第九十二話 アンデット討伐
車に乗ったまま、町の中に突入するとそこはやっぱりゾンビで溢れかえっていた。なんなら全住民がゾンビになったって言われても納得しちゃうレベル。
幸い、冒険者ギルド自体はすぐに見つけることが出来た。だけど案の定、外から見ただけでも、冒険者ギルドの中もゾンビたちで溢れているのが分かる。受付係の服を着ているゾンビまでいるね。一部を食べられてしまっただけで、ほとんどそのまま残ったんだと思う。そうじゃないと衣服までしっかり残っていることは無いだろうからね。
「中もしっかりアンデットだらけね。他の支部に連絡するにはあいつらを全部倒すしかないわ。」
それはそうなんだけど、屋内なんだよね。しかも今にも崩れそうだ。何とか外におびき出したいんだけど…
「アンデットが好きなものとかないの?肉が好きとかさ。」
「あいつら何も食べないわよ。でも、生者には襲い掛かってくるわね。生前の種族にだけだけどね。まあ要するに、この場合、人間に襲い掛かってくるってわけ。車の外に出れば、すぐに群がってくるわよ。」
囮は自分自身ってことか。周りに障壁魔法張っちゃえば噛まれることも無いだろうし、外に出た所を爆撃で討伐だ。問題はギルドの中の奴らだけじゃなくて他のところにいるのまで集まってきそうってことだね。そいつらごと倒しちゃって、中に入ったら入り口に障壁を張るって感じになりそうだ。
「じゃあ、こんな感じでいこうか――」
今、頭の中で整理した作戦を二人に伝える。
「良い考えね。ただ、爆撃の威力が強すぎて、ギルドの建物を壊さないようにね。」
「私たちは少し離れた方がいいでしょうか。」
「この車はミスリル製だから、ちょっとやそっとじゃ壊れないから大丈夫よ。それより迅速に中に入るためにこのまま乗ってた方がいいわ。」
この支部の入り口はだいぶ広い作りだから、車に乗ったままでも十分乗り付けられる。
「そうですか。運転を交代しておいてよかったですね。」
町にはいるにあたり、周りを警戒しやすくするため、運転手をアニと交代したことが功を奏した。
「じゃあ、行くよ。」
自分の周りに障壁を張って、車の外へ。すると、町の外にいたときよりもだいぶ強い腐敗臭が襲ってくる。吐きそう…障壁じゃ臭いは防げない。
そんな臭いと戦っているうちに、私めがけてどんどんゾンビが襲い掛かってくる。障壁に向かって引っ掻いてみたり、噛みつこうとしてみたり、叩き割ろうとしてみたりと、いろんなことを試しているみたいだけど、全て無駄になっている。というかよく見ると、体中の穴という穴から体液を垂れ流しにしている。こりゃあ臭いわけだ。
「そろそろいいかな。」
ギルドの中にはもうゾンビは見えない。たぶん一匹が出てきたのにつられて出てきたんだと思う。この人たちも元々は普通に生きていただけだったんだと思うと、少し心苦しいけど、やるしかない。意を決して爆撃を発動すると、強い光で私の視界が一瞬無くなる。視力が戻れば、私の周りにゾンビたちはいなくなっていた。少し離れた所にはまだまだたくさんいるけど、近づいてくることはない。危険だってことくらいは分かるみたいだね。アニとアルトもギルドの中に入れたみたいだし作戦成功だ。
私も続いてギルドに入り、入り口に障壁魔法をかけてゾンビが侵入できないようにする。ついでに、念のため魔力感知でギルド内にゾンビがいないかも確認した。案の定、全ておびき出すことは出来てたみたいだ。
「じゃあ、連絡の魔道具を手分けして探そうか。」
私たち全員使っているのを見たことがあるから、どんな見た目をしているかは知っている。
「あ、受付の裏にありました。」
どうやら、アニがもう見つけていたらしい。
「さすがだね。じゃあ早速…」
タイピングの要領でメッセージを打ち込み、送信する。あて先は顔が効く、バッハシュタインの冒険者支部だ。
しばらく待っていると、魔道具が唸りを上げた。どうやら返事が来たみたいだね。ゆっくりと一枚の紙を吐き出され、そこに印字されている文字にはこう書かれていた。
『アンデットの討伐を強制依頼として依頼します。報酬は、町一帯がアンデット化しているということで金貨三百枚をお支払いします。もしかのであれば、冒険者ギルドに置かれている、記録の魔道具と、連絡の魔道具の持ち帰りをお願いします。持ち帰ることが出来た場合、追加で報酬をお支払いします。そちらの領主様にはこちらから連絡をしておきます。』
と、用件のみが書かれているものだった。よくよく考えると、この町の領主が現状を知らないのはおかしいね。相当広い領地なのか、仕事ができない領主なのか…
「これなら討伐しても問題ないですね。」
「爆撃で一気にやっちゃおうか。」
「それだと、建物まで崩れちゃうわよ。」
確かに、そこまでしちゃうと後で文句を言われるかもしれない。
「ならどうしよう。」
「さっきみたいに、ある程度おびき寄せて、高すぎない威力で倒していくしかないわね。」
「でも、もう近寄ってこないよ。こっちを警戒しているみたいだし。」
「水魔法を一気に流して、一か所に集めるのはどうでしょう。それなら私たち三人でいけますから、各々の負担も少ないのでは?」
アニのアイデアが一番良さそう。一か所に集めさえしてしまえば、討伐も簡単だ。
「それがいいわね。おびき寄せることさえできれば、倒すのは簡単だし。でも、あんまり勢いよく水を発生させちゃうと、建物はボロボロだから流されちゃうわ。」
「調整アルトがしてくれない?水魔法のエキスパートなんだし。」
「それなら安心ですね。」
「分かったわ。アンデットを集めつつ、建物を壊さない絶妙な水流に調整してあげる。」
「じゃあ、さっさとやっちゃおう。またバッハシュタインにもいかなきゃいけないしね。」
そう言って、私は入り口の近くへ。ちなみに障壁は張ったままだ。障壁の条件に水の不透過性を追加しておけば、この中に水が入ってこなくなるからね。条件追加を済ませていると、私に続いて二人も近くに来る。これで準備は完了だ。
「さて、じゃあやろっか。この中に水は入ってこないから、安心してぶっ放していいよ。」
そう言ってから意識を集中し、水を大量に発生させる。ここから見えるのは、もはや水だけだ。ちょっとしたため池くらいは水量があると思う。私一人だと、こんなには出せないけど、アニとアルトも同時にやってるから、とんでもない水量だ。それなのに、瓦礫が流されているとかは見受けられない。アルトの調整も完璧だね。さすが水の精霊だ。
魔力探知で確認してみれば、なぜか魔力の反応が一切ない。まさか、範囲外に出てっちゃった?
「アンデットの反応が消えた!!」
二人に向かってそう言うと、魔力感知を使ってくれたみたいだ。
「ホントね。一旦水を解除してみましょう。」
アルトにそう言われ、水魔法を解除すると目の前で溢れていた水が一瞬で消失する。
「様子を見に行った方がいいわね。すぐそこに集めるつもりで流れを作ったから、そこを確認に行きましょう。」
障壁を解除して、アルトに続いて外にでる。
「あそこよ!!」
指差された先には、大量のゾンビ達が倒れるように積み重なっていた。
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