第百二十四話 開戦の狼煙
ガタゴトと揺れる乗り心地の悪い馬車の中での話題は、もっぱら燃えてしまう半デーモンをどうやって捕らえるかという話題だった。
「やっぱり、魔力で燃えていることは分かってるんだから、魔力吸引でいいんじゃない?」
「エネルギー源が魔力なのは間違いないけど、たぶん半デーモン自身の魔力じゃなくて、どこからか流れてきてる感じなんだよね。」
「でしたら、魔力の干渉を防ぐような手段を考えればいいのではないですか?」
「それだと、こっちからも魔法で攻撃できなくなっちゃうでしょ。」
うーんと唸りながら三人して頭を悩ませるだけで、役に立ちそうな作戦は何も思いつかない。依頼内容的には燃え尽きてしまっても全く問題ないんだけど、やっぱり情報が得られないのは痛いよね。ドラッヘン・ホルト教だっけ。今回半デーモンに関することが解決したとしても、今後その大元関係で何かトラブルが起こるかもしれないし、少しでも情報が欲しい。ヴァネッサに期待するしかなくなってしまう。
「そもそもなぜ燃えてしまうんでしょうね…」
「やっぱり、口封じのためなんじゃない?」
私が少し考えこんでいるうちに、いつの間にか話題はどうやって防ぐかじゃなくてなんで燃えるのかということに移り変わっていた。
「それはそうでしょうけど…」
煮え切らない態度のアニ。私も少し気になるところはある。
「口封じなら死体まで消えるのはおかしくない?」
まあ、死体は燃えたというか消えたんだけど、口封じのためなら死体はそのままその場に残ると思う。半分とは言え、人間なんだから死体が消えるのはおかしい。ちなみに、アグニから聞いた話だけど、完全なデーモンだと肉体が消えると地界と呼ばれるデーモンたちがいる世界に戻り、肉体が再生するのを待つことになるそうだ。肉体さえ再生してしまえば、自分で魔法陣を使って、こっちの世界に来ることも出来るし、私がしたみたいに召喚に応じることも出来るってことだった。
「死体は消えて、捕まえたのは燃える…もしかすると、何かの契約かもしれないわね。」
「半デーモンたちは、例の教団と契約していたということですか?」
アニが疑問をアルトにぶつける。
「おそらく…ね。死体も含めた情報の開示を防いでいるんじゃないかしら。」
「じゃあ、燃えたのは捕まったことによって契約に抵触したから燃えてしまったってこと?」
あの半デーモン、お前らに話すことなんて無い。って言って何も話さなかったから、もしそうなら、捕まったとか、生きたまま敗北した時点でもうアウトなのかもしれない。
「最上位の契約には破ると命を失うっていうのがあるから、その結果かもってだけよ。実際にそれを破ったところを見たことがあるわけじゃないわ。死体が消えたのも、契約内容でそう縛っていたとしたらおかしなことじゃない。例えば、そうね…研究目的で死体を使うから、死後の肉体の所有権をもらうとかかしら。情報の流失を防ぐ以外のメリットとして思いつくのはそれくらいね。ちょっと気になるのは、炎のエネルギーが魔力ってところね。契約を破った時の罰に魔力が使われる例はあんまり見ないから。」
「もしそうだとしたら、生きたまま捕らえるのは難しそうですね…」
「契約していることを見破る手段は無いの?」
それが分かったら簡単にあきらめがついて、心置きなく狩ることが出来るんだけど…
「契約書を見つけるか、鑑定スキルの特殊技能で見つけるしかないわね。目利きの義眼じゃ多分見えないわ。」
これだけ、ガチガチに固めてるんだから、契約書なんて処分してるに決まってる。契約書が無くても、契約を結んだことが消えるわけじゃない。ステータスとして刻まれるわけだからね。
「契約書は残ってないでしょうね…」
「この際、情報に関してはあきらめるしかないかもね。」
本当に契約が関係していたとするなら、どうしようもないからね。むかつくけど仕方ない。
「まあ、やれるだけのことはしてみましょう…もうすぐ、王都を出てから二時間ね。そろそろ着くんじゃないかしら。」
もうそんなに経ったのか。話しているとあっという間だね。車窓にはカーテンがかかっていて、外の景色を見ることは無かったから、今どんなところにいるのかは分からない。ちらっと捲ってみると、どうやら森の中を走っているみたいだった。道理で揺れがひどいと思ったんだよね。ただでさえ乗り心地が悪いのに、舗装されていない森の中なら気持ち悪くなって当然だ。下りたら、即浄化で吐き気を消さないとだね。
そこから数分進んだところで、馬車が止まった。私たちが乗っているのは八台あったうちの、前から二番目の馬車だからか、すぐに扉が開かれ、説明がなされた。
「ここからは、敵に悟られないように徒歩だ。十分ほどで着くはずなので、なるべく静かに移動するように。」
それだけ言うと、後ろの馬車へと向かっていった。でも、これだけ人数がいたら隠密行動なんて無理だと思う。まあ、馬車で乗り付けるよりはマシか。
馬車を下りれば、車窓から見た通りそこは森の中だった。周りの木は白樺っぽいね。あれ?でも確か白樺って寒いところの木じゃなかったっけ。この辺りは確か冬でも暖かいって聞いてたんだけど…この世界では暖かいところにも生えるのかな。そんな感じで、ぼけーっと私が靴を泥まみれにしながら近くをうろうろ眺めているうちに、冒険者たちが全員馬車から降りたみたいで、今回の責任者の先導で進んでいくことになった。皆歩くのが早すぎて、身体強化をしてないと置いていかれてしまいそう。みんなの一歩が私の三歩くらいなのかもしれない。
言われた通り十分ほど歩けば、開けた土地に建物が何軒か見えてきた。廃村って聞いてたけど、ついこの間まで人が住んでいたかのように手入れされている。ボロボロの家を想像してたけど、全然違った。もしかしてあいつらが逃げてきてから整備したのかもしれない。
「魔力探知をしてみます。」
アニが他の冒険者にも向けているのかそう言う。
「二十体ほど潜んでますね。手前に七体、その奥に三体。右に四体。一番奥に六体です。」
「よし。では、馬車の順番で分けよう。一台目から三台目までは手前の建物、四台目、五台目がその奥。六台目はメンバーが多いためワンパーティーで右、残りが最奥だ。」
これだけ分けてしまっても、人班ごとの数は中の半デーモンに勝っている。たぶん問題ないと思う。パーティー同士の相性なんかは考えられてないけどね。まあ、狭い建物の中で乱戦になるだろうし、そんなに関係ないか。
「異論はないな?……いくぞ!!」
その声で、各々が走り出す。私は、開戦の狼煙とばかりに小爆撃を打ち込んだ。
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