第50話 藤川虎徹は物申す
「よし、それじゃあ行こっか」
若葉の一言によって俺たちは虎徹の家を出て、駅前に向かった。
思ったよりゲームに熱中しており、気付けば下ネタトークもすぐに終わった。ただ、我に返った花音は顔を赤くしていたため、一時的なテンションだったのだろう。
「まだ二時過ぎだから時間はいっぱいあるからね〜。かのんちゃんは何かしたいことある?」
「え、うーん……。特にないかなぁ」
「遠慮しなくてもいいよー。買い物なら荷物持ちがいるし」
若葉はニヤニヤとしながら俺と虎徹の方に視線を向ける。
しかし、花音は遠慮をしているというよりも本当に思いつかないようで、「楽しかったらどこでもいいかなぁ」と言っていた。
「本宮はどっちかって言うとゲーセンとかのが好きだろ?」
「まあ、そうだね。でも今日は気分じゃ……いや、やっぱりゲーセンはアリだね」
一旦考え込んだ素振りを見せた花音は、虎徹の言葉に同意した。
「や、せっかくだから夜に遊ぶ時に食べるお菓子とか取れたらなって。前行った時、颯太くん上手かったし」
「俺は虎徹の見て学んだだけだけどな」
ぬいぐるみ系は俺の方が得意な自負はあるが、その他は虎徹の方が得意だ。
「それじゃあ、みんなで使う金額決めて、誰が一番多く取れるかっていうのやらない?」
「なんだその動画投稿者みたいなやつは」
俺はそうツッコミを入れるが、確かに面白そうではある。
「じゃあ、買い物してからゲームセンター行って、イルミネーション見てから帰ろっか」
「そうだな。ピザ注文してるから六時くらいには帰らないとだけど」
高校生ということもあって、十一時には帰宅したいため、余裕を持って十時頃には解散する予定だ。そのため夕食も早めの時間にしてあった。
そしてクリスマスということもあるため、どの店も混む。それを避けるためにデリバリーの注文だ。昼ご飯も昼時であれば混むという予想で、若葉がまとめてテイクアウトしてから虎徹の家に来たのだ。
「ま、親は帰ってくるの遅いと思うし、なんなら帰ってくるかわからないからゆっくりしてってくれ」
今日の虎徹の家は誰もいない。元々父親は出ていたようで、母親も入れ替わりで外出していた。
「そういえば、藤川くんのお母さんって若いよね?」
虎徹の母親は二十代に見えるほど若い。そこまでではないが、実際に若いのだ。
花音の言葉に虎徹は表情を暗くした。何かを察した花音は「あっ……」と声を上げる。デリケートなことを聞いてしまったのだと。
しかし、そんなに深刻な話ではない。
「うちの母さん……っていうか父さんもだけど、実際周りよりも若いんだよな。父さんが十八歳の時、母さんが十六歳の時に結婚して、俺を産んだんだよ」
深刻そうに話す虎徹に、花音は慌てている。
事情を知っている俺からすると、見ていて面白いものだ。幼馴染の若葉も知っているため、愉快そうに静観していた。
「正直、二人を見てると辛い。……だって息子の前でも構わずイチャイチャするんだぞ? 仲が良いのはいいんだけど、思春期の息子の前でイチャコラしてるのって、見てる方はかなりしんどいぞ。今日も、『お父さんとデートしてくるから〜』って言って数日前からウキウキしてたし、なんかやたらと気合い入れた服着てるし、デート気分味わいたいからってわざわざ待ち合わせまでするしでなんかもう……なんかもうなんだよ!」
饒舌に語る虎徹は語彙力がなくなっており、ぶつけようのない感情を爆発させていた。
虎徹の両親はいわゆる『できちゃった結婚』……ではなく、普通に結婚して虎徹が誕生したらしい。年齢は若いが、好きすぎて結婚したとのことだ。
「いや、恵まれた家だって思ってるよ? じいちゃんもばあちゃんも優しいし、その年齢で結婚許すくらいはおおらかだし。それなのに父さんは普通に学歴高くていいところで働いてるし、母さんも『花嫁修行』とか言って中卒だったらしいけど通信で大学まで卒業してるし。なんか異常なんだけど、なんか普通なんだよ」
両親が若いという以外は周りから見れば普通の家庭だ。それも最終的に落ち着いてだけであって、話を聞く限りでは過程が異常と言うか、恐らく大卒の人が一般的に辿るであろう、『高校卒業→大学進学→就職→結婚→子供ができる』ではなく、虎徹の母親は『結婚→子供ができる→高校進学→大学進学→専業主婦』なのだ。父親の場合は、『高校卒業→大学入学直前に結婚→就職→子供ができる』だ。
「いつ弟か妹ができたって話を切り出されるか、子供の作り方を知ってから戦慄してるよ」
兄弟姉妹でさえキツいのだ、親のそういうことなんて想像したくはない。
「うちみたいに仲が悪いのもそうだけど、仲が良すぎるのも考えものだね……」
「すまん、本宮のことを考えると失言だったな」
「いやいや、なんだかんだで不自由な暮らしはしてないし、藤川くんと同じ立場だったら私も多分そう考えるし」
二人はお互いに遠慮し合ったように話す。言っちゃなんだが、虎徹が遠慮をするのは珍しい。
それに虎徹は愚痴っているが、そういった不満はあるにしても基本的には幸せな家庭だ。思春期的には複雑な、幸せだから言える愚痴だった。
微妙……と言うほどではないが、そんな二人に若葉はむくれていた。
ちょうどその頃に駅前に到着したため、二人の会話は終わり、若葉の行きたい店を回り始めた。
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