第八十九話 新たな門出

 翌日、戦争も終結したということで、私たち三人は再び、キースリング家を離れた。捕虜の受け渡しだけなら、もう私がいる必要もないしね。一応、緊急時のために連絡札を置いてきたから、何かあればすぐに駆け付けられる。ベルグ村のこともあるしね。

 家を離れた私たちが向かった先はブルグミュラ―。まずは、長らくほったらかしだった、拠点建設を再開しようってことになった。土地の購入自体は済んでいるから今日は建築業者の元へ行くことに。土地を買った時に紹介してもらったところだ。

「どんな屋敷を建てるか何かアイデアはある?」

歩きながら聞いてみる。

「屋敷自体はキースリングの家と同じような感じでいいんじゃないかしら。その代わり、内部を拘ることにしない?たくさん便利な魔道具を用意して、暮らしやすくするのはどうかしら。」

「それいいね。私、結構アイデアあるよ。」

エアコンにガスコンロ、水洗トイレも欲しいね。後はお風呂もかな。この世界のお風呂は薪を使って温めているから、沸くまでに時間が掛かるんだよね。

「また魔力炉を探さないとですね。」

昨日一日休んで、すっかり元気になったアニがそう言う。

「そうだね。見つかるまでは既製品で我慢かも。まだ誰にも発見されてないダンジョンとか無いかなあ…」

「そんな都合よく見つからないわよ。作るのは気長に待つしかないわね。売られてる魔道具にもいいものはあるはずよ。目利きの義眼だってそうでしょ?」

魔道具は自作すると自分好みにカスタムできるのがいいんだけどね。しかも、コンロもエアコンも向こうの世界の知識なんだから、こっちで誰かが作っているとは思えない。まあ、今まで無くても何とかなってたんだし、しばらくは我慢しておこう。

「そうだね。今度またあの魔道具店に行ってみようか。」

 走行話しているうちに、地図に示された、建築業者の事務所へ到着する。中に人の気配があるからお休みってことはなさそうだ。

「こんにちは。土地斡旋業の方から紹介されてきました。」

「ああ。Aランク冒険者だっていう…話は聞いてるよ。ずいぶん時間が空いたな。」

出迎えたのは日に焼けているマッチョな男。なんか棟梁って呼びたくなるね。

「ちょっといろいろ立て込んでて…」

「そうか?まあ深くは聞かないが。とにかく、お前たち家を建てたいんだろう?どんなのがいいとか希望はあるか?」

「伯爵家ぐらいの規模のお屋敷にしてほしいんだけど…」

「具体的にどこの屋敷がイメージに近いとかあるか?」

ということは伯爵家って複数あるんだね。まあ、当たり前か。

「キースリング家だね。」

そこしか知らないっていうのもあるけど、私たちが三人とも住み慣れてるっていうのもある。似たような作りなら暮らしやすいと思う。

「ああ、キースリング家なら確か倉庫に昔の図面があったな…ベースはそれにして、後は現代風のアレンジをしていけばいいだろう。」

「もしかして、あの屋敷を建てたのはアンタなの?」

アルトがそう聞く。図面があるなら関係しているのは確かだろうね。

「確かに、貴族の屋敷を建てるのはうちに任されることが多いが、さすがに建てたのは俺じゃないな。たしかキースリング家の屋敷が建ったのは三十年近く前だぞ。そのころ俺はまだ赤ん坊だ。建てたのは先代。俺の親父だな。」

そりゃそうか。この棟梁どう見ても三十代後半ってところだ。アルトは時間の感覚が人間とは違うから勘違いするのも分かるけどね。

「そうなのね。」

「まあ、腕は先代にも劣らないから、安心して任せてくれ。この前の王宮の再建も俺が指揮したんだ。」

自慢気な棟梁。私が壊したって聞いたら目玉を飛び出して驚きそうだ。

「じゃあお任せしようかな。完成はいつになりそう?」

「通常施工なら三か月だな。期間を短縮したいなら、建築関係の魔法使いを集めて施工する方法がある。こっちなら何人集めるかにもよるが、最短で半月ほどまで短縮できる。その分追加料金は貰うがな。」

費用はどうせ王家持ちだし、そうしてもらおうかな。

「じゃあ、その魔法使いを雇えるだけ雇ってもらってもいい?」

「それは構わないが、支払いの方は大丈夫か?追加料金だけで下手すると白金貨が飛ぶぞ。」

「あれ、聞いてない?今回の建設は青のダンジョンって言うダンジョンを攻略した褒章で費用は全部王家持ちなんだ。ほらこれ。」

この前貰った便利なカードを見せると、納得したという顔つきになった。

「なるほど。それなら問題ないな。それで承ろう。今は他に建築依頼も無いから、大工たちを集めれば明日にでも取り掛かることが出来るだろう。魔法使いたちは準備が出来てからの参加になるとは思うが、早く取り掛かった方がいいだろう?」

「そうだね。よろしく頼むよ。」

「お前たちは冒険者だったな。完成するころに冒険者ギルドに手紙を出そう。」

電話やメールが無いから、定住しない私たちに連絡する手段はそれしかないからね。妥当なところでしょ。

「何かあれば、ここか現場の方へ来てくれ。」

私たちが買った場所も知ってるみたいだね。あの土地斡旋業の人が知らせてくれたのかな。

「わかった。それじゃあ、よろしくね。」

ついに始まる拠点建設に向けて、胸を高鳴らせながらこの場を去った。



「スムーズに進んでよかったですね。」

事務所を出た所でアニがそう言う。

「大きな買い物だしね。うまくいって安心したよ。王宮を元通りにしたくらいだし、腕も問題無いでしょ。」

「楽しみですね。」

「そうね。でも、意外と早く済んだわね。この後はどうする?」

確かに、想定していたよりも全然早く終わったね。家具とか魔道具の準備は、屋敷が完成してからでいいし…

「どこか新しい場所に行ってみませんか?最近は遠出も出来ていませんし。」

「それがいいかもね。どこか候補はある?」

「あ、それならいい場所があるわよ。少し前に小耳に挿んだんだけど、霊峰って呼ばれるすごい高い山があるらしいの。なんでもそこには強い魔物がたくさん生息しているらしいわ。でも、そこからの景色は絶景だっていうわよ。それに、そこまで調査も進んでるわけじゃなさそうだったから、新しい発見があるかも。もしかしたらダンジョンがあるかもしれないわ。まさに秘境ね。」

「面白そうだね。遠足気分でちょっと行ってみようか。」

「では、詳しい場所を調べないとですね。冒険者ギルドで話を聞いてみましょう。」

「そうだね。じゃあ行こっか。」

新たな目的地に向けて私たちは行動を開始した。

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