第百七十話 魔道具の完成と設置
「よし。まずこの魔道具を作るには部屋と魔道具を接続するための部品と、魔道具の本体を作る必要がある。手分けして作ろうか。君はどっちを担当する?もちろん詳しいやり方は説明するよ」
「お父様の説明も大変でしょうから、簡単な方にします」
「なら本体だな。さっき聞いた部屋の詳細な寸法なんかで調整する必要が無いから。じゃあ、まずはこんな感じの物を作ってくれ」
そう言うとお父様はてきぱきと設計図を書き始める。紙はもちろん工房内にあるものをつかってもらった。私が欲しがった魔道具を作るためだしね。
「これの通りに作れば大丈夫だ」
渡された設計図には、高さ十五センチ、半径五センチくらいの筒が書かれていた。ここから魔法を中和する魔法を室内に散布するって感じみたいだ。なるほど…そう言う仕組みだったのか。私も、魔法を無理やりキャンセルする魔法を創ろうとしたことがあったんだけど、創れなかったんだよね。魔法を使えないようにするってイメージをすると、なぜかその魔法キャンセル魔法自体までキャンセルされてしまうという全く意味のない魔法になってしまった。そのため、ヘルマン侯爵戦争で使った時みたいに、魔力を吸引することで、敵に魔法を使わせない方向にシフトしたわけだ。でも、この魔法中和理論の詳細が分かれば、創造魔法で創らなくても、敵の魔法を封じる魔法キャンセル魔法が使えるようになるかもしれない。
「この、魔法を中和するというのはどういう仕組みなんですか?」
筒を作るために、ミスリルを加工しながらお父様に聞いてみる。そのお父様はというと、またまた紙に何かを書いているみたいだ。
「ああ。私が開発したこの魔法陣を使う」
どうやら書いていたのは魔法陣だったらしい。覗いてみると、アニが使った魔法陣よりもサイズは小さいながら複雑なものだった。魔法陣に関する知識はあんまりないけど、一目見ただけで、すごい物だって言うのが分かる。なんといっても、書き込まれ方が半端じゃない。奇怪な紋様や記号、見たことのない言語で書かれた文字らしきものが多種多様に書き込まれている。これを何も見ないで書いているお父様の頭の中には知識がものすごく詰め込まれていそうだ。
「魔法陣ですか。魔法陣なしの魔法として使うのは難しそうですね」
「そうだな…細かい設定いるし魔法陣なしで使うのは無理だろう。この部分とこの部分が中和魔法の本体になる部分で、この部分が範囲に関する部分。あとは基本的にバランス調整だな。これらのどれがかけても、作動しないから、魔法として落とし込むのは…」
なるほど。だとしたら、魔法陣の知識を得て、発動の仕組みさえわかれば、創造魔法に落とし込むことが出来るかもしれない。
「私も魔法陣について少し学んでみようかな…」
「魔法陣について知識があれば、魔道具開発の幅も広がるぞ。まあ、簡単ではないがな。常用レベルになるまでは、とても時間が掛かる。極めるとすれば、何年かかるか分からない。十年以上魔法陣に触れている私でも、完全な知識があるとは言えない」
「十年ですか…少し考えてみます」
さすがにそこまでの労力は掛けられないかな。だって、私の場合、魔法陣を使うのは特殊な儀式を行うか、今回の魔法みたいに、創造魔法で上手く創れなかった魔法を使うためくらいにしか使い道が無いからね。今のお父様の話で、簡単に手を出していい分野じゃないことが分かったし。
「これでどうですか?」
魔法陣の話から少しした後、おしゃべりをしながら作業を続け、お父様から渡された設計図通りに円形の筒を完成させた。厚みなんかも細かく指定されていて加工が少し大変だったけど、問題ないはずだ。
「…出来自体は、全く問題ないがミスリルを使ったのか?別にそこまでの素材を使わなくてもよかったんだが…」
「確かにミスリルは少し高いですけど、魔力との親和性も高いですし、何より加工がしやすいので魔道具作りにはよく使っているのです」
「まあ、確かに素材としては一級品だが、戦闘用でもなく、頑丈さを求めていない魔道具にミスリルを使うのに少し驚いた」
まあ、私はミスリルを使うことに慣れ過ぎていて、そんな違和感を持つことは無いけど、お父様にとってはそうじゃないみたいだね。お父様は役人であり、魔道具職人でもある。私と違って、趣味で作っているわけじゃなく、仕事として魔道具を作っているのだろうから予算についても考えないといけないんだろう。
「お父様が作っている方の部品もミスリルを使っていいですからね」
「魔法陣をつつんで、部屋と連結させるだけだからミスリルなんて使わなくても…」
「ミスリルは魔力の伝導性が高いですから、魔力のロス―消費量が減って効率が良くなるんですよ」
「この魔道具は魔力供給がいらないからあまり関係ないと思うが…」
「魔力供給がいらない?それは魔道具って呼べるんですか?」
「魔力を使わないわけじゃないぞ。設置時に魔力を込めれば一度目の魔力影響を防ぎ、その魔力を吸収する。それ以降は吸収した魔力で動作するから追加の供給は必要ないんだ」
「なるほど。だからお父様が去った後、誰も魔力供給をしなくてもあの部屋は動作していたんですね」
「そういうことだ。飛んでくる魔力を使わないなんてもったいないだろ?」
そう言うお父様の笑みはどこか商人のような雰囲気を感じさせるものだった。
「でも結局魔力自体は使うんですよね。魔力効率を考慮するのはいいことですよ」
「まあ、君が使う魔道具だしな。君の意向に従おう」
渋々とまではいかないけど、完全に納得は出来ないと言った感じで最終的にはミスリルを使うことに納得してくれたお父様。やっぱり、素材の使い方にはこだわりがあるみたいだね。
「これでよし。完成だ」
数分経ったところでお父様がそう声を上げる。完成した魔道具の見た目は、タワー型の電源タップみたいな感じだった。これを部屋と連結させれば魔力影響を受けない部屋、尋問部屋の完成だ。
「では、設置しに行きましょうか。案内します」
魔道具完成直後、その足で設置予定の部屋まで移動し、魔道具の設置を済ませる。なんでも部屋の中央に設置するのがいいということで、真ん中にドカンと置いてあるテーブルの下の床板を毟り取ってその下に設置。その上から再び板で蓋をすれば、尋問相手なんかに魔道具を破壊されることも無い。相手が魔術師とかだと魔力感知でバレるかもしれないけど、魔術師を連れてくるときは魔力を吸引してから連れてくればいい。
「それにしても、まさか紫の魔力炉で作れるとは思いませんでした」
「ああ。魔法陣を使って補助しているからな。なんとか紫の魔力炉でも大丈夫だ。他の魔道具ならこうはいかないだろうが…」
「他の魔道具に補助するような役割を持つ魔法陣を使っても、意味が無いってことですか?」
「普通の魔道具は魔力を吸収するんじゃなくて、使う物だからな。補助の魔法陣が無意味とまではいかないが、魔力炉の質を下げるまではいかないかな」
なんだ。魔力炉の質を下げられる魔法陣があったら最高だったのに。そう上手くはいかないか。そんな魔法陣があったら、全ての魔道具は透明とか紫の魔力炉で作れることになっちゃうもんね。魔法陣を何個も使って降下を重ね掛けすればいいんだし。
「そうなんですね。まあ、無事に完成できてよかったです」
「ああ。私も楽しかった。やはり魔道具作りはいいものだな」
そう言って、私とお父様は顔を合わせてはにかんだ。
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