第189話 春風双葉は照れさせたい
「ちょっと、お化粧直してきます!」
「ああ、俺もちょっとお手洗い行こうかな」
ファミレスで昼食を食べ終えた俺たちはすぐに映画館に移動した。
映画館に着くと、双葉は真っ先にトイレに向かう。
二時間近くある映画で、直前のトイレは必須だ。
俺もさっさと用を足し、映画館内にある売店で時間を潰す。
こうして待っていると、以前も双葉と映画に来たことを思い出した。
その時は花音と遭遇し、変に詮索されたのだ。花音と仲良くなり始めた頃で、なかなか距離感が難しかった。
花音からも遊びに誘われていたため、双葉と出かけていたことが気に食わなかったようだった。俺は誘われたこと自体が社交辞令なのだと思っていたりもしたが……。
流石に今は花音と遭遇することなんてない。
今日は一日家にいるということを聞いており、昼ご飯を作ったことを自撮り付きでメッセージが送られてきていた。
俺は花音からのメッセージを返していると、用を済ませた双葉が戻って来た。
「お待たせしました!」
「おう」
「それじゃあ映画……の前に、飲み物とポップコーンを買いましょう!」
先ほどまで、これでもかというほどの食べっぷりを見せていたのだが、どうやらまだまだ胃袋に入るらしい。
「……ほどほどにな?」
俺は苦笑いを浮かべながら、何味にしようか悩んでいる双葉の後ろ姿を見ていた。
見た映画は恋愛映画。
双葉もマンガで見たことのある少女マンガが原作となっており、実写化されていて最近公開の始まった映画だ。
映画を見終えた俺たちは双葉おすすめの喫茶店に入ると、休憩がてら感想を言い合っていた。
「やっぱり、恋愛っていいですよね……」
うっとりとした表情でそう呟いているのだが、反応に困ってしまう。
俺は双葉の告白を断っているのだ。
双葉は気にしていない素振りで映画の話を続けるが、俺は変に意識をしてしまっている。
そんな時だ。
「先輩は花音先輩とどうなんですか?」
とてつもないことをぶっこんできた。
「えっ!? ええと、どうって言うと……?」
「やだなー、どこまで進んだのかとかですよ」
当たり前と言わんばかりにけらけらと笑っている。
手の動きがおばさん臭く、まるで親戚のおばちゃんのようだった。
「流石に言いたくないんだけど……」
「えー、教えてくださいよー」
「逆に話して何とも思わないのか……?」
いくら区切りをつけたからと言って、俺の方はまだ変なところで意識してしまっている、
思い出として笑って話せるようになるまで、まだ時間は短すぎたのだ。
「んー……、聞いたら聞いたで複雑になりそうなんでやめときますね」
「意外と素直だな……」
「だって、そこまで考えてなかったので。言われてから確かに嫌かもって思いましたもん」
適当に考えているようだが、そういうわけではない。
気にしているわけではないが、まったく気にしていないわけではないのだ。
少なくとも俺が言わなければ、さほど気にならないからこそ出た言葉なのだろう。
ある程度映画の話をすると、話題も徐々に減ってきたため、お互いに無言で飲み物を啜っていた。
俺はコーヒー、双葉は紅茶だ。ケーキセットを頼んでいたが、皿の上にはもうケーキは残っていない。目の前には何も乗っていないクリームが少しついている皿と、少し冷めた飲み物だけだ。
落ち着けるこの喫茶店は、双葉と一度来たことがある。
最初におすすめと言われて入り、今回も同じように双葉の希望でこの店に入っていた。
俺はどこか既視感を覚えていた。
二人で映画を見に行くことは一度や二度ではない。この喫茶店も一度来たことがある。
前にもこういうことがあった……と思うのは、普通なのかもしれない。
それでも、もっと大きな既視感だ。
「……あっ!」
俺は思わず声を上げた。
急に声を上げたにも関わらず、双葉は驚く様子もなく静かに微笑んでいた。
「もしかして、今日って……」
「はい。花音先輩が来なかったのは予想外でしたけど、咄嗟に考えた割には思い通りでした」
「いつから考えてたんだ?」
「最初に先輩が本屋に行くって言ったからですかね?」
少なくとも最初はそのつもりではなかった。
しかし、俺がトリガーとなって、双葉は計画したのだ。
「でも、昼ご飯は俺が決めたよな?」
「安くて量が食べれるって、選択肢狭すぎないですか?」
「ああー……」
双葉の希望から店を選んだつもりだったが、実際はほぼ一択と言ってもいい選択肢だったのだ。
つまり俺は双葉に誘導されていた。
「私、
「それ関係あるか……?」
ふざける声に合わせてツッコミを入れる、
すると、自然に笑いがこみ上げてきた。
「それで……気付いたなら、次にどこに行きたいかわかりますか?」
「ああ……。双葉は行きたいところがあるんだよな?」
「そうです」
本屋に行き、ファミレスでご飯を食べ、映画を見る。
そして今いる喫茶店だ。
そうなるとあとは……、
「公園……か」
俺たちはこの後、バスケをするのだ。
映画の前にふと思い出した、双葉と遊んだ時の記憶。
それは双葉が思い描いた今日の計画だった。
「延長戦です」
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