第百二十六話 イザベル・シュルツ

 キースリング家への移動を終えたら、使用人たちへの軽い挨拶を済まして早速オリーヴィアに連絡を入れる。もちろん、例の無線機みたいな魔道具を使ってね。オリーヴィアは今年の講義はもう終えているって話だったし、いきなり連絡を入れて講義中ってことも無いだろうから問題ないはず。

「というわけで、半デーモンを七体捕らえたんですけど…」

オリーヴィアは社交の場に出ているということもなく、寮の自室にいたようで、問題なくコンタクトを取ることが出来た。かくかくしかじかと事情を説明し、二人はどうするのか聞いてみると、今日は休みの日ではないから学院の外には出られないと言われてしまった。何なら私が迎えに行くとまで言ったけど、なんでも点呼があるから、こっそり抜け出したとしてもすぐに見つかってしまうとのことだった。貴族の子供を預かっているわけだから、そういうところは厳しいんだって。休みの日に学院の外に出られるのも、エーバルトの執務や貴族としての仕事という名目にして、特例で外に出ているそうだ。結構規則が厳しいんだね。

 そんなわけで、半デーモンに行う尋問は私たちが行うことになった。後で情報を教えて欲しいってことだ。まあ、もともとは新しくキースリング領に加わった土地から始まっているわけだから、事情を知りたいのは当たりまえだよね。

「ってことらしいよ。」

念のため、例の外から魔力的干渉を受けない部屋で見張りをしていてもらっていたアニとアルトにそう伝える。その間、特に問題は起こっていないみたいだ。外からの魔力の干渉を受けないようにしているわけだから、燃え上がるってことも無かったみたいだね。まあ、ここまで大丈夫だったわけだから、今後も燃えることはなさそうだけど。

「じゃあ早速話を聞かせてもらいましょう。」

アルトのその声で尋問が始まる。私は、嘘をついたら電流が流れる例の魔法をかけておいて、そのことを説明した。事前に言っておくことで、嘘を防げて時間短縮になる。

「わ、わたしは、イザベル・シュルツ。十六歳。一応子爵の娘ってことだったけど、おぼえてない。捨てられてるのを村長に拾われたらしい。その時に、名前だけが書かれてる手紙がそばにあったってことだった。」

貴族の子供だったんだ。道理で顔が整っているわけだ。貴族は美人とばっかり結婚するから、顔が整っている人が多いんだよね。たぶん、シュルツって名字から貴族ってことを割り出したんだと思う。貴族の名字は複数の家庭で使われることは無いからね。まあ、分家とかは別だけど。イザベルは生まれたときから半デーモンってことではないみたいだね。

「アンタはどうやって半デーモンになったわけ?それに、デーモンに意識を乗っ取られていない方法は?」

「生まれてすぐに、デーモンを下ろす儀式をすると人間の意志を持ったまま、デーモンの力を得ることが出来るの。だから村長は私を拾ってすぐ、デーモンにした。」

「なら、喋れない他の半デーモンは…」

「ある程度成長している状態で、半デーモン化したってことね。」

アルトとアニのやり取りにコクリと頷くイザベル。

「でも、人間としての意識を失っている半デーモンは、感情を表に出したり、話したりすることは出来なくなる。だけど、半デーモン同士だと漠然としたものだけど、その…気持ちが伝わってくる。だから、こいつらだって生ける屍ってわけじゃない。表に出てこないだけでちゃんと生きてるんだ。」

なるほどね。だから、自分と一緒に助けてほしかったわけか。生きる屍状態なら、見捨てた所で何の呵責も無いだろうし。

「それで、その村長の目的は何だったの?」

判明したのはイザベルの生い立ちと、半デーモンについてのことだけで、それ以外のことが全く分からない。どうして私たちを襲ったりしたんだろう。

「村長と他の半デーモンたちは、もう何百年も生きてる。その間、ずっと意志のない半デーモンをもとに戻そうとしていたみたい。最近ようやくその方法が分かったんだって言ってた。詳しいことは教えてくれなかったけど、それにはあなた―聖女とその血族が必要だってことだった。」

なるほど。私たちの身柄が欲しいって時に、キースリング家の領地になったってわけか。私たちにとっては、そこが最悪のタイミングで最悪の場所だったってことだ。そりゃあ、税金も払わないよ。滞納してれば取り立てに来るってことが分かってるんだから。私が冒険者をしていることを知っていれば、護衛代わりについてくるってことも簡単に予想できる。

「要するに、自分の仲間を元に戻すために、この子とその家族が欲しかったってわけね。あんたは、ホントに関わってないわけ?」

アルトは怒りを隠しきれない様子でそう踏み込んだ。

「わたしは関わってない!!本当だ!!子供のころ、村長に見捨てられたわたしを拾ってくれたこいつらと静かに生きていけるだけでよかった!!そりゃあ、元に戻ってくれたらって思ったこともあるけど…」

イザベルの叫びとも呼べるその声が、無機質な部屋の中に木霊する。感情を表に出すことは出来なくても、内に抱えるものはあるってことだから、イザベルを助けたのにも納得できる。イザベルにとっても、自分を助けてくれた、この半デーモンたちが本当の家族みたいなものだったんだろう。だから、自分たちだけでもって命乞いをした。

「村長に見捨てられた…?」

アニが悲しそうな顔をして掬い上げたのはその言葉。確かに味方によってはひどいことだと思う。生後間もないうちに、人間としての自分を強制的に取り上げられた上に、育てるのを放棄したのだから。

「それは、わたしがデーモンとしての力を得ることを拒否したから…」

アニの呟きを理由を聞いていると取ったのか、そう小声でつぶやくイザベル。

「拒否した?どうして?」

物心つく前から半デーモンだったわけだから、そこに対する忌避感なんかは無いだろうに。

「デーモンの力を使えるようになると、わたしの意識がだんだん消えていくのが分かったから…。」

そんなの死ねって言っているようなもんだ。そんなの拒否して当たり前でしょ。

「なるほどね。あなたのことは分かった。じゃあ次はその村長について聞かせて。」

イザベル自身に敵対の意志はないことは分かった。まあ、だからと言ってロープをほどくわけにはいかないけど。

「私が知っていることなら…」

イザベルのその言葉を合図にして、私たちはさらなる尋問を開始した。

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