第九十一話 壊滅した町

 「信じられない!!ちょっと攻撃されて位で町一つ滅ぼしちゃうなんて!!」

私がそう声を上げるとなぜがアニとアルトがすごい驚いた顔をしている。

「あなたが言う!?」

アルトなんてそんなことを言ってくる始末だ。

「私は、自分たちに迷惑かけられたときにしかそんなことしないよ!!」

「お嬢様…していることは大して変わりませんよ…」

アニにまで口撃されてしまった。私そんな理不尽なことしてる?

「ちょっと攻撃されただけっていうけどな。ここを見てくれ。切り傷が出来てしまった。こっちは何もしていないというのに…」

確かに、膝のあたりに切り傷がある。そんなのすぐ治るだろうに…

「普通の人は魔人のこと知らないのですから、仕方ないのかもしれませんね。危険な魔物と勘違いしてしまう気持ちもわかります。」

アニがショタ恐竜に向けてそう言う。

「そうよ。それに攻撃されたくないなら、ずっとその姿でいればいいじゃない。」

アルトの提案はもっともだ。こんな子供の姿ならだれも攻撃しようだなんて思わない。

「この姿は窮屈なのだ。ずっと我慢し続けるくらいなら、たまに襲ってくる奴らを倒した方がいい。」

「まあ、しょうがないね。襲ってくる方も反撃されるのは覚悟の上だろうし。でもやり過ぎは注意だよ。度が過ぎると、私たちのところに討伐依頼が来るかもしれないし。」

それはさすがに気分が悪い。一度会話までしちゃったわけだしね。

「お前たちごときに俺が倒せるわけないだろう。」

魔力量に差があるのは確かだけど、こっちは無限に補充できるんだから、時間を掛ければいつか勝てると思う。私の体力が持てばだけど。

「とにかく、やり過ぎには注意してね。襲ってきたやつらを倒すくらいなら仕方ないけど、町を壊すのはさすがにやりすぎだよ。貴方に何かしたわけでもない普通の人も生活しているんだから。」

「む。言われてみれば確かに。魔人の国でもそうだったからな。頭に入れておくとしよう。」

どうやら納得はしてくれたみたいだ。戦うことにはならなそうだ。

「じゃあ、これから気を付けてね。私たちは行かないと。次の町まで距離が出来ちゃったし。」

これだけ言うと、これから強行するみたいに聞こえるけどそう言うわけじゃない。ここから離れた後、ワープポイントを作るつもりだ。この場で帰っちゃうと明日以降も会うことになっちゃいそうだし。

 その日はそのままショタ恐竜と別れて、見えなくなるくらい離れた後、テレポートでブルグミュラーに戻り、宿に泊まった。その夜、後になって考えてみると、なんで一つの町が壊滅しているのに、冒険者ギルドは教えてくれなかったんだろう。なんて話になった。冒険者ギルドにはFAXみたいな魔道具があるらしいから、連絡がないっていうのはおかしい。一瞬で全滅したわけでもないだろうし、緊急事態を伝えることくらいならできたと思う。結局、あのショタ恐竜が大げさに言っているだけでホントに壊滅しているのかも怪しいということに帰結してしまい、実際に確認するまでは冒険者ギルドに伝えるのは無しってことになった。



 そんなわけで今日は、その壊滅したっていう町に行ってみることにした。実際どんな状態になっているのかも気になるし。一応、冒険者ギルドにも報告するつもりだから、確認をしておきたいっていうのもある。

 昨日作ったワープポイントから車をしばらく走らせていると、遠くに建物が見えてきた。望遠魔法で見てみると、確かに建物はボロボロでここで人が暮してるとは考えにくい。破壊されているというよりは、劣化しているって言う方がしっくりくる。何十年も一切整備をしなかった建物って感じだ。ついこの間まで人が暮してたらしいし、整備不良でこうなったとは考えられない。たぶん、あのショタ恐竜の仕業だろうね。腐敗のブレスでも吐くのかな。

「あれ、人がいる。」

ここからだと、建物の影になっててよくは見えないけど、シルエット的に人であることは間違いない。それも一人や二人じゃない。普通に人で賑わっているようにも見える

「あら、あの魔人が言ってたことはやっぱり嘘だったのね。」

「でも、建物とかはボロボロだよ。町を壊滅させたっていうのは本当だと思う。ただ結構生き残りがいたんじゃないかな。」

「なら、車から降りて歩いたほうがいいですね。」

助手席に座るアニがそう言う。

「そうだね。じゃあ、降りよっか。」

車を止めて、外に出た瞬間、私の鼻に襲い掛かったのは強烈な臭い。腐った肉みたいな臭いがする。

「この臭い…ハイデマリー。車で入りましょう。もしかすると、あの魔人に殺された死体がアンデット化しているかもしれないわ。」

アンデット…ゾンビってことだよね。だからこんな変な臭いがするのか。もしかして噛まれたりしたらゾンビになるとか…?だったら確かに車で行った方がいい。

「アンデットって何ですか?」

アニも詳しく知らないみたいで、再び車に乗り込みながら、アルトにそう聞いている。

「アンデットっていうのは言葉の通り生ける屍。死体を魔物が食べることでアンデット化するのよ。完全に食べられてしまえば問題ないんだけど、骨とか肉片が少しでも残っていると、そこから再生してアンデット化してしまうの。よく勘違いされてるのは、噛まれると自分もアンデット化してしまうってことだけど、そうはならないわ。まあ、噛まれると変な病気になることが多いから、噛まれないことが一番ね。」

病気になるならない以前に噛まれたくなんかない。普通の人間でも嫌だし。

「というか、そもそも町の中に入る必要もないんじゃない?わざわざ危険な目に合う必要も無いでしょ。」

「放っておいても時期に強制依頼で討伐することになると思うわよ。魔力探知してみたけど、すごい数だから。アンデットになってしばらくは、生前の行動をなぞるから町の外に出ることは無いと思うけど、時間が経てば町の外に出て、人を襲うようにもなるでしょうからね。」

「だったらその依頼が出てからでいいのではないですか?そっちの方が依頼料が出ますし。今討伐してしまえば安全確保は出来ますけど、タダ働きになりますよ。」

「じゃあ、冒険者ギルドに報告してから倒せばいいんじゃない?この町の支部にも、連絡用の魔道具があるだろうし、そこからブルグミュラーのギルドに伝えればいいよ。」

「良い考えね。それなら報酬も取れるかも。」

「じゃあ車でアンデットを跳ね飛ばしながら、冒険者ギルドを探そうか。」

これなら数も減らせて一石二鳥だ。

「あいつら頑丈だからそんなことじゃ倒せないわよ。木端微塵にするくらいじゃないと。」

それだと全部倒すまでに時間が掛かりそうだね。

「だったら後で一気に爆撃で一網打尽にしちゃおう。それが一番手っ取り早い。」

そんなことを話しながら車を発進させ、ゾンビだらけの町の中に踏み込んだ。

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