第五十二話 ブルグミュラーに到着

 無事、依頼を受けて、パーティーまで組むことが出来た私たちは、その足で家具屋に向かった。もちろん車の座面に使えるクッションか何かを手に入れるためだ。クッションの部分だけの注文っていうのは受けてなかったみたいで、既製品のソファーを分解してくれることになった。前と後ろで二つ分分解を依頼した。もちろん値段はソファーの値段と同じ。まあ、商品を壊すわけだから、当たり前だ。一応手間賃として少し多めに渡しておいたし、問題ないと思う。

「じゃあ早速取り付けてみよっか。」

王都から一旦出て、少し離れた所で収納魔法から車を取り出す。今の座席は、ただの金属だから、長く乗ってるとお尻と腰が悲鳴を上げる。それの解決策が今回手に入れたクッションってわけだ。

「どうやって付けるんですか?座面の方は置くだけでもいいかもしれませんが、背もたれの方はそれでは問題では?」

そうだね。背もたれは固定しないと、体と座席で挟んでもどんどん動いちゃうから対策が必要になる。

「ちゃんと考えてるよ。これを使う。」

収納魔法から瓶を取り出す。これが今回の秘密兵器だ。

「それは?」

今度はアルトが聞いてくる。

「これはね、この前、森を切り開いたときに倒した魔物から作った、超強力接着剤だよ。」

バッハシュタイン近くの森を切り開いた時には当然魔物もたくさん出た。その時にいた、蜘蛛みたいな魔物の糸から作った。粘着性が高くて、速乾性もある。唯一の弱点は熱に弱いことだけど、車の中で使うなら問題ない。

「これをクッションの裏に塗って…ここに押し付ければ…ほら!くっついた!」

「へえ、便利な物ね。」

「普通の接着剤では布地ではそもそも張り付かないでしょうから、地味にすごい発明じゃないですか、これ…」

蜘蛛の糸を溶かして、液体状にしただけだけどね。

「これで旅がもっと快適になるわね。」

「そうだね。それじゃあ、乗り心地を確かめるためにも、ブルグミュラーに向かおうか。」

地図を見てみると、ブルグミュラーはここから南へ100キロほどのところだ。

「街道を辿って南に100キロくらい進んだところにあるみたい。」

「ああ、思い出しました。ブルグミュラーって、土地が買えるっていう町じゃなかったですか?ほら、バッハシュタインの支部長が言っていた…」

「そういえば言ってたかも。拠点候補の町だね。ちょうどいいからついでに少し見てみようか。」

「そうね。どんな町なのかも気になるし。」

「南に100キロと言いますと、バッハシュタインにもぶつかりますね。バッハシュタインの町からは数十キロってところでしょうか。」

「だったら、森の土地までワープして、そこから車で移動って感じにしようか。」

もちろん帰りは宿屋の部屋にワープするだけだから、さらにらくちんだ。

「それなら、日が落ちる前に十分到着できるわね。」

時刻はもうすぐ午後一時になるってところだ。ちなみに今日の昼食は適当に屋台で済ませた。屋台が出てるのが、戴冠式の唯一のメリットといっても過言じゃないね。

「じゃあ、ワープするよ。」

車を仕舞って、手をつなぐ。準備完了。いざ出発!!





 バッハシュタインを超えて、車を走らせること大体一時間と少し。今日の運転は私が担当している。そろそろ到着してもおかしくない頃だけど…

「あれ、検問所じゃないですか?」

私には全然見えないけど…

「よく見えるね。私、まだ全然見えないや。」

アニはものすごく視力がいいのかも。どうせなら望遠魔法でも創ってみるか。トリガーは瞬きを三回連続でするってことにしよう。

「お、見えた。けど、ここから歩くのはさすがに遠いから、もう少し近くに行ってから降りようか。後ろで寝てるアルトも起こさないとだし。」

車に乗ると眠くなるのは精霊も同じみたいだ。

「分かりました。」

そう言うとアニは後部座席に手を伸ばし、アルトを揺さぶっている。

「アルト様、もうすぐ着きますよ。」

「あら、寝ちゃってたわね。ごめんなさい。」

「運転してないときに寝るのは構わないけど、運転中はホントに注意してね。」

「分かってるわよ。」

あくび交じりにそう答えるアルト。

「じゃあそろそろ歩こうか。」

さっきよりはだいぶ近づいたし、もう十分歩ける距離だ。ブルグミュラーは王都と違って壁で囲まれてるみたいなことは無いみたい。そのかわり、森に囲まれてるって感じだね。これなら、検問所を介さずに入ることも不可能じゃないだろうけど、魔物が出る森を抜けるのはそこらのならず者には無理だと思う。だからこそ壁がいらないってことなんだろうね。

 検問所は身分証を見せたら、特に問題なく通ることが出来た。今回使ったのは冒険者の身分証。まあ、冒険者としてきたわけだから、よほどのことが無ければ貴族の身分証は使わない。この町は森の中の町って感じで空気がおいしい。だけど、田舎過ぎるってわけでもなく、見た感じそこそこ人もいるし、お店なんかもたくさん開いている。雰囲気的には観光地って感じかな。それに蜂蜜の産地だけあって、甘いにおいを漂わせるお店もいくつかあるね。あとで入ってみようかな。

「荷物はどこに行ったら受け取れるんでしょうか。」

「確か受け取る場所も地図に書いてあったよ。裏面はブルグミュラーの中の地図になってたし。」

地図を見てみると、町の入り口からは随分と離れた所にあるみたい。というか正反対だね。

「町の反対側ね。」

地図を覗き込んだアルトがそういう。

「多分町の人に危険が無いようにじゃないかな。蜂は人を刺すからね。いくらおいしい蜜を作るからって、人の多い場所で育てるわけにはいかないでしょ。」

「なるほど…考えられているのですね…」

感心した様子のアニ。

「まあ、とにかく行ってみましょうか。」

私たちが目指すのは蜂蜜天国。パーゼマン商会の取引だけじゃなくて、私達とも取引してくれるように交渉しなければ!!

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