第三話 魔法にについて、聖女について、それに…
(じゃあまず聖女について教えてよ)
『聖女っていうのはクラスのことね。ちなみにクラスは階級のこと。これは知のある生物すべてが持っているわ。たとえ人間でなくてもね。だけど私たち精霊は別。精霊はもうそれ自体がクラスみたいなものだからね。人間のクラスは最下層の「女児」もしくは「男児」から、最上位と呼ばれる「勇者」、「聖女」まで多岐に亘るわ。最上位クラスになるのは簡単なことじゃない。条件もよくわかっていないし…』
聖女が最上位!?でも確かに死ぬ思いしてようやくって感じだからおかしいってことは無いのかも。
(聖女になる条件ってもしかして、あの声が言ってたやつかなあ)
『それは「神の声」ね。上位クラスなら聞くことができるわ。これが結構便利でね、自分に新しい力が芽生えたときそれを知らせてくれるのよ』
だからあのタイミングで聞こえたのか。なるほどね。
『それで一つ聞きたいんだけど、聖女になる条件って何なの?』
意外にもすぐに思い出すことができた。赤ん坊の脳ってすごい。
(確か、生後三日以内の意志を有する女児が全身を毒に侵されるだったかな)
『生後三日以内の意志ある者って・・・ほぼほぼ不可能じゃない…三百年も現れないわけだわ。これだと聖女って転生者しかなれないようなもんじゃない。』
(どうして私が転生者だって知ってるの!?)
これアニメとかだと知られちゃいけないのがセオリーなんだけど…
『まあ、さっきまで頭の中覗いてたわけだし…』
バカなの?って感じの声で言われた。そういえばそうだった。
『下手したら、今のあなたよりあなたのこと知ってるわよ』
私の記憶飛び飛びだからね。名前も思い出せないくらいだし。
『話がそれたわね。説明に戻りましょう。最上位クラスの聖女には、ほかにもすごいところがあるわ。それは魔力に関してね。これは私がいるからともいえるけど』
(魔法を教えてくれるって話?)
『そうじゃないわ。もちろん魔法は教えるけれど。通常人間は、自分の体内に存在する魔力しか使うことができないの。でも聖女は人間で唯一、空気中の魔力から魔法を構築することができる。ある方法を使えばね』
(肝心なところで勿体つけるじゃん)
『ちょっと先生ぶりたかったのよ。その方法とはずばり、精霊魔法の習得よ!!』
普通の魔法とは違うみたいだけど何が違うのかはさっぱりだ。
『精霊魔法はその名の通り精霊が使う魔法よ。空気中の魔力を使って魔法を構築する分、より高品質、高威力な魔法を使うことができるわ。その分、普通の人間に使うことは不可能。負荷に耐えられないからね。でも最上位クラスである聖女には耐えられる。勘違いしないでほしいのは同じ最上位クラスでも勇者には習得不可能。勇者は剣に、聖女は魔法に特化している感じだから。魔法に関してはこんなもんかしら。あとは追々魔法の練習しながら覚えていけばいいわ』
早く魔法使いたい!!!だなんて心躍らせていると衝撃の発言が。
『そうね。あまり早くから始めると成長に影響が出るし、成長促進魔法をかけたうえで八歳ごろから始めましょうか』
あと八年も待てと!?ここまでワクワクさせておいてなんて仕打ちだ!!
『明らかに不満そうね・・・仕方ないのよ。あまり早くから魔法を使い始めると、成長のためのエネルギーがそちらに割かれてしまうわ。こればっかりは我慢してもらうしかないわ』
教えてくれる気がそもそもなさそうだしこれはあきらめるしかなさそうだ。
『今教えることはこれくらいかしら、この世界の教養なんかはもう少し経てば、あの女が嬉々として教えるでしょ。この家をざっと見る感じ、貴族、そうでなくても相当な富裕層だから』
(たぶんさっきの会話聞く限りじゃ、没落間近そうだけどね)
『それでも、あなたへの教育を惜しむことはしないはずよ。何せ「神の化身」だなんて思ってるくらいだし』
利用できるものはあらかた利用するつもりだったので、そこに不満はないがどうにも都合がいいあの女の思考回路には反吐が出る。
『最後にこれはあなたに伝えるか迷っているのだけど・・・。あなたの前世のこと。知りたいかしら?』
正直少し怖い。でも知りたい気持ちもある。私がなぜここにいるのかが分かるかもしれない。
(教えて!!知りたいの!!)
『決意は固いみたいね。分かったわ。だけど忘れないで。あなたの今はハイデマリー。過去に囚われ過ぎないで。あなたはあなたらしく生きればいいのよ』
そんなに優しい言葉を告げた後、重そうに口を開いた。
『あなたの前世の名前は、「一ノ瀬杏樹」。「地球』という惑星の「日本」という国で生活していたごく普通の女性よ」
その名前を聞いた途端、私の頭に火花が飛び散った。数多のイメージが駆け巡る。幼少期の虐待、施設に保護された時のこと、高校を卒業した時のこと、ブラック企業で働き続けたこと。そして、死んだときのこと。私は、いや、「一ノ瀬杏樹」は12連勤が終わった帰り道、意識を失い、ホームに落ちた。そしてそのまま───。私の瞳からは涙がこぼれ出ていた。分かってしまった。私はもう「一ノ瀬杏樹」ではない。ただ彼女の記憶を持っているだけの別の人間だと気が付いてしまった。喜びも悲しみも苦しみも私のなかには無い。それに気が付いてどうしようもなく涙があふれた。
『その様子だと、思い出したみたいね。』
(けどね、わかっちゃったんだ。私はもう彼女じゃない。私は彼女の記憶を持ってるだけの別の人間だってことに)
『だからって完全に消えたわけではないでしょ!!彼女の分もあなたは自分のために生きればいいのよ!!!』
そういったアルトの声は本当の先生のようだった。
それから七年の月日が流れた。
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