第九話 魔法を覚えたよ

(なんで!?)

『保険よ、保険。実際に使おうだなんて思ってないわ。抵抗できる手段があるのとないのじゃ大違いでしょ?』

(まあそれはそうだけど…)

『この魔法があれば極論、国そのものを人質にとることができるわ』

(そんなことしたらそれこそ捕まるよ!!)

『どこに国を更地にできる人間を捕らえて置けるっていうのよ』

(でも、追われることにはなるでしょう?それなら今から出発するのと変わらないんじゃない?)

『それはそうかもしれないけど、抑止力にはなるでしょ?こっちに手を出したら黙ってないぞってね』


前世でいう兵器みたいなものかな。そう考えるとありな気がしてきた。


(広範囲爆撃魔法って簡単に覚えられるものなの?)

『興味が出てきたみたいね。まあ、ぶっちゃけて言うと、そんな魔法は存在しないわ!』

(アルトは頭がおかしいの?)

『ゴミを見るような目はやめて!!無いなら作ればいいのよ!!』

(作るって魔法を?そんな簡単そうには思えないけど…)

『それが意外と簡単にできるのよ。そう、創造魔法ならね』


某スマートホンのCMのようなことを言いながらきっとドヤ顔をしているアルト。


『創造魔法っていうのはその名の通り、魔法を作る魔法よ。もちろんこんな規格外の魔法、普通は使うことはできないわ。でも精霊魔法を使えば魔力の制限がなくなるわけだから、使用が可能になる。それにこれさえ使えるようになってしまえば実質新しく魔法を覚える必要がなくなるわ。なんてったって作ればいいわけだし』


創造魔法もたいがいだけど根幹にある精霊魔法がやっぱりチートだ。


(じゃあまずは精霊魔法からってことだね?)

『そうなるわね。それさえ覚えればあたしを見ることだってできるわ』

(関係あるの?)

「精霊魔法を覚えれば魔力そのものを認識できるようになるわ。精霊の体ってほとんどが魔力みたいなものだから」


なるほど。そうつながってくるのか。


(じゃあ早速精霊魔法教えてよ!!)

『気が早いわね』


まあ、八年も待ったわけだしね。


(だって昼間はマナー講座やら勉強やらで時間が取れないじゃない。それに早くアルトと顔を合わせて話したい)

『そ、そうね。じゃあ始めましょうか』


計画通り。最後の一言が効いたみたいだ。


『まず精霊魔法っていうのは、あたしを媒介として空間から魔力を取り入れる魔法よ。そのために必要なのが、契約で出来た私とあなたのつながりを認識することね。ここまでいいかしら』

(はい。先生。)

『先生…。悪くない響きね。そのつながりを認識する方法だけど、まず、自分の内側に目を向けてみて。』


自分の内側に…。それならぴったりの方法を知っている。


『ちょっとどうしたの!?そんな変な姿勢になって…。足を痛めるわよ』

(何って座禅だよ。前世の世界の伝統的な自分と向き合う方法だよ)


ブラック企業で働き続けていた私は心の安寧を得るため、たまに座禅を組んでいたのだ。まあ独学だから正式な方法とは違うかもだけど。

そんなことを考えながら目を閉じる。すると徐々に私の身体の輪郭が見えてくる。前世ではこんなことはなかったからきっとこれも魔力の影響かな。ぼやけていた輪郭が徐々に徐々に晴れていき、真っ暗な空間に浮かぶ、座禅を組んだ体制のままの私がはっきりと見えた。すると胸の左側、心臓の位置から何か光るものが伸びている。それを辿ると何もない空間に――いや、何かにつながっている。そこには小さな人影が――「それ」を認識した瞬間、私の意識と呼んでいいのか、とにかく私の意識が私の身体に吸い込まれた。


 『どうやら認識することができたみたいね』


その声とともに目を開くとそこはさっきと変わらず、離宮の私室。


(アルト、思ったより小さいんだね)


あの人影はきっとアルトだ。早く姿を見てみたい。


『肉体の大きさなんて些細なことよ。それよりつながりは視えたかしら』

(ばっちりだよ)

『なら周りに何か光るものが見えるはずよ』


そういわれ目を凝らすと、ダイヤモンドダストのように光るものが辺りを舞っていた。


(きれい…)

『それが魔力。あとはそれを取り込むことができれば精霊魔法の習得は完了よ。取り込むには――』

(取り込むっていうか、魔力の方から集まってきてるみたいだけど)


私の周りに集まるダイヤモンドダスト。その光景は今まで見たことがないほど幻想的なものだった。その光たちが私の身体に入り込むと、ほのかな温かみが広がった。


『魔力に愛されるっていうのはこういうことをいうのね。私たちよりよっぽど――』

『個体、ハイデマリー・キースリングが精霊魔法を取得しました』 


超久しぶりに聞いた神の声に少し驚いた。


『完璧ね。これであなたも魔法使いよ』


その声は今まで通り頭の中に響いたものだったが、顔を上げるとそこには15センチほどの人間が浮かんでいた。


(アルト?)

