第八十四話 争いが生んだもの
アニとアルトからテレパシーで連絡が来てないってことは、まだ危機的状況に陥ったということは無いはずだ。もしかしたら、敵がまだ来ていないということも考えられる。とにかく、このことを二人に伝えないと。
『いや、まて。この会話もハイデマリー・キースリングに聞かれている恐れがある。伯爵の屋敷で彼女は別の部屋から会話を聞いていた…よし。以降は筆談に切り替える。緊急時以外はそれを徹底してくれ。』
そこから、侯爵の声は聞こえなくなってしまった。完全に対策されちゃったね。まあ、一度この魔法を体験しているわけだし仕方がない。とにかく今は二人に連絡しないと。
(アニ、アルト。そっちの状況は?)
テレパシーを使って呼びかける。
(こっちは、特に変わったことはありません。)
アニからの返事が来た。よかった。まだ大丈夫みたいだ。
(侯爵が秘密裏に兵を送っていたらしいの。たぶんこの前の刺客はその事前の偵察も兼ねてたんだと思う。何日か前に出発してるらしいから、いつ襲ってきてもおかしくない。私もすぐに戻るけど、注意して。)
『やられたわね。敵の数は分かる?』
(盗聴魔法の対策されちゃったから、そこは聞けなかった。だけど、そっちがメインの兵力みたいな感じで言ってたから、少なくはないと思う。)
『了解。事前に分かっただけでも十分な情報よ。こっちもある程度準備ができるからね。』
(障壁があるから大丈夫だとは思うけど、絶対はないからね。注意しといて。私はこの前見つけた貨物路の上から飛んで戻るよ。もしかしたら、追いつけるかもしれないし。)
それが一番いい。先制攻撃にもなるし、被害を減らせる可能性もある。
(お嬢様が攻め入ったことが、魔道具か何かですでに連絡されているかもしれません。そうなっていれば、向こうも警戒しているはずです。お気をつけてください。)
確かにその可能性もある。進軍中の兵の中には確実に魔術師もいるだろうし。私が来ることが分かって入れば、事前に何かしているかもしれない。
(分かった。こっちも気を付ける。何かあったらすぐ連絡してね。)
テレパシーを終了し、敵軍が進軍に使っているであろう貨物路の上空へ。地上を視認できるギリギリの速度と高度で進む。何とか追いつければいいんだけど…
そこから三十分ほど飛び続け、キースリング領内に入ってしばらく進んだところで、地上に集団を見つける。もうほとんど屋敷との距離も無い。
「何とか追いつけた…」
そう呟いたとき、再びテレパシーが聞こえてきた。
(お嬢様。敵軍が屋敷まで到達しました。今は障壁に阻まれていて、これ以上進んでくる気配はありませんが、今後どうなるかは…)
(もう屋敷に!?今ちょうど追いついたところだったんだけど、まだ屋敷まで一キロくらいはあると思う。ここが最後尾だとしたらすごい数で攻めてきてる。)
どこからこんな兵力を集めたんだろう。千人なんてレベルじゃない。少なくともさっき無力化した軍の十倍はいる。
『とにかく、魔術師の無力化を頼むわ。こっちも障壁の境界から攻撃を仕掛けるから。』
二人は前から、私は後ろからってことだね。
(了解!)
やることはさっきと同じだ。まずは魔力探知で…
「すごい数…」
千は軽く超える数の魔力反応。よくこんな人数集められたな…これだけの人数から魔力を集めるのには時間が掛かりそうだ。
「魔力吸引」
今度は悠長に魔力吸引だけをしているわけにはいかない。広範囲に爆撃を撃ってみよう。魔術師に防がれたとしても、ある程度は有効なはずだ。
(こっちから爆撃魔法を撃って攻撃してみる。防がれても、相手の魔力を減らせるから。障壁の外には絶対出ないで!!)
それだけ告げて爆撃魔法を放つ。王宮を爆破した時以上の威力だ。これなら…眼下を包む粉塵が晴れると、そこに見えたのは透明な壁。光を反射していなければ見えないくらいだ。防がれた。でも、これで向こうの魔力は枯渇寸前のはず。吸引で入ってくる魔力もほとんどなくなってるし。
「もう一発…」
そのとき、左足に衝撃が走った。その直後に訪れたのは強烈な痛み。ほぼ反射的に向けた視線の先には、一本の太い矢が刺さっている。それを認識した途端。痛みはさらにひどくなる。このままだと、痛みのせいでイメージが鈍り、使っている魔法が全部解けてしまう。早く治さないと。刺さった矢を引き抜いて、浄化で治療する。痛みは徐々に引いていく。これなら平気かな。
「あそこだ!!矢を放て!!」
治療を進めていると、下からそんな声が聞こえてくる。まずい。見つかった。さっきの痛みで透明化が解除されたのか!!こうなったら一度、障壁の中に戻ろう。大量の矢が狙って飛んでくるとしたら、防ぐ手段が無い。だけど、タダで戻るわけにはいかない。魔力を回復される前に確実にダメージを与えないと。もう一度、爆撃魔法を放ってから、屋敷内へテレポートしよう。どうなったかは、望遠魔法で確認すればいい。そこから、爆撃とテレポートをほぼ同時に発動し、この場を離れた。
テレポート先は屋敷のダイニング。ここにいるのは使用人たちだけだ。
「アニとアルトは?」
「正門で防衛にあたっています!!エーバルト様とオリーヴィア様も近くにいるはずです。」
「分かった。ありがとう。」
そこから全速力で正門へ。最近走ってばっかだな…
「アニ、アルト!!状況は!?」
正門付近に二人の姿を見つけ、そう声を掛ける。近くには衛士たちが蹲っている。まさか、突破された!?
「ああ、おかえりなさい。すごい威力だったわね。ほら…」
アルトが指差す先は、無数の肉塊と鮮血が飛び散る、まさに地獄のような光景だった。衛士たちが蹲っているのは、吐いていたからだった。これはさすがにキツイ…
「ここまでの威力で撃ったつもりはなかったんだけど…」
痛みと焦りで集中が乱れたのは否めない。制御を外れて威力が異常に上がってしまったのかもしれない。
「やってしまったことは仕方ないわ。生存者を探しましょうか。このままにしておくと、病気が蔓延するかもしれないし、近いうちにここも何とかしないとね…」
さすがのアルトも少し気分が悪そうだ。
「生存者いるのでしょうか…」
「でも、このまま放っておくわけにはいかないでしょ。」
そう言うとともに、アルトが障壁の外へ一歩を踏み出す。それなのに、私が何もしないわけにはいかない。この地獄を生み出したのは私なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます