第四十八話 封魔の指輪

 「じゃあつけるよ…」

水の入った小瓶の中から、本体であるコンタクトレンズ、目利きの義眼を指に取る。まあ、普通にコンタクトを入れるのと変わらない。そのまま目に近づけていくと、すっと目に吸い込まれる。痛いとか、違和感とかは特にない。普通にコンタクトをつけるよりも簡単だ。度が入っているわけじゃないから、片目しかつけていなくも視界が歪むとかもないしね。横目でさっきの指輪を見てみるけど、特に変わった様子はない。やっぱり両目につけなきゃ意味が無いみたいだ。となればサックっともう片方の目にもつける。こっちも特に違和感なんかはない。準備完了。となればやることは一つ、指輪の解析、この場合は目利きと言うのが正しいのかな。今度は、まじまじと指輪を見てみる。すると、視界に吹き出しが現れた。

「うわ!なんか出た!!」

吹き出しの中には、緑色の字で指輪についての解説みたいなのが書いてある。これ、日本語だ。久しぶりに見た。ちょっと感動。この魔道具、一番使い慣れてる言語に変換してくれる機能とかあるのかな。やっぱり日本語が一番読みやすいからこれはありがたい。この世界の文字も読めるけど、形が図形っぽくて見にくいんだよね。

「何かわかったの?」

神妙な顔つきでアルトが聞いてくる。

「ええと、この指輪は封魔の指輪って言って、ドラゴンの王の力を一部封じているアイテムの一つで、ドラゴンの王から魔力を吸い上げている。装着者にその魔力を還元するが、普通の人間が着用した場合、ドラゴンの王の思想に支配される。この指輪が破損した場合、ドラゴンの王に施されている魔力の封印は解除される。だって。」

「なんでそんなとんでもない物がそこらの商会で売ってるのよ!!」

そもそもドラゴンってこの世界だとどんな存在なんだろう。

「ドラゴンってこの前倒した飛竜の仲間みたいなものじゃないの?」

「まあ、そうね。種族としては近いわ。でも、飛竜とドラゴンじゃ格が違う。飛竜が本気で暴れたとしても、人間の兵士が百人いれば止められるでしょうけど、もし、ドラゴンが本気で暴れたら、一匹で人間を絶滅させられるでしょうね。もちろんあなたみたいな強い人間なら生き残る可能性はあると思うけど、一般人はひとたまりないわね。まあ、ドラゴンは人間なんかに興味ないだろうから、こっちから手を出さなければ平気だと思うけどね。ちなみにちゃんと知能もあるわ。」

知能があるなら魔人なのかもしれないけど、この言い方だと違うみたいだ。全く別の種族って感じかな。

「もし、私たちと、そのドラゴンが戦ったら、どっちが勝てると思う?」

こんな指輪を手に入れてしまったわけだから、最悪のケースも考えておかないと。

「あたしと、ハイデマリーそれにアニが協力して戦ったとして、相手のドラゴンが一匹で普通のドラゴンならなんとか勝てるってとこね。」

「それはまた…とんでもないですね…」

「とんでもない種族なのよ。もしドラゴンに相対することがあったとして、そのドラゴンに役職があったり、複数だった場合は、逃げることだけに全ての力を使ったとしても、運が良ければだれか一人だけなら生き残れるってところね。それも残りの二人が、一人を逃がす動きをした場合よ。」

っそんな話を聞いたら、絶対に敵対するわけにはいかない。一匹でもとんでもないのに、その王となれば…

「でも、そのドラゴンの王に封印を施した人がいるってわけでしょ?」

「人かどうかは分からないわよ。魔人かもしれないし、もしかしたら、王に敵対するドラゴンかもしれない。可能性としてはそれが一番高いでしょうね。もしくは封印に関するスキルを持った誰かってところね。」

「だったら、封印を解いたら、ドラゴンの王が味方になってくれるかもしれないね。」

「それはやめときなさい。リスクが高すぎる。そもそも、封印されたことに怒りを覚えていないわけが無いでしょ。その封印をしたのが人間だったとしたら、確実に滅ぼされる。」

そりゃあそうか。さすがに軽率だった。でも、ドラゴンが話の分かる相手だったら、ちょっと会ってみたいね。

「そもそもドラゴンって、どこにいるの?」

「空の果てって言われているわ。行くこと自体は飛べれば難しくないけど、やめておいた方がいいわね。」

空の果て。いかにも秘境って感じだけどやっぱりリスクが高いか。生きて帰れる保証はないわけだし。

「それにしても、本当にどうして、そんな指輪があの商会に置かれていたんでしょうか…」

アニもそこが気になるみたいだ。

「巡り巡ってじゃないかな。ドラゴンの王の思想に支配されるなんて曰く付きの指輪だから、長いこと所有していたっていう人はいないはずだし。多くの人の手を渡り歩いてきたと思うよ。」

「そうでしょうね。あの商会の会長、金にうるさそうだし、少しでも利益がでるならって感じで買ったんじゃないかしら。」

見た目はぼろい指輪だから、普通に売れるとは思えないけど、曰く付きだって背景を知ってるコレクターなんかには売れるかもしれないね。あとは魔力を感じることが出来る人かな。

「気になるなら、今度聞いてみたら?どうせ依頼があるんだし。」

「いえ、そこまででは…」

まあそんなことはどうでもいいしね。

「じゃあ、これはアルトが使うってことで。」

「なんでよ。」

ちょっと嫌そう。気持ちは分かるけど。

「だって、人間が付けたらドラゴンの王の思想に支配されるし、そもそもアルトに買ったプレゼントだから…」

「そう言われると断りにくいわね…分かったわ。あたしが使わせてもらう。あたしも精霊魔法を使ってるから魔力自体は問題ないけど、補助装置としては十分すぎるほどの性能だし。ドラゴンの王の魔力なんて無尽蔵に近いでしょ。」

ホントとんでもないな、ドラゴン。

 アルトが指輪をつけても得に目に見えた変化はないね。確かに指輪から魔力は流れ込んでるみたいだけど。

「大丈夫ですか。アルト様。」

アニも少し心配そうだ。

「今のところは平気ね。むしろいつもより魔力が多くて気分がいいわ。それにしても、この指輪もそうだけど、目利きの義眼の方もすごいわね。」

普通、見ただけでドラゴンの力を封じ込めている指輪だなんて正体が分かるはずないもんね。

「英知のかけらという素材が大きくかかわっているんじゃないでしょうか。名前的にも、機能と合致しますし。」

確かに英知というのは優れた知識のことだし、あり得るかも。

「でも聞いたこと無いのよねえ。そんなにすごい物なら、耳に入っててもおかしくないんだけど…」

「確かにアルト様は博識でいらっしゃいますからね…」

アニに褒められてちょっとアルトが照れてるね。なんだかんだで、長い付き合いだし表情の変化も丸わかりだ。私が作った身体ってこともあるけど。精霊の身体でも分かるけどね。

「じゃあ、アルトより詳しい人に聞いてみればいいよ。」

「アルト様よりも知識がある人なんて…あ!!」

「そう。イエレミアスだよ。」

あの博識な先代魔王なら、きっと何かを教えてくれる。

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