第百四十四話 お父様との食事

 みんなと離れた後、お父様と一緒に入ったお店は個室のコース料理店。お昼からコース料理を食べることになるとは思わなかったけど、この辺りに、話をするのにちょうどいい食事処が他にないみたい。旅人や商人の町だから、個室のお店っていうのがそもそも少ないらしい。商人なら商談で個室のお店を使うんじゃ?と思って聞いてみたけど、そんな機密性の高い話は、商談相手か自分のどちらかのお店で行うんじゃないかってことだった。全くその通りだね。


「何でも好きなものを頼んでくれていいぞ。ここで御馳走できる位の解消はあるつもりだ」


お言葉に甘えて、私が注文したのはローストビーフがメインに据えられたコース。魚にしてもよかったけど、体が白米を求めてしまう。早く白米を見つけなければ…この国にあればいいんだけどね。


「そう言えば、エーバルトとオリーヴィアはどうしてる?家を出たと言っていたが、二人とは会っているのか?」

「二人とは、たまに会っていますよ。この前も、王都の貴族エリアで会いました。二人とも今は学院に通っている時期なので、頻繁に会っているわけではないですけど、元気そうですよ」

「今年の学院もそろそろ終わりの時期だな。となるとエーバルトは卒業か。結婚相手は見つけられたんだろうか…」


そう言って少し心配そうなお父様。何年もあっていないと言っても、自分の子供の年齢は覚えているものみたいだね。オリーヴィアに婚約依頼が殺到してるって話は聞いた気がするけど、エーバルトの話は聞いたこと無いね。私のことがあるから、全く婚約の話が無いってことは無いだろうけど、相手はちゃんと選ばないといけないと思う。エーバルトの今後の人生に大きく関わるってこともあるけど、私の扱いがどのようになっているかも話さないといけないわけだしね。私の貴族社会での立ち位置は、すでにどこかとんでもないところとの婚約が決まっているお嬢様ってことになっている。そんな娘が家にいないって言うのは不審がられると思う。相手の家で暮らしているってことにしたとしても、来年には十歳で、その立場を考えると、必ず学院に入学してくるって思われるだろう。そこに現れないとなれば、嘘だってことが簡単に露見してしまう。貴族なら学院の中に情報網を張っていてもおかしくないし。それを考えると、結婚相手には真実を話すしかないんだよね。


「どうでしょう。今のキースリング家は私のこともあって、事情が複雑ですから…上手くいっていればいいんですけど…」


 そこから私は、今のキースリング家の状況を私の過去と併せてお父様に話し始めた。もちろん転生者だってことは伏せておくけど。


 私が聖女だって判明してから、王族に売られかけて家を出たこと、私の貴族としての立場、ヘルマン侯爵との戦争とか。思えばいろいろあったな…あとは、あの女の現在と、王宮を破壊したことによって、王家への影響力を得たことなんかも話しておいた。その話にはさすがに引いているみたいだったけど、私がされたことを思えば、まあ…みたいな感じで一応は納得してくれたみたい。それほど、貴族が自分の子供を売るってことは非常識なことみたいだね。あの女に関しては、さすがに私が直接手を下したってことは言わないでおいた。そう言っておけば、城の崩落に巻き込まれたか、王家に責任を取らされたって思ってくれると思う。騙しているみたいで、少し申し訳ないけど、このことを告げるには、まだ信頼関係が築けていなさすぎる。さすがに、私もそこまで甘くない。


「そんな状況になっていたのか…それも、ほとんどこの一年で…色々大変だったな。家を出た後も、君に生きていく手段があって良かったよ。私が何もできなかったことが歯痒くてならないが…」

「お父様のせいではないですよ。すべての元凶はあの女の―フリーダのせいですから」


私があの女を母と呼ばないことに、顔を顰めたというか、痛みを我慢するかのような顔を浮かべるお父様。


「そう言えば、君は家を出てからどんな暮らしをしているんだい?もちろん、冒険者の仕事をしていることは知っているが、初めはそうもいかなかっただろう?」

「最初から、割と何とかなってましたね。私が小さいころに、聖女の力を使わされてあの女が稼いだお金を回収してきましたから。王宮を破壊した後は一番近くの町で宿を取って生活してました。そこで魔力炉が欲しくて、ダンジョンに入るために冒険者になったら、最初から私とアルトはAランクだったので、すぐに仕事も入ってきました。今はダンジョンを攻略した時にもらった勲章の年金もありますから、生きていくだけならどうとでもなります。もちろん、冒険者としての仕事は続けていますよ。この前は土地を買って、拠点も作りました。一瞬で場所を移動できる魔法を使っているので、毎日帰れます」

「そうか。冒険者として立派に暮らしているんだな。命の危険が常に付きまとう職業だから、心配事は尽きないが…貴族が冒険者になるなど前代未聞のことだろうが、君には合っているかもしれない」

「実は私も、貴族として生活するより、自由気ままに冒険者をしている方が気楽だと思っています」


 そんな話をしていると、料理が運ばれてきた。まず、届いたのはスープ。クタクタになった野菜が入っている、塩味のものだ。これをおいしいと思って出しているなら、料理人のセンスを疑う。


「これはいいものだな。普段食べているものよりも美味い」


私の感想とは全く違うことを言うお父様。普段、何を食べてるんだろう…


「今度うちの拠点に来てくださいよ。もっとおいしいものをご馳走できますから」


超一流の料理人と、私の向こうの世界のレシピを合わせたサラブレット料理だからね。美味しいに決まってる。


「そうか。それは楽しみだ」


これにはちょっとした打算もある。お父様は優秀な魔道具職人だから、うちの料理を気に入って、そのままうちに就職してくれないかな。なんて思っている。


「そういえば、お父様は魔道具職人なんですよね。私も、魔道具を作ることがあるんですけど、魔力炉が手に入らなくて、どうしても限界があるんですよね…」

「どんな魔道具を作ったんだ?」

「馬のいらない馬車に、拠点の温度を一定にする魔道具、火力調整が出来る料理用の火起こし器、井戸から水をくみ上げる装置に、自動湯沸かし器ですかね。あ、後は通信の魔道具もつくりました」

「それはまた…君の発想力には脱帽だな。魔道具を作る技術は合っても、新しいものを開発するのは私には難しい。改良するのは得意なんだが…」


お父様の魔道具作りは、すでに開発されているものを量産したり、改良したりすることがメインってことみたいだね。それなら私が設計して、お父様が作るみたいな形にすればより良いものが作れるかもしれない。


「今度、拠点に来た時には私が作った魔道具も見ていってくださいね」

「ああ。楽しみにしておくよ」


そんな話をしている間にも、どんどん料理が運ばれてくる。お父様との食事は有意義なものになりそうだ。まあ、料理はおいしくないけどね!!

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