第百二十五話 捕縛

 私が撃った爆撃が扉を突き破り、冒険者たちがなだれ込んでいく。私の魔法に特に驚いた様子はない。さすがはAランクって感じだね。ついでだから他の建物の入り口も広げといてあげよう。追加で三発小爆撃を撃っておけば、他の冒険者たちも入りやすいかな。

「って、あれアニは?」

隣にいると思ってたのにいつの間にかいなくなってる。

「もう行ったわよ。」

どうやら他の冒険者に混ざって突っ込んでいったらしい。まあ、近接タイプの技を得たわけだから問題無いか。

「あたしたちも行きましょう。」

アルトについて、私たちも突入する。家の中は、すでに戦闘中といった感じだ。金属がこすれる音と、怒声怒号が駆け巡っている。というか、この狭さだと弓を持ってる人とか全く役に立ってない。連携も何も無いね。みんな捕まえるというか、倒すことに重きを置いてそうだ。さて、私はこの時のために創った魔法でどんどん捕まえていこう。

 今回私が創った魔法は、魔力で作ったロープを操作する魔法だ。これでぐるぐる巻きにして一本釣りだ。

「縄魔法。」

私の声で発生したのは七本に先が分かれたロープ。私が持つ部分は一本に集約されてるから使い勝手がいい。まあ、これだと一本釣りっていうか七本釣りになりそうだけど。先が分かれたロープは半デーモンたちをぐるぐる巻きにしていく。全然重みとかも感じないね。普通の大人七人分って言ったら、300キロから400キロくらいの重さはありそうなのに。

「せーの!!」

全員にロープが巻き付いたのを確認してから、一気に吊り上げる。他の冒険者たちは呆然としている。吊り上げられた方も一緒だ。

「よし。」

建物の外まで引っ張り上げれば捕縛完了だ。私が捕まえたのを見たからか、中にいた冒険者たちもぞろぞろと出てくる。他の建物はまだ戦闘中みたいだね。

「お手柄だな…」

中から出てきた冒険者の一人がそう声を掛けてくる。鎧を着た剣士みたいな出で立ちだね。兜は被ってないから顔はしっかり見える。年齢的には二十代中盤くらいかな。というかこの口調だと、褒めてる感じは全然ないね。手柄を取られたとでも思われてそうだ。でも、私が扉を吹き飛ばしたのに、我先にと突っ込んでいったんだからお互い様だと思う。

「クソッ!!離せ!!」

そう声をあげたのはぐるぐる巻きになっている内の一人、私より少し年上の少女がそう叫ぶ。多分十五歳くらい。赤髪のショートヘアーで、結構美人だ。話せるのは捕まえた中だとこいつしか話せないっぽいね。目利きの義眼を使った簡易鑑定によると、ちゃんと半デーモンってことになってるね。喋れない個体と喋る個体の差は何なんだろう。

「そうはいかないわよ。初めに手を出してきたのはアンタらなんだから。」

「わたしたちは何もしてない!!悪いのは村長たちだ!!」

村長っていうのは、私たちを襲ってきた奴らか。まあ、あいつらが何もしてこなければこうはならなかった気もする。簡易鑑定をしなくて、正体が知られなかったとしても私たちに何かしてくるっていうのは目に見えてたからね。私のせいじゃない。

「お前ら、貴族に手を出したんだろう?連座処分は免れないだろ。王宮まで出てきてるんだからな。」

連座処分って家族とかの関係者も一緒に処分するってことだっけ。日本の法律だと考えられないね。そう告げられた半デーモンの少女は苦虫を噛み潰すかのような顔をしている。

「こいつら、全然燃えないわね…」

アルトが小声で耳打ちしてくる。確かにそうだ。これだけ話してるのに、誰一人燃えることは無く、ぐるぐる巻きの状態のままだね。何かしらのトリガーがあるのかもしれない。

「内部の調査は終わりました。生活用品ばかりで、契約書どころか紙の一枚もありませんでした。」

アニは中を調べてたみたい。やっぱり契約書は無かったか。まあ、契約の影響って確定してるわけでもなかったからね。

「そ、そうだ。あんた、村長が探してた例の聖―」

半デーモンの少女がそう言った途端、私たちの周りに立っていた冒険者たちが一斉に倒れた。

「何が―」

アニと少女は呆然としている。何が起こったか全くわからないって顔だ。てことはこれをやったのはアルトだね。

「ここから先は、言葉を選びなさい。この子が聖女だってことは他言無用よ。」

ああ。なるほど。私が聖女ってことがバレないようにするために意識を奪ったのか。いいなあその技。一瞬で意識を奪えるなんて、いろんなことに役立ちそうだ。今度教えてもらおう。こくりと頷きを返す少女半デーモンと、納得したというような顔のアニ。反応が分かれすぎててちょっと面白い。

「わ、わたしたちを助けてくれるなら、なんでアンタらが狙われてるのかとか全部話す。だからお願いだ…」

その瞳には、自分よりも強い者に対する絶対的な恐怖が見て取れる。

「情報を話しても平気なの?」

そう言って、燃えたりしたら目も当てられない。

「は、話せないのは村長と、爺たちだけだ。わたしは平気。」

やっぱり口止めをする何か自体はあったみたいだね。さて、どうしたものか…

「いいんじゃない?手に入らないと思ってた情報が手に入るわけだし。」

アルトも乗り気みたいだね。

「でも、全員は無理だよ。さすがに他の冒険者の手柄を奪うわけにはいかないし。」

「ここにいる七人だけでいい!!どうせあいつらはわたしたちごと―」

「おお。これですべて片が付いたな。七人の捕縛か。まあ、上々だろう。」

いつの間にか近くに来ていた責任者の声が聞こえる。どうやら他の建物も片が付いたみたいだね。

「む。他の奴らは気を失っているのか。其方たちは捕縛した奴らの連行を頼む。私は彼らを休ませられそうな場所に―」

このままだと、情報を聞き取る前に王宮に連行されてしまいそうだ。でも、私はこんな時に使える魔法のカードを持っている。

「こいつらの身柄はキースリング伯爵家が預かる。これ以上の手出しはいらないよ。」

この責任者は確実に私の正体を知っているだろうから、貴族としての身分証が効果抜群だ。

「了解した。私の方からそう報告しておこう。」

よし。これで確保完了だね。王家に丸投げしたのに、結果的にはわたしたちが処理することになってしまった。

「報酬はギルドに払っといて。」

それだけ言って、アニとアルトの手を取りテレポートを実行した。

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