いた表情で俺を見た。

 落ち込んだ顔も可愛いと思っている意地悪な俺もいるが、元気な顔を見ているのが一番落ち着く。


「全部てきぱきとこなされたら、それこそ俺が劣等感を抱きそうですし、ちょっとポンコツなくらいがいいんですよ」


「ポンコツって……、酷いな」


「そういうところが可愛いですよ」


「……颯太くんはまたそうやって私をからかってくる」


 頬を膨らませ、不満そうに口を尖らせている美咲先輩だが、その口角は上がっていた。


「真面目な話、完璧すぎたら俺がいる意味ないですから、ちょっとくらい隙を見せてくださいよ。もっと頼ってください」


「……うん」


 頬を緩める美咲先輩を見て、俺の心は和らいだ。

 まだ付き合って一ヶ月だが、俺は美咲先輩に勉強を教えてもらうばかりで、付き合っていていいのかと不安になることもあったのだ。


「とりあえず、三ゲームくらいやりましょう」


「そうだね」


 最近は運動もたまにしている。

 運動不足にならないために自分でバスケの練習をしていることもあるが、双葉からやたらと誘われるのだ。


 もちろん美咲先輩公認だ。

 どうも美咲先輩は高校を卒業してから双葉と仲良くなっているらしい。

 ……理由は教えてくれないが。


 体力が前よりもついているため、美咲先輩にいいところを見せたいと思い、俺はボウリングに挑んだ。

 ……しかし、大体何でも上手くこなす美咲先輩とほとんど僅差のため、いいところは見せられずに終わった。

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