『初めて目が合ったわね。なんだかうれしいわ』


目の前に浮かんだアルトの瞳はきれいな翡翠色をしていた。透き通るような白い肌に夜空のように濃い青色をした髪。その姿は儚げで明らかに人間離れした美しさだった。


『どうしたの?急に黙り込んで』

(ちょっとうれしくて)


長い付き合いなのに初めて相対した今、私の胸に温かいものがあふれた。それはきっと魔力の存在とは別のものだ。


『ずっと魔法を使うの楽しみにしてたものね』


アルトは魔法が使えるようになったからだと勘違いしてるみたいだ。


(ていうか魔法をもう使えるの?)

『もちろんよ。だけど魔法を覚えるのは結構大変なのよ?』

(そうなの?でもこの世界にはそこそこ魔法使いがいるって本で見たけど…)

『正確にいうと、今人間が使っているのは魔法ではないわ。あれは呪文を使って魔力を変質させる術なのよ。呪文さえわかってしまえば魔力を持っている人間ならば誰でも使えるわ。それに比べてあたしたちが使う魔法にとって魔力はただのエネルギー源で魔法を放つのは術者自身。だから呪文も必要がない。だけどその分習得が難しいって感じかしら』

(じゃあ人間が使っている魔法は厳密にいえば魔法じゃないってこと?)

『そういうことになるわね。疑似的に魔法を使う技術ってとこね。そこからとって魔術ってとこかしら』

(なら魔術の呪文を教えてよ)

『どうして?』

(だって魔法は難しいんでしょ?だったらまず魔術使ってみたいなって)

『あたし、呪文なんて知らないわよ』

(じゃあどうして聞いたのさ!?)

『気になったからに決まってるでしょ。それにただ使ってみたいだけなら水魔法なら使えるわよ。なにせ水の精霊であるこのあたしと契約しているんだから』

(私も使えるんだ。で、どうやるの?)

『魔法は最初が肝心で、大切なのはイメージよ。初めは水を生み出すことから始めましょう。掌の上に水の球を浮かべるイメージをしてみて』


言われた通りイメージすると掌の上、数センチのところに水が集まってテニスボールほどの大きさの水の球が出来上がった。


『個体、ハイデマリー・キースリングが水魔法を習得しました。』


またまた響いた神の声。


『そういえば言い忘れていたわね。魔法に関しては覚えたら魔術とは違って神の声が教えてくれるわ。要するに鑑定を使われたら水魔法が使えることが知られてしまうってわけね。といってもしばらく鑑定されることなんてないと思うけど』

(そうなんだ。でここからどうすればいいの?)

『興味津々って感じね。最初のイメージさえ確立できてしまえばあとは簡単よ。そこから発展させればいいのよ』


発展といってもどうしたらいいんだろう?試しに大きくしてみようかな。そう考えてイメージをするとテニスボールほどだった水の球がサッカーボールほどまで大きくなった。


(こんな簡単にできるんだ!!)

『といってもここまで簡単にいくのはあたしと契約しているからであって、水魔法以外はこうはいかないわよ。最初がものすごく大変なんだから』

(でも、創造魔法を覚えれば解決でしょ?一回で済むんだし。)

『そうね。それが創造魔法のすごいところよ!本当は水魔法だって覚える必要ないのよ?』

(でも使ってみたかったし…)


なにせものすごく待ったからね。でもこの魔法があったら前世の水不足は簡単に可決するなあ。それに洪水なんかの水害もすぐ解決できそうだ。

そう思った瞬間、私の部屋が水没した。


(んーーー!?)

『何やってるのハイデマリー!?早く水を消しなさい!!』


そういわれて初めてこの水没が私のせいだと気が付いた。急いで水を消すイメージを固めると一瞬で水が消滅した。ということは天井近くまで浮かんでいた私を支えるものも消えてしまったわけで…。


「痛てっ」


思いっきりしりもちをついてしまった。


『まったく何やってるのよ。』

(いやあ、洪水も解決できそうだなーなんて思っちゃって)

『言ったでしょ。イメージが大切だって。魔法を使ったままそんなことを考えたら、そりゃああなるわよ』


このままだとお説教モードになりそうだ。何とか話を逸らさないと。


(そういえばあんなに水が出たのにどこも濡れてないね)

『そりゃあ。魔法で作った水を消したんだからいろんなものについた水分もまとめて消えるわよ』

(なるほ)

『じゃあ、これくらいにしましょうか。今日は大忙しだったし疲れたでしょ』

(そうだね。もうくたくただよ)

今日はもうこのまま寝てしまおう。魔法も覚えたしいい夢が見れそうだ。

(おやすみ。アルト)


そういって真新しいベットに身体を預ける。


『ええ。おやすみハイデマリー』


そういうとアルトは姿を消した。

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