第五十話 勲章
翌日。今日の予定は、まず冒険者ギルドに行って、昨日、パーゼマン商会から受けた依頼の確認。 時間があるようなら家具屋に行って車のシートを注文したいところだ。移動する前につけられればそれが一番いいからね。
王都の冒険者ギルドに行くのは初めてだけど、通りかかったから場所は分かる。特に道に迷うことも無く、スムーズにたどり着いた。中はバッハシュタインの支部よりも人で賑わっている。さすが王都だね。心なしか建物も少し広い気がする。
「こんにちは。」
受付にそう声を掛ける。アニとアルトはいつもは依頼の掲示を見てたりするけど、今日は後ろについてきている。まあ初めて来たから、見た目子供の私だけだと取り合ってもらえなかったりするかもしれないし。
「何か御用ですか?」
やる気のなさそうな受付嬢。まあ仕事さえしてもらえればいいけどね。
「私個人に来てる依頼を確認したいんだけど。これギルドカードね。」
私のギルドカードを渡す。こうした方がスムーズでいい。
「しょ、少々お待ちください。」
そう言って受付嬢は奥に引っ込んでしまった。書類でも取りに行ったのかな。
「それにしても、ここにも座って受付できる場所があって良かったわね。」
冒険者ギルドの受付は、座ってすることが出来るタイプと立ったままのタイプの二つがある。たぶん、依頼を終えて疲れている冒険者や、対応に時間が掛かる場合のためだと思う。特に気にして使ってたわけじゃないけど、私はいつも座るタイプの方を使っていた。そっちの方が楽だからね。
「どうして?」
なんでそんなことを言ってきたんだろう。
「あら、意図して使ってたわけじゃないのね。あなたが普通の受付を使っても、向こうに顔が見えないわよ。」
身長的に届かないってことか。確かに、成長促進の魔法が掛かってるから、普通の八歳よりは高身長だと思うけど、それでも子供の体格には変わりない。私が立ったまま受付をしても、声だけが聞こえるって状況になるだろうね。向こう側からは死角になって見えないだろうし。やっぱ馴れないね、子供の身体。
「まあそれなら、ちょっとだけ浮いて高さを合わせればいいでしょ。」
「それは目立つので、できれば控えてください…」
まあ子供ってだけで、目立っているとは思うけど。この年じゃ普通は冒険者になれないし、なれたとしても育成用の学校に通ってるだろうからね。
「お待たせしました。どうぞこちらへ。」
さっきの受付嬢が戻ってきて、そう言った。個人の依頼って、別の手続きがいるのかな。まあ、そう言われれば付いていくしかない。
通されたのはまたまた豪華な応接室。バッハシュタインの支部とは調度品が違うけど、まあ、そんなに変わらない。部屋の中にいたのは、一人の見知らぬ男。この感じだと支部長だろうね。
「初めまして。わたくし、冒険者ギルド、ブランテンブルク王都支部、支部長のゲロルト・ランペルツです。」
「ランペルツ?」
バッハシュタインの支部長と同じ苗字だ
「はい。バッハシュタイン支部の支部長、ジェイミーは私の妹です。」
「へえ。お兄さんなんだ。」
「はい。お三方のことは妹からも聞いています。今日ここにお呼びしたのは、青のダンジョン攻略の国からの報酬が確定したからです。」
タイミングがいいことで。王家からの使者が来た直後にこれだ。もしかしてご機嫌取りのつもりかな。
「実は少し前にすでに決まっていたのですが、妹がお知らせしようとしたときには、お三方はバッハシュタインを発った後だったらしく、泊まっていた宿の者から、王都に向かったらしいと聞き、私の方にこの役目が回ってきた次第です。」
もしかしたら、私たちが青のダンジョンを攻略したっていう報告のせいで私が冒険者をやってることが王家にバレたのかも。そうなると、報酬の内容も気になってくる。報酬とは名ばかりで、嫌がらせでもしてきそう。というか宿の人、どこで聞いたのかは知らないけど、私たちの行く先を勝手に第三者に話すのはどうかと思う。仮にも貴族向けの宿なんだからさあ…。
「それで、国からの報酬ってのは?」
アルトがそう聞き返す。あんまり期待はしてないみたいな言い方だ。
「はい。ダンジョンマスターという勲章を授けてくださるそうです。」
勲章?さては、報奨金をケチったな。だからといって、何も与えないのは王家としてのメンツにかかわる。だったら現金や物で渡さずに勲章でも与えとけって考えがみえみえだ。
「勲章…」
アニも渋い顔をしている。
「はい。これは二十年以上未攻略だったダンジョンを初めて攻略した個人、もしくはパーティに贈られる勲章です。これを叙勲した者は今後一生、年間金貨三十枚の年金を受け取ることが出来ます。」
一応、お金はもらえるみたいだ。年間金貨三十枚というのが、ダンジョン攻略と見合ってるのかは分からないけど。
「年間金貨三十枚ですか。普通の生活ならそれだけで生きていけますね…」
アニが小さな声で呟いた。そう考えると、もしや私、八歳にして、人生ゴールしちゃった?
「お三方は、正式にパーティを組んでいるわけではないので、パーティーとしてではなく、三人全員に勲章が授与されます。ですから、一人ずつに金貨三十枚となりますね。ちなみにパーティーを組んでいた場合でも、年金の額は変わりません。一人につき三十枚でパーティーの人数分支払われます。ただしその内役はパーティー内で決めていいということになっています。例えばリーダーが半分貰って、残りの半分をメンバーで分けるなどもできるわけです。」
年金額が変わらないなら、報酬の面で上下関係を作っていない私たちからしたら、本当にパーティーとして勲章をもらうか、個人でもらうかの差しかないのか。というか正式にパーティーを組む利点ってあるのかな。
「国からの報酬は以上です。勲章は、戴冠式の後に王宮で行われる叙勲式で授与されます。新王陛下から直接授与されるそうですよ。」
一生もらえる年金を受け取るためには、敵の本拠地へ行かないといけないわけだ。というか、よく私たちを王宮へ入れる気になったね。
(どうする?)
二人にテレパシーで聞いてみる。
『行ってもいいんじゃないかしら。この間、釘を刺したばかりだし、何かされるってことは無いでしょ。』
(そもそも、断ることってできるんですかね?冒険者ギルドとしても、ものすごい実績になるはずですから、意地でも行かせたいと思いますよ。それに、王家側も和解を願っているからこその、今回の報酬なのでは?)
確かに、そう考えると、王宮に呼ぶ理由は分かる。でも、ホントに和解したいなら、賠償金なんて請求してくる?勲章の件は使者が来る前に決まってたみたいだし。まあ、真意を確かめるって意味でも王宮に乗り込むのはありかもしれない。今後も敵対してくるようなら、本気で対策を打たないとだし。
(じゃあとにかく受けてみよっか。)
「戴冠式の出席ね。分かった。受けるよ。」
「そうですか。でしたら、近いうちに王宮側と打ち合わせがあると思いますので、またお知らせします。滞在場所を教えてもらっていいですか?」
「ここから町の入り口の方へまっすぐ行ったところにある、貴族向けの宿屋だよ。」
「ああ、あそこですね。分かりました。予定が決まり次第知らせますので。私からは以上です。確か今回の要件は、ハイデマリーさん個人に来た依頼についてですよね。受付の方に用意させていますので、詳しい話はそちらでお願いします。では、私はこれで。」
そう言うと支部長は去っていった。
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