第184話 颯太と花音の進む道

「颯太くん、私決めたよ」


「何が?」


「進路のこと」


 突然花音に呼び出されたため、俺は花音の家を訪れていた。

 花音はこの話をするために呼び出したらしく、自分の口で伝えたかったからのようだ。


 そして花音は考えた結果を告げる。


「私、理工学部にする」


 受験を終え、花音は私立の城明大学の理工学部と経営学部、国公立の名護大学の教育学部に受かっていた。

 名護大学はほぼ選択肢に入っていなかったが、三つの中で花音は悩んでいたのだ。

 それから城明大学の理工学部と経営学部に絞ったが、結局は理工学部を選んだ……ということだった。


「いいんじゃないか?」


 花音の選んだ道だ。

 元々、花音は理工学部への進学予定だったため、俺は何も口出しするつもりはなかった。

 俺も城明大学の経営学部のため、花音が経営学部を選択したのなら一緒にいれる時間が長くなるだけだ。誘われたこともあって城明大学を受けたため、名護大学を選んでいたら困っていただろうが、城明大学ならどちらでも構わないというのが本音だった。


「忙しくはなるよな」


「まあね……。でも、颯太くんとも一緒にいたいから、頑張るね」


 大方の大学はそうだが、文系の経営学部よりも理系の理工学部の方が忙しいと言われている。

 そのため、花音はわざわざ忙しい道に飛び込んでいくということだ。


 もちろん俺自身も経営の勉強をしたいと考えているため暇だとは言わない。しかし、花音は理系科目に加えて経営の勉強もできる限りしたいと言っている。

 理工学部でも経営の講義は受けられるため、当初の予定通り教員免許の取得を目指しながら経営の勉強をするということだった。


 花音は理工学部を選んだ理由を説明する。


「それならさ、どういう道にも進めるかなって」


「経営関係と教員、どっちもってこと?」


「うん。中途半端……にはしたくないけど、片方を諦めて後悔はしたくないから。どっちも目指して、いざ就職ってなった時にどっちでも選べるようにしたい」


 花音の志は高く、どちらも全力で目指すということだった。

 厳しいことには違いない。それでも花音がやると言うのなら、俺は可能な限りのサポートをするだけだ。


「忙しくなるけど、ごめんね?」


「花音が謝ることじゃないよ。それに、俺に遠慮して後悔してほしくもないし」


 寂しくないかと言えば嘘になる。

 しかし、今言ったことも本当の気持ちだった。


 そんな俺はあることを考えていた。

 今のままで……しかも俺一人の意思ではどうすることもできないことだ。しかし、考えてみるのも一つの手なのかもしれない。

 そう考えた俺は、を口にした。


「……すぐには無理かもしれないけど、一緒に住むって言うのはどうかな?」


「……えっ? 一緒にって……」


「同棲ってこと。もちろん親に話して許可もらってとかはあるけどさ」


 俺一人の判断では決められない。そして花音がどう言っても、二人でも決められることではなかった。

 親の同意があって、初めて考えられることだ。


 ただバイトで稼ぐ程度の俺には、家賃を払えるだけの収入もないため、親に頼ることになるだろう。それにバイトだって、家を出るなら今のところを続けていくことも難しくはなってしまう。

 今後のことを考えれば続けたいところだが、大学近くとなれば通勤で一時間以上はかかるためバイトとしては不向きなのだ。


 色々と問題はあって難しい。

 しかし……、


「一緒にいられるなら、もっと一緒にいたい」


 花音は乗り気なようだった。


「颯太くんと一緒に生活できたらいいなって思う。これからも時間はあって一緒にいられるけど、早めに一緒にいられるなら、それだけ一緒にいる時間が長くなるわけだし。……それに、お泊りとかしたこともないからわからないけど、起きて颯太くんが目の前にいたら幸せだろうなって思うんだ」


 だんだんと花音は妄想……もとい想像の世界に入り込んでいくが、言わんとしていることは理解できる。

 俺もそんなことを考えてしまうことはあるのだ。


「これはまあ、すぐには難しいし、親と応相談ってことで」


「そうだね」


 結論はまとめられない。

 それに大学生活の忙しさのことを考えると、二人での生活という新しいことを無理に始めない方がいいのかもしれない。

 結果はまだ先延ばしだが、俺たちは今後の二人でのことも少しずつ考え始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る