第百六十九話 魔道具共同開発の準備

 「ここが私の工房として使っている部屋です。どうです?結構なものでしょう?」


お父様が滞在する予定の客間へ寄った後、私の工房室へ移動した。この部屋には車を作る時に一式揃えた魔道具を作るための道具や、コツコツと集めた素材、後は覚書きとか設計図が書かれている紙や木札がある。この部屋には使用人たちにも勝手に入らないように言ってあるけど、掃除が行き届いていなく、ごちゃついているわけではない。私の作業がしやすいように自分で整えているからね。


「確かに、道具も揃っているし、作業台も広くて使いやすそうだな。素材も一級品だ。君は誰か他の職人に師事したわけではないのだろう?独学でここまでの物を用意するのは大変だったのではないか?」

「完全な独学ってわけでもないのですよ。本当に基礎的なところだけはアルトが知っていたので。なんでも賢者とかって呼ばれてる別の精霊からいろいろ聞かされていたみたいです」

「なるほど…魔道具の作成は独学だとほぼ不可能だから不思議に思っていたが、そういうわけだったのか」

「独学だと不可能なのですか?」


魔道具の作成は魔力と最低限の知識があればそこまで難しいことは無い気がするけど。大まかなイメージとしては魔法を道具に落とし込むだけだし。


「そもそも、知識が無ければ、魔法を使えたとしても道具を揃えることすらできないだろう。普通の人間が使うような道具ではないからな」


言われてみれば確かにそう。魔道具作りには一般的に使われている工具のほかに、魔力と親和性が高い物を使った道具も必要だ。そんなものは知識が無ければ、まず手に入れることは出来ない。いやあ、アルトがソプラノから魔道具についての話を聞いててよかったよ。車を作ることが出来ていなかったら、こんなペースで世界を見てまわることなんてできなかったし、拠点の居心地も今とは比べ物にならないくらい低かったことだろう。


「そう聞くと、確かに最低限の知識は必要そうですね」

「それでも、君があれだけの魔道具を基礎的な知識だけしか知らない状態で作り上げたのはすごいことだ」


そう褒められて悪い気はしない。自分たちのためとはいえ、頑張った甲斐があるってものだ。


 



 「さて、私が持ってきた魔力炉だが…」


そんな話を少しした後、お父様が手さげバックから取り出した魔力炉は全部で五つ。品質が低い物から、紫が一つ、青が三つ、緑が一つだ。お父様が作れる魔力炉は、準最高品質である緑が限界だって話だったからおかしいことは無い。お父様の話だと、緑の魔力炉を作ることは出来るけど、安定して緑の品質を作り出すのは難しいみたい。ナハトブラオ国内の魔道具職人の中でも、それが可能な人はいないらしい。そもそも緑を作れる人自体が少ないみたいだ。


「金の―最高品質の魔力炉を作れる職人っているんですか?」

「どうだろう。私は聞いたことが無いが、魔道具ギルドのギルド長とかだったらもしかすると可能かもしれない」


ブランデンブルクにも存在している魔道具ギルドだけど、冒険者ギルドとは違って、全く別のギルドで繋がりがあるわけではないらしい。別店舗ではなく、同じものを扱っているだけの別会社ってことだね。


「そうなんですね。まあ、金の魔力炉を使うような魔道具を作ることはそうそうありませんから、そこまで問題になりませんね」


うちの拠点にある魔道具ですら、金の魔力炉を使っているのは数えるほど。車にポンプ、空調くらいだ。


「そうだな。今回はどんなものを作ろうか。何か欲しい魔道具とか、新しい魔道具のアイデアとかはあるか?」

「私、キースリングの家にある、外部から魔法の影響を受けなくする部屋が欲しいです!!」


別名、尋問部屋。何度か使う機会があったけど、毎回キースリング家まで言って事情を話すのは面倒すぎる。


「ああ。あの部屋か。あそこは私の私室として使っていたんだが、なんであれが欲しいんだ?」


まさか、尋問に使いたいからです!!とは言えない。適当にはぐらかさないと…


「いろいろ実験したいことがありまして…私の攻撃手段は基本的には魔法ですから、それが封じられた時のために試したいことが多いのです。部屋の中で魔法が使えなくなるわけではないですが、外部からの魔力影響を遮る場所に敵がいる場合とかがあるかもしれませんから」

「なるほど。分かった。魔力影響遮断の魔道具を作ろうか。あれは部屋自体を魔道具にするんじゃなくて、部屋に設置することで効果を得る魔道具なんだが、設置する場所の詳細な寸法がいる。まずはそれを調べないとだな…」

「この屋敷の詳細な図案は建てたときに受け取っていますから、それを見れば大丈夫ですよ」


収納魔法に入れっぱなしだった屋敷の図案を取り出してお父様に見せる。こんなことで役に立つとは。念のためだったけど、貰っといてよかったよ。


「準備がいいな…どの部屋に設置するんだ?」

「そうですねえ…この屋敷にいる人は使用人も含めてそこまで多くないですから、部屋自体は余っているんですよ。どんな部屋が作りやすいとかありますか?」

「作りやすいと言えば角部屋かな。左右に部屋がある場所よりは、調整がしやすい」

「では、この部屋にしましょう。一応、使用人が増えたときのために家具だけ揃えて使っていない部屋ですから。この部屋の詳しい図面は…あ、これですね」


何枚にもわたる図面の中から目当ての物を見つけ出し、お父様に差し出すと、難しい顔をして、睨めっこし始めた。


「うん。この部屋に作るのは問題ないな。じゃあ、始めようか。君も手伝ってくれよ?」

「もちろんです!!」


こうして、お父様との共同開発が幕を開けた。

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