第百四十五話 魔力炉の供給
「魔力炉の作り方?ハイデマリー。君は魔力炉の作り方を知っているんじゃないのか?今までに、いくつも魔道具を作ってきたんだろう?」
「魔道具は作ってきましたけど、魔力炉の作り方は知りません。全部ダンジョンで手に入れたものですから」
お父様との食事はあのまま進んでいき、今は食後のデザートタイムだ。楽しみにしてたのに運ばれてきたのは、あのメロンもどきのトマトだった。この短期間で、二度も私の前に現れるとは…もしかすると、高級食材的な立ち位置なのかもしれないね。このお店で美味しく感じたものはローストビーフくらいかな。こっちの世界に来てから格段に食べる機会が増えたものだけど、これはどこでもおいしい。さすがにちょっと飽きが来ているけど、調理法のレパートリーが少ないこの世界だと仕方がない気がする。ほかに普及しているお肉の調理法なんてただ焼くだけみたいなものだけだし…
「なるほどな。確かに、あの国だとダンジョンで出土するものくらいしか手に入らないか。よくそんな数手に入ったな。普段市場に出回るものは魔道具ギルドが買い占めてるだろ?」
「たまたま運よく、誰にも発見されていないダンジョンを見つけたので。そこで手に入ったのが大きいですね。あ。この果物食べますか?私、どうにも苦手で…」
「なるほど。それで魔力炉の作り方を知らなくても、魔道具を作れていたわけだな」
私の言葉にそう返しながら、「好き嫌いすると大きくなれないぞ」なんてお約束ともいえる言葉をかけ、しぶしぶメロンもどきを受け取ってくれる。別にお父様も苦手ってわけではなさそうだね。まあ、別に好き嫌いしたところで、私には成長促進の魔法があるから全く問題ないだろうけど。
「ええ。だからぜひ作り方を―」
「教えてやりたいのはやまやまなんだが、それは出来ない。確かに、この国が魔力炉の量産に成功しているのは事実だ。だが、その製造方法を知るためには、まずどこかの魔道具職人に弟子入りし、魔道具ギルドに所属しなければならない。そこで実績が認められれば、魔力炉の作成方法を教えてもらえる。ただし、誰にも他言しないと契約を交わした上でな」
ちぇ。それじゃあ、教えてもらえないか。そんな条件だと魔力炉を売るって人もいなそうだ、魔力炉が必要になるのは魔道具職人だけだし、弟子が使う魔力炉は師匠が用意するだろうからね。
「…だが、私が君に魔力炉を渡すことならできる。品質は緑の物が限界だがな。それも、素材と運が良ければって感じだが…普段は青や紫になることが多い」
「ぜひお願いします!!もちろんタダでとは言いません。品質に関わらず、一つ金貨一枚でどうでしょう?素材集めだって協力しますよ!!」
「いや、別に金なんて要らないよ。素材を集めてくれるのは助かるが…」
「いえ、そうはいきません。仕事には対価を支払わないと。そう言う形じゃなくてはいけません」
自分が欲しいものを作ってもらうのに対価を払わないなんてことはしたくない。それだと、給料の未払いが多発していた前世の勤務先と同じところまで落ちてしまう。労働には対価があるから価値がある。
「でもなあ…さすがに自分の娘から金をとるのは気が引けるし、私の評判にも関わる。それに、今は金にも困っていない。役人の給料は結構いいからな」
「魔道具職人でもあるお父様ならお金に困ることは無いでしょうけど、それでは私の気がすみません。別に取引のことを公にする必要もないですから、評判なんて関係ないですよ」
「一応、金のやり取りがあるならギルドへの報告義務が発生するから秘密裏に取引することは無理だぞ。これも契約内容に含まれている」
「だったら、ハイデマリー・キースリングとの取引ではなく、冒険者ハイデマリーとの取引にすればいいじゃないですか。名前自体を出すのもよくないのであれば、冒険者パーティーとしての取引っていう扱いにすればいいんじゃないですか?」
「君はよくそんな方法を思いつくな!?そこまでして金を払いたいのか!?」
変な生き物を見たかのような顔で私にそんな言葉を投げてくる。いや、別にお金を払わしてください!!って言ってるわけじゃないよ?でも、このまま押し問答を続けても、あんまり意味なさそうだしな…
「そう言うわけじゃないですけど、私は、労働には対価があるべきだと思っているので…」
「だったら別に、金である必要はないだろう?だったら、そうだな… 君が私が渡す魔力炉で作った魔道具の設計図を譲ってくれないか?もちろん、設計図を基に作った魔道具も、設計図そのものも勝手に売りに出すみたいなことはしないし、もし改良に成功したら、君にも提供しよう」
「魔道具の設計図ってどれくらいの価値があるんですか?」
「そりゃあ、その魔道具の機能や価値にもよるが、他に類を見ないようなものなら金貨一枚なんて価値じゃないだろうな。それが、世界を変えるような…それこそ、君たちの拠点にあるような魔道具なら、白金貨が飛び交うことになる」
ほう。それなら報酬としてはいいかもしれない。こっちにもバックがあるわけだし。そもそも、よく考えればこっちは依頼している側なわけだから、報酬の内容に関しては文句をつける権利はない。さすがに、無しでいいなんて言われたら、どんな依頼でも一言出ると思うけど。
「お父様がそれでもいいならいいですよ」
「なら決まりだな。近いうちに、魔力炉を渡そう。となると連絡手段が必要だな…ハイデマリー。これを持っておきなさい」
ごそごそと懐をあさり、取り出してきたのは黄色の通信の魔道具。形は黒のダンジョンで手に入れたものと同じだから使い方は大体わかる。
「完成したらこれで連絡するよ。とりあえず、今回素材は手持ちの物で作るから、そんなにかからないと思う」
「分かりました。楽しみにしていますね」
「ああ。そろそろ出ようか」
デザートとともに運ばれてきた、食後のお茶が飲み干されていることに気が付いたのか、お父様がそう告げる。私も特に文句は無かったから、そのまま店を出ることにした。チラッと窺い見た会計金額は銀貨が二十枚。食べ物が安いこの世界では、異常な値段だと言える。しかもこれであの味、ボッタクリじゃないだろうか…
「じゃあ、私はこのまま仕事に戻るけど、一人で平気か?」
「大丈夫です。すぐに皆と合流しますから」
「そうか。じゃあ、またな。ハイデマリー。次に会うのを楽しみにしているよ」
「ごきげんよう。お父様」
私の挨拶を聞き遂げると、お父様は背中を向けて去っていった。そこには、なんというか何とも言えない喜びのようなものが滲み出ていた気がする。
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