第四十九話 イエレミアスとの交信

 青のダンジョンの最深部で出会った先代魔王イエレミアス。何年生きているのかは知らないけど、先代聖女のころから生きているわけだから、少なくとも三百歳は超えている。その長い年月で得たであろう彼女の知識に頼るというわけだ。

「あーもしもし―?聞こえるー?」

イエレミアスとコンタクトを取るために貰ったステア―キーに向かって話しかける。電話をするのも久しぶりだ。

「ハイデマリーか。」

お、ちゃんと声が返ってきた。初めて使う機能だけど、ちゃんと動作するみたい。

「うん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「構わない。こちらも特にすることがあるわけじゃないからな。暇を持て余していたところだ。」

「じゃあ早速聞くけど、英知のかけらってアイテム知ってる?」

これで分かったら手っ取り早くていいんだけどね。もし、入手場所まで分かるようなら最高だ。

「英知のかけら?聞き覚えがないな。もしかしたら、人間の世界と魔人の世界で名称が異なっているのかもしれない。特徴を教えてくれるか?」

特徴って言っても見た目すら分かんないんだけど。

「うーん。私もよくは分からないんだけど、目利きの義眼っていう、簡単に言えば、物の情報を読み取れる魔道具に使われてる素材で、なんでも、ものすごく貴重で、どこで手に入るのかもわからないとか。全く知らない物の情報を教えてくれるから、すごい魔道具ではあるんだけど、素材のことが気になってね。」

今わかるのはこれくらいかな。魔道具屋のおばあさんも、英知のかけらがどんなものかってことは教えてくれなかったから、たぶん詳しいことは知らないんだと思う。

「なるほど…おそらく神の声と接続できるというアイテムだな。私の知っている中だとそれぐらいしか思い当たらん。」

「神の声と接続する?」

「そんなことが出来るわけ?」

アルトも私と同じ疑問があるみたいだ。

「ああ。お前たちの言う英知のかけらは、我々の世界では、神託の断片と呼ばれるものだろう。それを作ったのは、大昔に存在した、自分以外に対する神の声をも聴くことが出来る神託と呼ばれるスキルを持っていた者だ。」

イエレミアスの言う大昔なんて、どのくらい前なのか想像もつかない。

「そのスキルを応用して作ったってことかしら。」

アルトがそう聞く。

「ああ。神の声はこの世の全ての情報を持っていると言われている。というか事実、そうなのであろう。その神の声から情報を引き出すことが出来れば、文字通り全知。神の領域だ。それを不完全な形で実現したアイテム、それが神託の断片だと言われている。」

「不完全?とてもそうとは思えなかったけど…」

指輪のことだって十分な情報が見えた。

「ああ、そんな情報の嵐みたいなものを使ったら脳がパンクするからな。大方、お前たちの使った神々の義眼という魔道具は、それを防ぐように、アイテムそのものを加工したものだろうな。」

確かに、そんなことも言ってたね。

「そんな便利な物なら、なぜ新たに作られないのでしょうか。その神託というスキルだって、長い年月が経っているわけですから、持っている人が別に現れてもおかしくないのでは?」

アニがそう口にする。確かにそうだ。神託っていうスキルを持った人が出てこないのはおかしい。聖女みたいに意図的に発生しにくくされているとか?

「いや、神託というスキルは通常存在しないスキルなのだ。全く別のスキルが変異したものと言われている。その条件は本人にすら分からなかったらしい。」

「道理で聞き覚えのないスキルだと思ったわ。だけど、神の声は全知。アイテムを作った本人なら、そこから情報を取ることは出来たんじゃないかしら。」

「そこまでは私にも分からん。」

うーん。謎が多いね。とにかく分かったことは、神の声から情報を得ているってことと、おそらくこれ以上の入手は無理ってことかな。正直、作られた背景とかはどうでもいい。スキルが変異するってことが分かったのも収穫かも。私はそんなにスキルを持っては無いけど、これから増えるかもしれないし、頭の片隅にでも置いておこう。

「それにしても、よくそんなもの手に入ったな、私も文献で見たことがあるだけで、実物を見たことは無い。まさか現存しているとは…それに不完全なアイテムを魔道具として実用化させた者は紛れもない天才だな。魔人も含めて、最も優れた魔道具職人であることは間違いない。」

ありゃ、随分と評価されてるね。あのおばあさん。

「私たちだって、すごい魔道具作ったんだから!!車っていう、魔力で動く空飛ぶ馬のいらない馬車!!」

「なんで対抗心燃やしてるのよ…」

アルトにそんなことを言われてしまった。アニなんてペットの猫でも見るような目になってるよ。ちょっと恥ずかしくなってきた。転生してから、精神の方も若干、幼くなってる気がする。

「ほう、それはまたすごいな。ぜひ見てみたいものだ。」

意外と興味を持ってくれたみたい。

「なら、今度見せに行くよ。目利きの義眼もね。」

「そうか。楽しみにしている。幸いここは外よりも時間の流れが遅いからな。気長に待ってるさ。ちなみにだが、お前たちがダンジョンを出てから外では何日経っているんだ?」

「三週間ってとこかな。」

よく考えるとまだそんだけしか経ってない。随分と濃い期間だったし、長く感じても仕方ないけど。

「ほう。思ったより差があるな…」

まあ、私たちが半日ダンジョンに入っている間に、外じゃあ四日も立てたわけだからね。中に一日いたら外じゃあ八日経ってることになるから、イエレミアスの体感だと、私たちが外に出てから五日と少しってところか。それなら私たちと話すのも久しぶりって感じもしないだろうね。

「というか時間差、ホントに把握してなかったのね。」

それは私も思った。ダンジョンを作ったのはイエレミアス自身なんだからそこも意図してるのかと思った。

「外に出ることが無いからな。」

そこだけ聞くとただの引きこもりみたいだけど…

「まあ今日は、いろいろ教えてくれてありがとね。」

「これくらいなんでもないさ。私も面白い魔道具の話がきけて有意義だった。」

交信を締め括ったのはそんな言葉だった。

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