第百二十三話 強制依頼の幕開け

 例の紋章についての報告を聞いた後は、そのまま冒険者ギルドへ向かった。準備期間の期限は明日ということでそろそろ手続きをしておこうということだ。今日一日は宿で寝泊まらなくちゃいけないから、冒険者ギルドへ行きがてら部屋も取っておいた。これで準備は完了っていうわけだね。

「こんにちは。強制依頼の受付に来たんだけど…」

ギルドカードを見せながら受付にそう声を掛けると、必要書類に少し記入をしただけで受け付けは終わった。それ以外は、明日の朝また来てくれって言われただけだ。ちなみに、他のAランク冒険者たちはまだ全員は集まっていないみたい。私とアルトを入れて七人いるAランクの内、すでに受付を済ませているのは四人って言ってた。人数は少なくても、各々がパーティーメンバーを連れてくるから、数的には問題ない。だけど、残りの三人はちゃんと来るのかな…私みたいにあえてギリギリで受付しようとしているなら分かるけど…そうじゃないなら、冒険者ライセンスのはく奪を脅威だと思ってないのかもしれない。もし来なかった場合、戦力がだいぶ減りそうだからさすがに参戦して欲しいところだ。



 翌日、冒険者ギルドが開く時間とともにギルドに向かうと広めの会議室みたいなところに案内された。ここで今回の依頼についていろいろ説明されるらしい。

「まだ誰も来てないね。」

「だから言ったじゃない。朝に来いって言われてもこんな早くに行く必要はないって。」

アルトに小言を言われてしまった。朝来いって言われたら朝一で行くのはブラック企業勤めの癖かもしれない。というか絶対そう。

「早く行動するのはいいことですよ。」

アニの言葉が胸にしみる。けど、私だってこんな癖無い方がよかった。

「悪いとは言ってないわよ。」

そんな、中身のない話をしばらく続けていると、私たち以外にも何人か部屋に入ってきた。私以外にもブラック気質の人がいたみたい。入ってきたのは全部で五人。多分Aランクパーティだと思う。魔力量は一般人と変わらないから誰がAランクなのかは分からないね。

「おや、君たち、早いな…」

子供の私がいることに少し驚いてから、すぐに冷静な顔になった。多分、最年少でAランクになったっていう話を思い出したんだと思う。自分で言うのもなんだけど、試験に通った直後はちょっと話題になってたからね。

「私は、Aランク冒険者のフランクだ。君たちはウィザーズだろう?」

フランクと名乗ったのは、三十代前半と言ったところの大男。背中に大斧を背負っていて、ぱっと見ヴァイキングみたいな見た目をしている。多分、肉体的な強さだけで成り上がってきたんだと思う。それに比べて周りの人は弓を持ってたり、後方から支援するタイプなんだと思う。バランスの取れたいいパーティなんじゃないかな。

「そうよ。あたしはアルト。Aランク。こっちがハイデマリーでこの娘もAランク。剣を持ってるのがアニでDランク。試験を受けたときはまだその実力だったけど、今はBランクくらいはあるんじゃないかしら。今度試験を受けさせてもらえる予定よ。」

アルトが最年長らしくそう紹介してくれる。そういえば、アニの試験はいつになるんだろう。ちょっと最近ごたごたしてたからね。……忘れてたわけじゃないよ?

「Aランクが二人にBランク相当が一人か。戦力としては十分だな。こっちは俺、Aランクが一人とCランクが一人、Dランクが三人だ。俺以外のメンバーは後方支援と盾役だ。見ての通り、弓使いが二人と、盾役が一人。後は回復魔法が使える者が一人だ。」

あれ、魔術師がいたんだ。魔力が少ないから普通の人かと思った。

「あたしたちも回復魔法は使えるわ。ハイデマリーとあたしは魔法だけでAランクになったから、期待してくれていいわよ。」

「他にどんな魔法が使えるんだ?」

こっちの戦力を聞き出したいみたいだ。たぶん連携を取りやすくするためだと思うけど、なんかちょっと心配。

「どんな魔法って言われてもねえ…多すぎて全部挙げるのは難しいわ。」

「そうか。まあ、実戦で見るのを楽しみにしておこう。」

どうやら、こっちの戦力を隠したいんだと思われたみたいで、それ以上深く聞かれることは無かった。その代わり、剣を持っているアニと連携について詰めているみたいだった。他の冒険者が来てからにすればいいのに、気が早い。

 そこからしばらくすると、続々とパーティーが到着してきたようで、一時間もたつことには七つすべてのパーティーと、王宮から派遣されたと言う今回の責任者が全員揃った。全部で四十人くらいかな。ちゃんと全Aランクが参加してくれる見ただね。最初のパーティー以外からは、私たちは少し敬遠されているみたいで、誰一人として声を掛けてくることは無かった。顔が良すぎて避けられているのかもしれない。杏樹の顔とは違って、ハイデマリーの顔はとんでもないほどだし、アニとアルトも美人だからね。責任者にはすごい目で睨まれたけど何かされるってことは無かった。

 「では、今回の依頼について説明する。」

その声で人数が多く、ざわざわとしていた室内の空気が一気に張り詰める。

「今回は、とある伯爵領内の村に潜伏していたデーモンの討伐だ。村人の全員がデーモン化しているが、見た目は人間と変わらない。潜伏場所は分かっているから、そこにいる我々以外の人物は全てデーモンだと思うように。」

やっぱり全員がデーモンだったんだ。でも、どうやって確認したんだろう。

「報酬は事前に説明した通り、完全歩合制だ。パーティーの活躍に応じての支払いとなる。参加報酬として、金貨一枚は保証する。最後に、今回の依頼で受ける損害について、王家が責任を負うことは無い。」

その言葉に、周りの冒険者は納得しているみたいだけど、私はちょっとおかしいと思う。普段の依頼なら、私たちがけがをしようと最悪死んだとしても、依頼者やギルドに責任はないと思う。実力を見誤って依頼を受けた者の責任だ。でも今回は違う。強制的に受けさせられたのに、一生背負っていかなければいけないような大けがをして、冒険者業が出来なくなっても何の責任も負わないっていうのは、さすがにひどいんじゃないか。まあ、なるべくけがとかの治療は私がしてあげよう。即死さえ避ければ何とかなるしね。

「特に質問が無いなら出発しよう。ここから馬車で二時間ほどの場所の廃村に潜伏していると情報が入っている。」

どうやら馬車に乗らなきゃいけないみたいだ。場所が分からないし、勝手に車で行くことも出来ないし仕方ないか。

 先導されるまま、ギルドの外に出ると八台の馬車が止まっていた。たぶんパーティーごとに分かれて乗る形になるんだと思う。見た感じ結構きれいな馬車だから、普段は王族が使っているものなのかもしれない。

「む、馬車か。走った方が早いのだが…」

フランクがそう呟いたのが聞こえた。周りのAランクも似たような顔をしながら頷いている。私たちだって、飛んでいった方が早い。

「…体力温存のためだ。我慢してくれ…」

少し引き気味でそう言った責任者の声で、今回の強制依頼が幕を開けた。

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