第四十六話 魔道具店に行ってみよう

 「二人とも随分静かだったね。」

普段だったら、あんな風に依頼を受けたら、アルトなんて文句の一つでも言ってきそうだけど何も言わずに聞いてただけだった。アニの口数が少ないのは、いつものことと言えばいつものことだけど。

「あんたが護衛だなんて説明するからでしょ…」

ああ。確かに護衛が馴れ馴れしく対象に話しかけるのはおかしいかも。それで変に怪しまれても嫌だし、ある意味正解だったのかな。護衛が好きな物を買うのも、いささか違和感があるけど、店側からしたら、たくさん買ってくれた方がいいだろうし、目を瞑ってくれたのかも。

「テレパシーで何か言ってくれてもよかったんじゃない?」

何も言ってくれないのはさすがにちょっと不安だった。

「別に特に問題もなかったし、いいでしょ。」

「何の相談も無しに受けたから、文句ぐらい言われると思った。」

「別に本来の目的から外れてるわけじゃないしいいわよ。いろんな場所に行ってみたいし。」

だから文句言わなかったのか。納得。

「まあ、異論が無いならいいや。そうだ。二人にプレゼントを買ったから、宿に帰ったら渡すよ。楽しみにしといて。」

「プレゼントですか。私も何か選べばよかったです。」

「それは、また今度ってことで。楽しみにしてるよ。」

プレゼント交換みたいなイベントを私はしたことが無いからちょっとワクワクする。

「あ、あそこ魔道具の店よ。ちょっと覗いていってもいいかしら。」

まだ商会からそんなに離れていないというのに、アルト魔道具店を発見。というか宿の方へ歩いているわけだから、来るときにも通ったはずだけど、見逃してたみたい。特に断る理由もないし寄ってみる。

「いらっしゃい。」

そう声を掛けてきたのは、黒いローブに大きめの三角帽子を被ったおばあさん。いかにも魔女って感じの服装だ。

「ちょっと見させてもらうわね。」

アルトがそう声を掛け返し、物色し始める。私は見ただけじゃあ、魔道具の効果が分からないから見てもしょうがない。アルトについて回るだけだ。

「お、これすごいわね。天気を予知する魔道具。」

そう言って手に取ったのは占い師が持っているような水晶玉。天気を占うみたいな感じなのかな。

「おや、お前さん魔道具に精通してるのかい。その魔道具の的中率は八割といったとことだね。」

「八割!?すごいわね。一部とはいえ、未来予知よ。そう簡単にできるものじゃないわ。あなたが作ったの?」

前世では当たり前だった天気予報も、こっちの世界には無いわけだから、天気が分かるっているのはすごいことなんだろう。確かに限定的とは言えども、未来予知と言えなくもない。

「買ってくかい?金貨三枚でいいよ。」

製作者を聞く問いには答えず、値段が返ってくる。高いのか安いのか分かんないね。

「とりあえずほかにも見てみるわ。」

アルトがそう返した。衝動買いはしないみたいだ。

「そうかい。決まったら声を掛けておくれ。」

そこからはアニと二人で魔道具解説を聞きながらアルトの後に続く。私の興味を引いたのは、気配を薄くするマント型の魔道具や、少しの間だけ雨を降らせる魔道具、瞳の色と髪の色を一時的に変える変装の魔道具なんかだ。

「ん?あれなんだろう。」

そこに置いてあったのは水の入った小さな瓶。よく見ると何かが沈んでいる。透明だから見にくいけど、これコンタクトレンズだ。まさかこの世界に存在するとは。眼鏡をしている人はちょくちょく見かけるけど、コンタクトまであるなんて。しかもこの店にあるってことは何かしらの魔法的効果があるはずだ。

「アルト、これ何?」

聞いてみる。

「何か沈んでるわね…何かしら。」

アルトも知らないみたいだ。

「ああそれかい。知らないのも無理はない。私が独自に開発したものだからね。名付けて『目利きの義眼』これを目に取り付けると、眼球と一体化して、物を見るだけで、それの品質が分かるようになる。大丈夫、危険はない。儂自身もう二十年以上使っているが特に何も問題はないからね。」

へえ。なんだかすごそうだけど…

「具体的な利点を教えてもらってもいい?」

一応聞いてみる。

「具体的な利点か…まあ、これを使えば、物の品質が分かるわけだから、不良品なんかをつかまされることは無くなるな。それに、それがどういうもので、どういったことに使用できるのかもわかる。もちろん、常に使っておると、情報過多で頭が疲労するから自分の意思で使おうとするまでは発動しないようにしてある。あとはそうだな、人にも使うことが出来るぞ。簡易的な鑑定だ。まあ、あくまで簡易的、鑑定ほど詳しく知ることは出来んがな。」

そいつはすごい。知らないものでも、どんなものかが分かるってことか。それに簡易的な鑑定ができるってことは、敵の能力が少しは分かるってことでしょ。ものすごいアドバンテージになる。

「とんでもないわね…」

「す、すごい…」

アルトとアニもびっくりしてるみたい。

「この魔道具、他にも持ってる人はいるの?」

一応聞いてみる。

「儂以外にはおらんな。材料が貴重で、量産できていないこともあるが、普通に店に置いておいても、それに興味を持つ者はおらん。」

まあ一見ただの水の入った瓶だしね。私だって、コンタクトレンズを知らなければ、興味なんて持たなかっただろうし。

「これ貰うよ。何セット用意できる?」

「用意できるのは2セットじゃな。さっきも言ったが、素材が貴重過ぎて多くは作れん。『英知のかけら』というんじゃが、どこで手に入るのかも分からん。儂が手に入れたのは、本当にたまたまじゃ。」

英知のかけら、名前からしてすごそうだ。アルトに目配せしてみると、首を横に振る。アルトも知らないみたい。

「いくら?」

「これは紛れもなく、わしの最高傑作。ちと値は張るぞ。2セットで金貨八十枚じゃ。」

さすがに高い。だけどうまく使えばそれ以上の価値がある。

「はい。確認して。」

金貨を十枚ずつ八塊で渡す。

「うむ。確かに。装着方法だが、中に入っているものを手に取り、目に近づければ自然に装着できる。痛みなんかはないから安心せい。」

普通にコンタクトをつけるより簡単そうだ。

「アンタ、何者?こんな魔道具聞いたことも無いわ。」

アニがそう聞いた。ものすごい魔道具を作れるくらいの腕なのに、店が繁盛してるっていう様子もない。ほんとに何者なんだろう。

「儂はしがない魔道具職人のババアじゃよ。」

なんかはぐらかされてしまった。あんまり聞かれたくないのかな。

「ふーん。まあいいわ。そう言うことにしておいてあげる。」

アルトも聞きだすのは難しいと考えたのかそれ以上詰めることはしない。

「じゃあ、私たちはこれで。また来るよ。それまでにもっとすごい魔道具作っといてね。」

「これ以上とは、また難しい注文を…まあ精霊なんていうとんでもないものに会わせてもらった礼だ。頑張ってみるとしようかの。」

「やっぱり気が付いているんですね。」

「ええ。そうじゃないかと思ってたけど…とんでもないわね。」

アルトとアニが分かっている風のことを言う。もちろん私もそう思ってた。…本当だよ?だって彼女自身も目利きの義眼をつけているって言ってたし、正体に気が付かない方が不自然でしょ? 

 そんなことを考えながら店を出る。面白そうな魔道具を手に入れたわけだし、使ってみるのが楽しみだ。

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