第九十三話 弔い
「魔力の反応はなかったんだけど…」
魔力感知をしたときは一切反応が無かったのにどうしてだろう。アンデットは粉々にするぐらいじゃないと倒せないって言ってたのに。
「これ、普通の死体に戻ってるわね。」
「魔力の反応が無かったのはそのせいですか。ですがなぜ急に…」
死んだ(もともと死んでるアンデットにこう言うのはおかしいかもしれないけど)わけでもないのに、普通の人間の死体に戻ってるっていうのは確かに変だ。これはたぶん普通に倒したって感じじゃないね。
「もしかして、浄化の力が発動したってことは無い?」
アルトがそう問いかけてくるけど、疑問というよりかは確信めいた表情をしている。
「意識して使ったつもりはないけど…」
確かに浄化を使えば、けがや病気が治るわけだから、アンデットから普通の死体に戻るっていうのはあり得る。だけど、今まで自分以外に使う時は直接触れないとダメだったし、水魔法を経由して浄化が発動したっていうこと自体無かったはずだ。それに無自覚で浄化を使ったってことになっちゃうし。自動で発動することはあっても、気が付かなかったことも今まで無かった。
「でも、それしか考えられないのよね。水魔法に今まで浄化の効果はあったの?」
「無かったと思うよ。魔物を倒したりしてたわけだし…」
水魔法に浄化の力があれば、水魔法でダメージを与えても、浄化で治療されてプラマイゼロになっちゃうしね。
「うん。ちょっと試してみようか。」
小さい水の刃で、指先に小さな切り傷をつくる。これくらいならあんまり痛くも無いね。
「お嬢様!?」
何も言わずにいきなりやったからか、アニが驚きの声を上げる。こんな小さな傷何ともないのに。心配性は健在みたいだ。
「すぐ治るから大丈夫だよ。」
これからやる方法じゃ治らないと思うけど、それなら浄化で直接治せばいい。今度は小さな水の球で、傷口を覆ってみる。するとなぜか指先の傷が塞がり、いつも通りの私の指に戻ってしまった。
「あれ!?おかしいな…」
「傷が治ったとは思えないセリフね。治らなくて驚くなら分かるけど。」
「攻撃の意思が無い水魔法では浄化の効果があるとかなのでしょうか…」
魔法に重要なのはイメージだから、意志によって浄化が乗るか乗らないかが決まるっていうのはあり得そうな話だ。だけど今回の場合は当てはまらない。
「アンデットたちに使ったのは確実に攻撃するつもりだったけど…」
アンデットをもとの人間の姿に戻せるなんて知らなかったから普通に攻撃のつもりで魔法を使った。それなのに浄化が乗ったっていうのはこの理論だと不自然だ。
そのまましばらく頭を悩ませていたけど、特にこれだ!!という考えは浮かばないまま、いつか分かるでしょってことで有耶無耶になってしまった。何か害があるわけじゃないからいいけどね。でも、自分のことなのに詳細が分からないっていうのはなんか変な感じだ。
「じゃあ、この人たちを弔ってあげようか。アンデットになりたくてなったわけじゃないんだし、放っておくのも違うでしょ?」
普通の死体って言っても、死んですぐの状態じゃないから、腐敗が進んでしまっている。このまま放置しておくのもよくないし、火葬くらいはしてあげよう。
「そうですね。放っておくわけにもいかないですし。」
「土葬だと魔物に掘り返されてまたアンデット化するかもしれないし、火葬にしよう。」
この人たちの信仰には添えないかもしれないけど、またゾンビになるよりいいだろう。アンデットの意識がどうなっているかは知らないけど、いい気分なわけもない。
積み重なった遺体に魔法で火をつける。これなら、遺体が燃え尽きた後に自然に消えるから、燃え移って火事になるなんてことは無い。炎の勢いは増していき、まるで天へと昇っていくかのようだった。灰になった彼らは、そのまま風に流され、世界各地へと旅立っていった。
『ありがとう…』
彼らが旅立った空からそんな声が聞こえたような気がした。
遺体の弔いを終え、指示された魔道具を回収したら、そのまま町を出た。予定通り、今日進めるところまで進むということになったからだ。バッハシュタインの冒険者支部へ行くのはまた後日だね。何日も討伐報告が無ければ、援軍を送ったりしちゃうだろうから連絡だけは一応しておこう。
そこから数時間ぶっ続けで車を進めた結果、日没から少し経ち、辺りが暗くなったところで、すごく遠くに光が見えた。たぶん次の町だろうね。この世界は街灯なんかが無い分、遠くの光でも目立つから見つけやすい。逆に言えば、夜道は暗すぎて、町の外だとほとんど行動することが出来ない。私一人なら暗視魔法で何とかなるけど、昼間に比べて危険なことには変わりない。目がいいアニもさすがに周りに光源が一切無い状態じゃほとんど何も見えないだろうし。
「ようやく、次の町に着けそうね。」
「普通なら何週間もかかる道のりですから、これでも異常な速さですよ。」
本当なら、間にもう一つ町があったわけだから、目新しいものが見れたはずなんだけどね。
「あの距離なら、何もなければ明日ギリギリ到着できるかな。」
「楽しみね。じゃあ、今日のところは戻りましょうか。」
アルトの掛け声で車を仕舞って、テレポートする。ブルグミュラーの宿に泊まるのは今日までだね。私たちが霊峰に到達するころには拠点が完成するかもしれないし、宿自体に泊まるのもあと数回ってところかもしれない。
宿に戻って食事を済ませたら、そのままベッドに飛び込む。今日は疲れたし、お風呂は洗浄魔法で済ませてしまうことにした。となれば後は眠るだけ。ここ最近は移動ばっかりで体は疲れているけど、なんか旅してるって感じで楽しい。その疲労感さえも旅の醍醐味って感じがする。ベッドの中でそんなことを考えていれば、すぐに眠気が襲ってくる。それに抗うこともなく、私は夢の世界へと旅立った。
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