第五十一話 ウィザーズ始動
この間、王宮の迎賓館へ行くのを断ったばかりなのに、王宮へ行くことが決まってしまった。まあ、王宮からの使者と話をしたから、少し状況は変わったともいえる。十分釘を刺したから、大丈夫だと思うけど、何かしてこないか少し心配だ。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。いざとなれば、お嬢様には魔法がありますから。」
どうやら心配が表情に出てしまっていたみたい。そうだね。逃げるのだって簡単だし、何なら殲滅だってできると思う。
「そうだね。考えすぎてもしょうがないし。」
「まあ対策を考えるのは悪くないと思うわよ。念のため、すこしでも対応策を増やしておきましょう。アニ、この前手に入れた魔法書で、使えそうな魔法があれば練習しておきましょう。」
「分かりました。」
そんなことを話しているうちに受付まで戻ってくる。支部長と話したのは10分くらいかな。
「私に来た依頼の件、用意できてる?」
さっきと同じ受付嬢に聞いてみる。
「はい。もちろんです。こちらがハイデマリーさんに直接来ている依頼になります。」
さっきのやる気のなさは消え失せ、はきはきとした声で紙の束をドンっと差し出してくる。
「え?これ全部?」
これ、とんでもない量があるんじゃ…
「はい。数少ないAランク冒険者ですからね。難易度の高い依頼が集中してしまうんですよ。ほかのAランクの方も似たり寄ったりです。もちろん、緊急性が高い物以外に強制力はありません。」
「なら、あたしにもこの量が来てるってことね…」
まあ、やる、やらないは別として、ちょっと見てみようかな。ええっと、大型水生魔物の討伐、希少文献の捜索、古代遺跡の調査、火山の火口付近に群生する植物の採集なんかもある。簡単そうなのから大変そうなのまでたくさんだ。
「へえ、面白そうな依頼も多いわね。」
「私、これが気になります。超回復薬の素材集め。報酬にその超回復薬がもらえるみたいですよ。たしか、部位欠損まで回復出来て、死後数十秒以内なら蘇生も可能だとか。」
「確かにそれはすごそうだけど、今回はパーゼマン商会から依頼が優先。」
約束は守らないと。
「そうですよね。すみません。出過ぎた真似を…」
「気にしないで。確かに超回復薬も気になるし。」
蘇生まで可能な薬、ぜひ手に入れておきたいね。今後何が起こるかわからないし。
「この中に、パーゼマン商会から来てる依頼があるでしょ?それを受けたいんだけど…」
さすがにこの量の中から探すのは一苦労だ。だったら、把握してるであろうギルド側に聞くのが一番早い。
「パーゼマン商会ですね。少々お待ちください。」
書類をすごいスピードで捲っていく受付嬢。もしかして、不規則に並んでいるように見えた依頼のリストに法則性があるのかも。
「こちらですね。ええっと、ブルグミュラーからの荷物の運搬依頼ですね。報酬は銀貨八十枚ですね。…本当にこちらの依頼でよろしいのですか?」
受付嬢が少し怪訝な態度でそう言った。なんかおかしな点でもあるのかな。
「うん。どうして?」
「いえ、報酬も相場通りですし、内容もAランクの方が受けるようなものでは無いのではと思いまして。」
一応、こっちのことを考えてくれてるみたいだ。相場通りでいいって言ったのは私だし、問題ないんだけどね。
「ここの会長とはちょっとした知り合いでね。問題ないよ。」
「そうでしたか。では、こちらの依頼を受けるということで処理しておきます。期限は過ぎてもかまわないそうですが、できれば明後日までにお願いしたいとのことでした。」
受けてもらえる保証がある分期限を指定しても問題ないってことか。
「こちらがブルグミュラーまでの地図になります。依頼者からの提供がありました。」
地図まで用意してくれたみたいだ。いたれりつくせりだね。まあ、私が貴族だと知ってるからかもしれないけど。
「ありがとう。」
「依頼に関しては以上です。もう一つ、支部長から説明するようにと言われてることがあるのですがよろしいですか?」
「かまわないよ。」
「では、説明させていただきます。ご説明するのはパーティについてです。」
お、グッドタイミングだ。ちょうど気になってた。
「お三方はともに依頼を受けることが多いと聞きましたが、正式なパーティーを組んではいないそうですね。」
「そうだね。そもそもパーティーを組む利点って何なの?」
「いくつかありますが、一番大きいのはランクについてでしょう。冒険者ランクを上げるには、依頼をこなし、ポイントを稼ぐ必要があります。通常では依頼を受けた当人にのみポイントが入る仕組みですが、パーティーを組んでいた場合、パーティーメンバー全員にポイントが入ります。」
なるほど、ケルベロスを倒しても、ダンジョンを攻略してもアニのランクが上がらないわけだ。私にしかそのポイントが入っていなかったわけだからね。そもそもSランクになるにはどれくらいポイントがいるんだろう。確か、何か偉業と呼ばれることをしなくちゃいけないって試験の時に言ってたっけ。ダンジョンの攻略でも足りないなら。何をしたらいいんだろう。
「冒険者ランクが上であればあるほど、社会的な信用も上がり、できることも増えますから、上げておいて損はないと思いますよ。お二人はAランクなので、アニさんだけの話にはなってしまいますが。それにパーティでないと受けられない依頼も少なくありません。単純に人数が必要なものから、難易度的に一人では達成が不可能だったりと理由は様々ですが。特にパーティーを組むデメリットはないので、組むことをお勧めします。」
「じゃあ組んでおこうか。」
アルトとアニに聞いてみる。
「そうね。受けれる依頼が増えるのはいいかもしれないわ。」
「私も問題ありません。」
「了解しました。手続きの方はこちらでしておきますので。パーティー名だけ考えていただけますか?」
パーティー名か、どんなのがいいんだろう。
「ハイデマリーと愉快な仲間たちでどうかしら。」
アルトがそんなことを言う。
「ふざけてる?」
「さすがにそれは…」
「冗談よ。」
「それはともかく、一目で、私達だってわかるような名前がいいよね。」
「あたしたちと言ったらやっぱり魔法よね…」
精霊に、聖女、それに成り損ないとはいえ魔導士。よく考えると個性の塊みたいな集団だね。それをまとめた名前っているとやっぱり共通点である魔法に関する言葉がいいか。
「ウィザーズでどう?魔法使いたちって意味だけど…」
「そのままね。だけど響きもいいし、いいんじゃない?」
「少なくとも、アルト様の案よりは何十倍も良いです。私も気に入りました。」
じゃあこれで決まりかな。
「じゃあパーティー名はウィザーズで。」
「了解しました。ではウィザーズの今後のご活躍に幸運を。」
ここから、私たちは正式なパーティとしての活動が今始まる…!!
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