第八話 作戦会議をしたよ
「ハイデマリー。あなた嘘をついているわね」
こちらを見つめる瞳はひどく蠱惑的でこのまま吸い込まれてしまいそうだ。
(バレないって言ったじゃない!!全然バレてますけど!?)
『だだだ大丈夫よ!!嘘がバレたって嘘だなんて証明できっこないわ!』
(いや、でも…)
「どうしたの。押し黙っちゃって。」
そんなことを言われてしまっては何か答えるしかない。
「本当に――」
「まあいいわ。女の子に秘密はつきものよ」
『いいんだ!?』
これにはアルトさんまで驚愕である。
「あまり妹を虐めるものでもないしね。でも精霊魔法に興味があるのは本当よ」
最後の一言で一気に胡散臭い空気が漂い始めた気がした。たぶんこの人は私から精霊魔法について聞きだすのが目的なんだろう。といってもまだ私もほとんど何も知らないわけだけどね。
「だけどお姉さま。私本当に何もわからないのです」
これ以上の追及は面倒だし何とかごまかさないと。
「そう。まあそういうことにしておいてあげる。何かわかったら是非教えてちょうだい」
「わかりました」
「では、戻りましょうか」
今までの蠱惑的な雰囲気はどこかに消え失せ、元のお嬢様然としたものに戻っていた。
少し気まずい空気を感じながら、離宮へと向かう私たち。
『戻ったら作戦会議よ!!』
なんて言ってるアルトと談笑していれば大して距離があるわけでもない離宮へはあっという間に到着してしまった。
「ここが離宮よ。あなたの部屋は二階の部屋に準備されているみたいだわ。私の部屋は一階のエントランスを挿んで右の部屋で、お兄様の部屋は左の部屋ね。何かわからないことがあればあなたの部屋の反対側にメイドのアニの部屋があるから彼女に聞くといいわ。ああそうそう、食事だけは本館の方で摂る必要があるから注意してね」
「わかりました。案内ありがとうございました。お姉さま」
「いいのよ。ではまた明日。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そう言おうとオリーヴィアはさっさと引っ込んでしまった。
離宮の中はまさに本館のミニチュアといって感じだった。家具や調度品の雰囲気は本館と似たようなものだ。だがあの女が費用をケチっているのか使用人はメイドのアニともう一人執事がいるだけのようだった。着替えの手伝いに湯あみの準備なんかでとても忙しそうだ。
階段を上り自室に入るとそこはすでに整えられていた。私の持ち物、といっても洋服ぐらいしかないけれど、それも運び込まれているみたいだ。
『じゃあ早速作戦会議ね!!』
(ちょっと一息つかせてよ。私はアルトと違って疲れるんだよ。肉体があるんだから)
『ちょっとそれ精霊差別よ!!あたしだって疲れることくらいあるわよ!』
(どんな時さ?)
『そうね…今日は疲れたわねえ…』
(嘘臭い)
『嘘じゃないわよ!!』
(そんなこと言ってほかに思いつかないでしょ?)
『ま、まあその話は置いといて、作戦会議よ!!』
露骨に話を逸らされたがまあどうでもいい会話だったし良しとしよう。
『まずあたしが今最も危惧しているのは、ズバリ王宮の件ね』
(聖女バレや契約のことじゃなくて?それにオリーヴィアのこともあるけど…)
『それも確かに問題だけど、こっちの方が問題だと思うわ。あたしたちの今後について考えるとね』
(今後って旅に出るってこと?)
『そうね。おそらく王宮へ行ったらその日に王族の誰かと婚約を結ばされることになる。これがとても厄介なのよ』
(婚約!?私まだ八歳だけど!?)
『そうおかしなことでもないわ。貴族の婚約はまだ生まれる前から決まる場合もあるくらいだし』
(貴族恐るべし…。でも私結婚なんてする気ないよ?)
『あなたにその気がなくても親同士が認めてしまえば成立してしまうの。それにあなたは次女なわけだから、いくら女性貴族を認めているこの国でも爵位を継ぐ可能性は低いわけだし、婚約にデメリットが一切ないわけ。あの女からすれば王族と親戚になれるわけだから喜んで結ぶだろうし、王族側からすれば聖女を手元におけるチャンスを逃すはずがない』
考えてもいなかった。私はあの第一王子が言った相談という言葉を額面通りに受け取ってしまった。貴族の考えには裏があるということ頭ではわかっていたつもりなのに。
(でも婚約したからって旅に出ることに何か関係あるの?)
『大ありよ!!婚約すれば当然王族からの監視が付くことになるし、その中で突然姿を消したらどうなると思う?それも三百年ぶりに現れた聖女がよ?』
(そりゃあ血眼になって探すだろうね)
『そうよ!国中にあなたの似顔絵が出回り気分はまるでお尋ね者よ!!そうなれば旅を楽しむどころじゃないわ』
言われてみればその通りで今更になって危機感が募りだした。
(なら何とかして婚約を結ばせないようにしなければ…)
『そうね。でも現状それは厳しいわ。今から逃げ出そうにもこんな状況になるとあの女が警備を強化しないはずないからそれも難しい』
(もう手詰まりじゃない!!)
『いや、まだ手はあるわ。要するに王族側にもあの女にも納得させて旅立てればいいのよ!!』
(そんなことできるの!?)
『できるわ!!魔法を使えばね。』
私もついに八歳になったわけでようやく待ちに待った魔法習得の時が来たわけだ。
(待ってました!!)
『あなたに最初に覚えてもらうのは空気中の魔力を使えるようにする精霊魔法と超広範囲爆撃魔法よ!!!』
とんでもない魔法がアルトの口から飛び出した。
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