第四十七話 プレゼント
魔道具店から宿に戻れば時刻は午後三時。部屋に戻るついでに、遅めの昼食を注文する。最近は食事の時間が変則的になってきちゃってるね。
「さて、これ誰が使う?」
先ほど手に入れた目利きの義眼を取り出す。数は二つだから全員が使えるわけじゃない。
「一つはハイデマリー、あなたが使って、一つは取っておくのはどう?」
アルトの提案に首をかしげる。
「どうして?せっかくなら二つとも使えばいいじゃん。勿体ないし。」
結構高い値段するものだし、箪笥の肥やしにしておくのは勿体ない。
「意味が無いからよ。あたしたちは三人で行動してるわけだから一人が使えれば十分でしょ?」
「確かに…」
神妙にうなずいたのはアニ。でも私はまだ納得できてない。
「だったら買う前に止めてよ。無駄に二つ買う必要もなかったでしょ?」
「この魔道具を独占することにこそ意味があるの。ほかにもこの魔道具を持っている人がいれば、利点が薄まるわ。幸い、今所持しているのは私たちとさっきの店の店主だけ。」
たしかに、鑑定スキルを持ってる人は少ないらしいし、この魔道具には見たものがどういう物で、どうやって使うのかもわかるっていう機能もあるって言ってた。使い方もわかるっていうのはさすがに鑑定には無いだろう。
「言いたいことは分かった。とにかく私が一つ使ってみるよ。まあ、もう一つは今すぐ使わなくてもいいわけだし。」
必要そうになったら、二人のどっちかが使えばいい。
「じゃあ、早速」
その時、部屋の扉がノックされる。ご飯が届いたみたいだ。
「使うのは食事の後にしましょう。」
そう言って、昼食が乗っているワゴンを招き入れるアニ。遅めの昼食にしよう。もちろんデザートは蜂蜜パイだ。結構時間が経ったから冷めちゃったかもしれないけど。冷めてもおいしいって言ってたし。
「そういえば二人は何買ったの?」
食べながら雑談とばかりに聞いてみる。
「私は服に鞄くらいですね。あとはナイフを買いました。今後、役に立つんじゃないかと思いまして。」
「あたしもそんなもんね。」
「なんかいつもそんな感じだね。欲しいものとかないの?」
前にも聞いた気がする。
「いい生活させてもらってますからね。それ以上に欲しいものとなると…」
「私も特にないわね。」
ほんとになんでアルトはお金が好きなんだろう…
「そういえば何かプレゼントを買ったって言ってたわね。」
「ああ、そうそう。それも後で渡すよ。楽しみにしといて。」
「私あまり人から物をもらうという経験が無いですから、楽しみです。」
確かに、私がアニにあげたものは初めに買った服だけだ。それも、プレゼントというより必要だから買ったっていう感じだし。キースリング家やメイドギルドからもらうなんてことは無かっただろう。
「私も誰かにプレゼントをあげるなんてそういえば初めてかも。」
前世だとそもそもあげるような間柄の人はいなかったし、こっちの世界に来てからも、物を自由に買えるようになったのは最近だからね。
そこからしばらく、昼食を食べ終えたところで、アニに蜂蜜パイを切ってもらう。さすがに冷めちゃってるね。まあ、昨日は温かいパイを食べたからちょうどいいかも。
「アンタまだ食べるの?」
「デザートだよ。デザート。食後の甘いものを食べるといつもよりおいしく感じるから。」
「デザート?」
甘いものが一般的じゃないこの世界だと、デザートっていう考えそのものが無いみたい。
「説明しろって言われると難しいけど、前世の世界だと、食後に甘いものを食べるっていうのは、一般的なんだよ。」
「へえ。どんな意味があるの?」
「意味?うーん。満足感が増すってとこかな。」
「ちゃんと意味があるのね。ただ食べたいだけで適当言ってるんじゃないかと思ったわ。」
「そんなこと言わないよ。まあ食べたいのはホントだけど。」
「お待たせしました。」
そんなことを話していると、アニが運んできてくれた。なんかデジャヴ。昨日より人数が減った分、一切れが大きい。
「いやあ、やっぱり甘いのはおいしいね。あの二人に会えたのは結果的にはよかったのかも。」
「そうね、アニの件もあるし。」
「よく考えると、このままお二方にお会いすることが無ければ、私は死んでいたかもしれなかったんですよね…」
「そうはならなかったんだし、あんまり考えても仕方ないわよ。」
アルトがそんなことを言うけど、死んでたかもしれないということをあまり考えるなっていうのは難しいだろう。私も一度死んだ身だ。その気持ちは分かる。もう二度と死にたくないって思うくらいには。だけど、私もいつかはまた死ぬ。その時はなるべく苦しまないで死にたいものだ。
「そうだ。さっき言ってたプレゼント渡しちゃうね。」
ちょっと空気が重くなっちゃったからね。こういう時に空気を変えるにはぴったりだ。
パーゼマン商会で買ってきたものを収納魔法から取り出す。私が買ったものが入っている袋は一番大きかったからわかりやすい。
「はい。アニにはこれ。かんざしだよ。作業するとき、髪をまとめられたら、色々やりやすいと思って。」
「うれしいです。ありがとうございます。早速つけてみますね。」
そう言ってアニは髪をまとめ上げる。銀髪に近い髪に、赤い宝石がいいアクセントになってとても似合っている。
「うん。よく似合ってるよ。」
「そうですか?ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」
褒められ慣れていないのか、顔を少し赤らめるアニ。気に入ってくれたみたいで何よりだ。
「ハイデマリー。あなたセンスがいいわね。」
アルトにもそう褒められたけど、アルトに渡すものを考えるとその言葉を引っ込められそうだ。見た目はただのぼろい指輪だし。
「アルトに買ったものはこれなんだけど…なんか魔力があるみたいだったから。」
そう言って指輪を渡す。先にこう言っとけば文句も言われないでしょ。
「随分古い指輪ね。確かに魔力を感じるわ。うーん。詳しいことは分からないわね…」
アルトでもわからないみたい。
「お嬢様。こういう時こそ、目利きの義眼の出番なのではないですか?」
「「それだ(わ)!!」」
私とアルトの声がぴったり揃った。
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