第百二十七話 呪術師の家系
「そもそも、その村長ってのは何者なわけ?」
アルトが再び、そう問いかける。
「村長は、分かってると思うけど、あんたらを捕まえようとした奴だよ。たしか、大昔の呪術師の家系の末裔だって言ってた。本当かどうかわからないけど、百年以上前から生きてるって昔、教えてくれた。半デーモンになった時点で、生殖機能は失ったらしくて、子供とか孫とかの子孫はいない。」
「てことは、その村長が一番初めの半デーモンってこと?」
「そうだよ。その呪術師の家系で、何世代かに一人、デーモンを完全に使役するスキルを持った人が生まれてくる。それが村長。そのスキルを使って、自分の身体にデーモンを降ろした。この使い方をしたのは、村長が初めてだ。完全に支配しているわけだから、意識を奪われることも無い。他人に使う場合は、成長してると、感情が表に出てこなくなるっていうデメリットがあるけど、自分に使った時は大丈夫だったみたい。」
まあ、自分のスキルを自分に使うわけだから、デメリットが無いのは普通だね。イエレミアスが使ったみたいな、とんでもないのはまた別だと思うけど。
「そこからいろいろ実験していって、赤ん坊なら、自分と同じような半デーモンにできるってわかったんだって。その実験の間、誰とも会話することが出来なかったみたいだから、嬉々として、私にいろいろ話してくれたよ。」
あれ、そういえばその村長、テレパシーみたいなの使ってなかったっけ。準備が出来たのか!!とか言ってたよね。話すこと自体は出来てたと思うけど…
「意思疎通自体は個体によっては出来てたみたいだけど、感情が無いから楽しくないんだって。」
ああ、なるほどね。事務的な会話しかできなかったってわけか。
「それで、あいつはなんで死んだわけ?」
村長の生い立ちは分かったけどそこら辺のことは全然分からない。まあ、アルトが生い立ちを聞いたからなんだけど。
「なんでって、アンタらが処分したんじゃないのか?」
「私が殺したのは周りの奴らだけだよ。エーバルトが―私の兄が情報を聞き出したいから殺すなって言ったから村長には何もしてない。勝手に燃え上がって、ドラッヘン・ホルト教っていう宗教団体の紋章を残して燃え尽きた。」
事実をそのまま説明しても、イザベルは困惑している様子だ。この感じだと、何も知らないんじゃないかな。せっかく捕まえてきたのに…
「そうだったのか。それは、わたしにも分からない。その教団も初めて聞く名前だし…でも、勝手に燃え尽きたっていうなら、何かの契約を破ったからだと思う。前に、同じような状況を見たことがあるから。村長が契約してたデーモンが燃え尽きてた。紋章が残るのはなんでか知らないけど…」
契約が関わってるのは間違いなさそうだね。まあ、今までの話を聞いた感じ、ドラッヘン・ホルト教自体は、今回のことには関わってなさそうだから、何もしてこない限り放置でいいかもしれない。
「やっぱり契約だったみたいですね。」
「最上位の契約をそんなにポンポン結んでるなんて、馬鹿としか思えないけど。」
アルトが毒づく。死んだ人に忠告しても全く意味ないけどね。
「デーモンを支配するのに必要だったらしいよ。」
この状況に慣れてきたのか、だんだん砕けた口調になってきてるイザベル。まあ、いいんだけどね?この娘はホントに何にもしてないみたいだし。
「あ、そういえば、ヘルマン侯爵とも何か契約してたみたいなんだけど、それについては、何か知ってる?」
こっちは聞いておかないとね。今後また何かあるかもしれないし。
「たしか、村を権力の面から守らせるような契約だったはず。でも、今の侯爵個人と契約したんじゃなくて、代替わりしても平気なように、ヘルマン侯爵っていう立場の人と契約してたみたい。」
ヘルマン侯爵には、契約について話すことを禁じておいて、自分はイザベルにべらべら話してたわけだ。イザベルが見捨てられる前に聞いたってことだから、子供が相手だから大丈夫とでも思ってたんだろうか。イザベルの理解力と記憶力を甘く見てたってことだね。
これで大体聞きたいことは聞けたかな。ここにいる七人で、半デーモンの生き残りも全部だろうし、今後敵対してくるってことは無いだろう。キースリング家としては、せっかく手に入れた新しい税収源を失うことになっちゃったけどね。せめて、村の建物なんかがそのまま残っていれば、他の領民を移動させたりして、使い道があっただろうに。かわいそうなことこの上ない。伯爵位を継いだばかりなのに、こんなトラブルばっかりでエーバルトも大変だね。
「さて、あんたら、これからどうするつもり?」
思考の海から戻ってきたアルトが、そう声を掛ける。住んでた場所も指導者も失ったわけだ。ついでに、半デーモンだとバレたことで、社会的な立場も失った。今まで通りの生活なんて絶対できない。いろいろ教えてくれたし、この娘も結構かわいそうな生い立ちだからな…少しくらいなら手助けしてあげてもいいかもしれない。
「色々教えてくれたし、約束通り命は奪わないけど、このまま開放するわけにもいかないんだよね。」
「な!?どうして―」
少し、疑惑と怒りの真ん中といった様子で声を上げるイザベル。もしかすると、少し勘違いしているかもしれない。
「このまま、あなたたちを自由にしても、今日の関係者に出会ったらまた捕らえられたり、最悪、殺されるかもしれないよ。それに、王家にも報告が行っただろうから、自由になっていることが分かったら、すぐに触れを出されて、お尋ね者だよ。まあ、普通に暮らすのは無理だと思う。」
ホントにどうしよう。身柄は預かるなんてかっこつけて連れてきたはいいけど、その後のこと、全然考えてなかった。
「うちの拠点で雇えばいいんじゃないですか?他の使用人たちとしているように、契約して、敵対しないようにしておけば、特に問題も無いのでは?アグニさんもいますし。」
いいアイデアかもしれない。それなら今回の事情を知っている誰かにバレたとしても、労役を課しているとしか思われないだろうし。まあ、使用人としてちゃんと使えるならだけどね。イザベル以外の六人が会話できないのはちょっと不便かもしれないけど、警備の方に回せば、何とかなるだろう。報告なんかは、それこそイザベルを通せばいい。
「良いかもしれないわね。家の使用人規模に対して、そんなに多くないし。」
「わ、わたしたち、ちゃんと家事はできるぞ。身の回りのことは自分たちでしてきたからな。」
イザベル自身もそんな感じで売り込んできた。異論自体はないっぽいね。
「一応、キースリング領の領民だから、処遇はエーバルトにも相談しないとだけど、その方向で考えておこうか。」
皆に向けてそう告げると、イザベルと、他の半デーモンたちの表情に少し明るさが加わった気がした。
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