第140.5話 かのんちゃんは続けたい!
「こんな感じでいいのか?」
「そっ、そう……。多分そんな感じ。颯太くん上手いね!」
「そうなのかな? 自分ではよくわからないけど……」
「うんっ……。良い感じ」
俺と花音は二人きりで手を繋ぎ合っている。
正確には周りに人はいて、注目を浴びている。
しかしこの空間は間違いなく二人の世界だ。
「颯太くん、初めてだよね?」
「そりゃな。今まで相手もいなかったし」
「それにしては上手いね」
「そういう花音こそ」
「見てるだけでも勉強になるし」
見ているだけで覚えられるというのは、それだけの見込みが早いとも言える。
俺も似たようなものだが。
「バスケやってたから、動きを真似るのは得意なのかな?」
「そういうもんかなぁ……?」
「可能性があるのはそれくらいだからね」
「なるほど」
バスケでも相手の技が有効だと思ったら持ち帰り、練習をして自分のものにすることはある。
今回の場合ももしかしたらそれに近いのかもしれない。
……まあ、このダンスの振り付けは単純だから踊りやすいのだが。
「うわっ!」
「おっと」
抱きかかえるような体勢になってしまった。
どこもかしこも柔らかい。それに咄嗟に抱き止めたため、そのまま引き寄せてしまう。近くなった花音の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「……ありがと」
「う、うん」
今までもないわけではなかったことだが、そんなことでもやはり意識をしてしまう。
少し気持ちが変わるだけでも、こんなにも意識してしまうのだ。
「……どうかした?」
「い、いや……、カップルの中だから緊張するなぁって思って」
俺は少しだけ正直に……かと言って核心を突かないように言葉を選ぶ。
しかし、花音はここぞとばかりに目を輝かせ、口角が上がった。
「何ー? もしかして意識しちゃった」
「……まあな」
「えっ!?」
正直に答えると、『まさか』と言いたげに驚いている。
別に好きだと言っているわけではないのだから、これくらいは言いだろう。
すると、意図せずに仕返しになったようで、花音はわかりやすく動揺していた。
「ふ、ふーん……。そうなんだ……」
キャンプファイヤーのせいもあるだろうが、心なしか花音の頬は赤らんでいる。
少し照れているのかもしれない。
俺はそのことに気付いてはいたが、正直に答えたことが今さら恥ずかしくなったため取り繕うように言葉を付け加えた。
「だって緊張しないか? いくら仲が良くても、こんな感じで手を繋ぐことなんてないだろ?」
「……確かに。そう言われると緊張してきたかも」
花音の手は少し汗ばんでいる。熱さもあるだろうが、俺がそう言ったことで意識したようで急に汗が噴き出した。
ただ俺の手は、最初から緊張で汗がすごかった。気付かれていたかもしれないが、これでおあいこということになる。
――いや、ならないか。
自覚してからというものの、どうもおかしくなっている。
冷静さを保とうとしていても、頭の中で様々な思考が巡ってしまう。
「花音、そろそろ休憩しないか?」
「んー……、もうちょっと」
俺の心臓は悲鳴を上げていた。
それでも花音が楽しそうに踊っていると、どうも拒否することができなかった。
状況が少し違うとはいえ、虎徹の気持ちもわからなくはない。
「慣れてきたところだからねー……。颯太くんは嫌だった?」
「嫌じゃない」
――むしろ嬉しい。
心臓が上げている悲鳴は、嬉しい悲鳴だ。
全身に向けて脈を打っている。
緊張を除けば、このままずっと踊っていたいくらいだ。
「……花音」
「んー?」
「文化祭、楽しかったな」
「うんっ!」
弾けるような笑顔が見れた。
それだけで俺の文化祭は、最高の思い出となっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます