第七章 霊峰での冒険

第九十話 魔人との遭遇

 冒険者ギルドで聞いたその霊峰というのは、ここから領を二つ挿んで、さらに町を三つ越え、その最寄りの町から馬車で一週間行ったところにあるらしい。この国でもっとも人が集まっていて、冒険者の活動も活発であるのは王都の周辺の場所だから、その霊峰で活動している冒険者や研究者も少なく、狂暴な魔物が生息していることもあり、ほとんど調査が進んでいないらしい。ただ、霊峰と呼ばれる由来だけははっきりしていて、なんでも大昔、その山に生きていた民族が、史上初めて、魔力が宿った一族だったってことだ。魔法使いの始祖として今も崇められているんだとか。要するに、魔法使いの聖地ってことだね。

「山登りをするならそれなりの装備を整えないとね。」

テレポートがあるから、テントみたいな野営道具はいらないけど、靴とか、防寒装備とかは必要だろうし。

「確か、霊峰から一番近くの町にはそういう物に富んだお店が多いそうですよ。」

「なら買い物はそこですればいいわね。」

装備についてはこれで解決。

「じゃあ、今日は一番近い町まで移動しようか。そこで宿をとって、本格出発は明日以降だね。」

「そうですね。ここから一番近い町ならそんなに距離があるって話でもなかったですし。」

ブルグミュラーより進んでしまうと、本格的に郊外って感じでどんどん町の数が少なくなって、間隔も広くなっていくみたいだ。霊峰と反対側―キースリング領側に進んでいけばそこまででもないらしいけど…とにかく、その間隔というのが広すぎて、一つの町を超えると何日も次の町になかなかたどり着けない。だから、一つの町についたら、次の町に着くまで夜はそこに戻ることになる。億劫だけど仕方がない。車中泊で強行って手もあるけど、あんまり疲れがとれなそうだし。

「しばらくはドライブの旅だね。」

ドライブの意味はハイデマリー自動車学校でちゃんと教えてあるから、通じないってことは無い。これからよく使いそうな言葉だったしね。

「じゃあ、軽めに食料だけ買って移動しましょうか。」

アニがそう提案する。旅のお供は欠かせないからね。まあ、飴とかチョコレートとか手軽に食べれる甘いものがないのは残念だけど。

「そうね。長くなるかもしれないし、水とか食べ物はあった方がいいわね。」

アルトのその言葉で、私たちは新たな旅路にむけて 準備を開始した。



「そう言えば、ギルドの人も霊峰霊峰っていうだけで、その山の名前は教えてくれなかったね。」

現在、移動を開始してしばらく車で走ったところだ。ブルグミュラーを出てしばらく走ると、今までは整備されている街道が続いていたのに、それすらなくなってしまった。今は整備されていないボコボコの地面を走っている。まあ、浮いてるから揺れるとかは無いんだけど。ちなみに、今日の運転はアルトだ。

「確かにそうですね。他の大きな山には当たり前のように名前が付いているのに…」

アニも不思議そうにそう言う。

「名前自体はあるんじゃない?ただ霊峰って呼ぶことが根付いてるから伝わりやすいってだけでしょ。」

でもずっとそう呼び続けるのはなんか違和感があるね。

「そうなんでしょうけど、いざ分からないとなると、なんだか気になりますね。」

まあ、この場に知る術はないんだけどね。

「それこそ近くの町まで行けば分かるでしょ。」

そんな特に中身があるとは言えない会話をしながら車は進んでいく。そんな中、草原だった周りの景色はだんだんと緑を失っていき、いつの間にか荒野の真ん中を走っていた。

「見てあそこ!!でっかい魔物がいるわ!!」

運転中のアルトが突然大声を上げた。確かに前方に巨大な魔物がいる。まだ距離があるのに、窓からは四本の足しか見えない。見た目的には象の足っぽいね。

「一度止めよう。」

このまま足元を通り抜けたら踏まれてペシャンコにされるかもしれない。倒した方が安全だろう。

 車を降りて近づいてみれば、魔物の正体が分かった。恐竜型の魔物だ。首長竜だね。確か草食恐竜だった気がするけど、魔物としてのこいつはどうなんだろう。

「でっかいわねー…」

アルトがそう言った瞬間。恐竜の視線が私たちに向いたのが分かった。

「こっち見た!!襲ってくるかも!!」

そう言うと、アニとアルトが一気に警戒するのが分かる。

「こんなところに人の子か。めずらしいこともあるものだ。」

突如、頭上からそんな声がする。周りに人がいる気配もない。それに声がするのは上からだ。

「しゃべった!?」

アニがびっくり仰天といった感じでうわずった声を上げる。

「しゃべる魔物…これあいつが言ってた知性のある魔物、魔人じゃないかしら。」

その逆にアルトが冷静にそう言う。イエレミアスと同じってことだね。

「ん?この姿じゃ聞き取りづらいな…少し待て。」

そう言うと恐竜は見る見るうちに小さくなっていき、十歳くらいの男の子の姿になった。ショタだ!!

「それで何の用だ?」

どうやらこのショタは自分を訪ねてきたと思っているみたいだね。っていうかなんでショタなんだろう。魔人は自由に姿を変えられる人も多いって聞いたけど、どうしてこの姿をチョイスしたのか…

「別にあなたに会いに来たわけじゃないよ。次の町に行く途中で、あなたが道を塞いでいたから、踏みつぶされるんじゃないかと思って。」

「ほう、俺の姿を見ても一切の動揺なしか。お前たち、何者だ?」

「私たちはただの冒険者だよ。驚かなかったのも、魔人の存在を事前に知ってたからだけ。」

そんなことを言いながら、試しに魔力探知を使って見る。こいつ、イエレミアスやマグダレーネとタメ張るくらいの魔力がある。魔人ってこんな化け物ばっかなのかな…マグダレーネはデーモンだけど。

「ハッ。魔人を知っているというだけで、タダの人間ではないだろう。それに一人は人間ですらない。本当に何者だ?」

この説明、今までに何回してきたことか…さすがに面倒くさい。

「あたしは精霊よ。」

うんざりしている私に代わってアルトが言った。

「受肉した精霊?最近どこかで聞いたな…」

そこから急に考え込んでしまう恐竜ショタ。もうすぐ日も暮れるし、さっさと先に進みたいんだけど…

「そろそろ行ってもいいかな?私たち先を急ぐんだけど…」

「ああ、この先の町に行くんだったな。だがやめておけ。あそこにはもう町なんてものは無い。」

「どういうこと?」

言ってることがよくわからない。もう無いってことは最初からなかったってわけじゃないはずだ。

「この前、そこの奴らが俺になぜか攻撃を仕掛けてきてな。報復に滅ぼしてやったのだ。」

このショタ恐竜とんでもないことしてやがった!!

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