四十五話 商会からの依頼
さて、何を買おうか。自分用に買うものは服ぐらいかな。この前買った時はサイズ合わせまでしたけど、別に、体格が大きすぎるとか、小さすぎるとかはないから既製服でもサイズは合う。しっかりした服じゃなくていいんなら、服屋で買う必要もないかな。すぐ着れなくなるしあんまり高いのばっかり買ってもねえ。まあとりあえず上下三着ぐらい買っておこう。肌触りのいい服を選んで、手に取る。持って移動するのは面倒だから、店員に預けておく。この店は、この世界に多い、お客さん一人一人に店員が付く方式じゃなくて、日本で多かった、何人かの店員が所定の場所にいる方式みたいだ。レジに店員がいるみたいな感じ。まあそっちの方が店としては効率もいいし、こっちは気楽だからもっと増えてほしいものだ。
他に何かないかなーとうろうろしていると、赤い宝石があしらわれたきれいなかんざしを見つけた。たぶん盗難防止のためだろうけどケースに入っている。これはアニへのプレゼントにいいかもしれない。髪が長いから、たまに紐で縛って邪魔にならないようにしているのを見かけるし。うん。これにしよう。そうと決まればこれも店員に取り置いてもらう。金貨三枚と値段はちょっと高いかもしれないけど、まあいいや。アニが喜んでくれればそれでいい。
じゃあ次はアルトのプレゼント。って言ってもアルトは現金の方が喜びそうだな…だからと言って金貨の詰まった袋を上げても、収納先は私の魔法だからあんまり意味が無い。しかも、私が管理してるだけで、三人の共有財産だから、そもそもアルトの物でもあるわけだし。うーんどうしたもんか。そんなことを考えながら色々見ていると、視界の端に、魔力の気配があった。まさか魔道具まで売ってるのかな。近づいてみてみると、そこにあったのは指輪だった。あんまりきれいじゃないし、今度はケースに入ってるわけじゃないから高い物じゃないと思う。素材がミスリルとかみたいに魔力を含んでいるわけでもなさそう。魔力があるってことはもしかしたら貴重なものかもしれないし、買ってみようかな。もしそれでアルトが欲しがるようならプレゼントすればいいし、いらないならどこかで他の物を見繕おう。
あと私が欲しいものと言ったら本だね。この世界は娯楽が少ないから、本というか物語を読みたい。歴史なんかと紐づいているものがあればいいけど…軽く見てみるけどそもそも物語自体が無いね。料理本に学問の本、後は王都の地図か。うん。いらない。まあ本屋じゃないしそんなに期待はしてなかったけど、一冊も無いとはね…ベストセラーくらい置いてあると思ったのに。
「お客様。蜂蜜パイが焼きあがりました。あちらでお支払いをお願いします。」
さっきの男がそう声を掛けてくる。私が預けた商品ともう二塊の商品が置いてある。アルトとアニの物だろう。
二人に声を掛けて支払いに向かう。どうやら二人とも欲しい物は買えたみたいで満足そうだ。
「では、蜂蜜パイ二点で銀貨四十枚、それにその他の商品を加えまして、お値段金貨七枚になります。」
蜂蜜パイは一つ銀貨二十枚か。そこそこするね。でも、かんざしが金貨三枚ってことを考えると、高級店っぽいのに意外と安い。
金貨を出して支払いを済ませる。
「それにしても、お客様、通ですねえ。」
「通?」
「おや、違いましたか。てっきり知っていて二つ注文したのかと思いました。当店の蜂蜜パイはもちろん、出来立てでもおいしく食べることが出来ますが、冷めてしまったものにも、また違ったおいしさがあります。お得意様の間では、両方の味を楽しむために二つ購入していく方も多いのですよ。お客様は初めてのお客様ですから、事前にそれを知っていたのかと思いまして。」
買ったものを数人がかりで包みながらそんなことを言ってくるのはさっきの男。まあいいことを教えてもらった。
「そうなんだ。試してみるよ。」
「ええ、是非。こちら商品になります。」
「ありがとう。」
受け取るとそのまま収納魔法に放り込む。ちなみに、この中に食べ物を入れてそのまま放っておくと、腐ることが判明した。異空間といっても時間は流れてるみたい。
「あ、え!?商品は…」
何も考えず、店員の前で収納したから、すごく驚いたみたいだ。
「ああ、私が使ってる魔法に仕舞っただけだよ。容量に制限もないから便利なんだ。ちょっと特殊な魔法だから私にしか使えないけど。無くなったわけじゃないから大丈夫。」
一応説明しておく。
「そ、そうなんですね…驚きました。そんな魔法があるなんて…お客様、失礼を承知でお願いをしてもよろしいでしょうか。」
何だろう?聞くだけ聞いてみてもいいけど、命知らずだな。一応、貴族としてこの店に来てるんだけど…失礼なことを言ったら店の取り潰しどころか打ち首だってあり得るのに。もしかして私が子供だからいけると思われてる?
「聞くだけ聞いてあげるよ。」
まあ、私たちは冒険者でもあるわけで、依頼を受けるのは仕事のうちでもあるからね。
「ありがとうございます。わたくし、この商会の会長兼仕入れ担当をしているのですが、実は、蜂蜜パイの材料の肝である、蜂蜜の輸送が間に合っていない状況でして、ブルグミュラーという町から取り寄せているのですが、一度に運ぶことのできる量が少なく…」
「なるほど。私の魔法を使って一度に大量に持ってきてほしいと。」
「左様でございます。もちろん相応のお礼はお支払いいたします。」
ブルグミュラー。どっかで聞いた町だ。蜂蜜の生産場所が分かったのは大きな成果だし、そのお礼といっては何だけど、依頼を受けてもいいかも。でもこういう個人間の依頼にはトラブルがつきものだし、避けた方がいいのかな。そういうのを解決するような専門機関も無いだろうし…そうだ、だったら冒険者ギルドを通せばいいかも。報酬のマージンは取られるけど、トラブルは避けられる。
「受けてもいいけど、一つ条件がある。」
「な、なんでしょう。」
吹っ掛けられるとでも思っているのかちょっと身構えている会長。
「冒険者ギルドに依頼として出してほしい。もちろん私への直接の依頼としてね。こう見えても私、結構凄腕の冒険者なのよ。」
「それは構いませんが、いったいどうして?」
ここで信用できないからとは言いにくい。
「冒険者にはランクがあってね、それを上げるためにポイントを稼ぎたいのよ。」
まあ私とアルトは上がるところまで上がってるわけだけど、アニはまだ上に行けるわけだから嘘ではない。
「そう言うことでしたか。分かりました。冒険者ギルドへ依頼を出させていただきます。」
「交渉成立ね。あ、報酬の方は運搬以来の相場で構わないから。蜂蜜の産地を教えてくれたお礼。もし二度目があるようなら以降はもう少し貰うけど。」
「こちらとしてはありがたいお話です。もちろん、次回以降をお願いする場合は色を付けさせて頂きます。」
「じゃあ、依頼はハイデマリーっていう冒険者に出しといて。私のことだから。」
「了解いたしました。」
「じゃあ、今度会うのは受け渡しの時だね。」
「はい。よろしくお願い致します。」
その声を最後に私たちは商会を後にした。
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