第百六十八話 お父様と拠点探索ツアー

 その後は他愛無い話という名の情報合戦(私にはそう見えた)を少し続けた後、エーバルトとオリーヴィアをキースリングの屋敷に送り届けることになった。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに、なんかちょっと急いでいる様子だった。お父様から聞いた情報の整理したり、検証したりするんじゃないかな。お父様は二人が帰ると聞くと、少し残念そうな顔をしていた。あんまり打ち解けた感じがしなかったからそう思うのも無理はない。


 「じゃあ、魔道具をみせてもらってもいいか?」


二人を送り届けて、拠点に再び戻るとお父様がキラキラした顔でそう言ってくる。さっきまでとテンションの差がすごい。これが本物の魔道具職人か…どっちかというと、研究者気質なのかもね。


「もちろんです。まずはこの屋敷の目玉からにしましょう。こちらへどうぞ」


 そこからウィザーズ拠点ツアーが始まった。まず初めにひねれば水が出る蛇口を見せてからポンプがある地下まで案内し、立て続けにどんどん魔道具を見せていく。もちろん、竣工式の時よりは仕組みや消費魔力量なんかも合わせて詳しく説明した。お父様は魔道具の知識があるんだから、詳しく知りたいに決まってる。その証拠に、一つ一つ詳しく説明していたつもりだけど、その都度様々な質問を投げかけられた。大体は仕組みに関してとか、すぐに答えられることだったんだけど、どこから着想を得たのかっていう質問にだけは答えに窮してしまった。さすがに前世のことを話すのは憚られる。仕方がないから企業秘密って答えておいた。まあ、それはそれで「企業」の意味が通じなくて、それを説明する無駄なやり取りが生まれたのはご愛敬だ。こっちにあるのは精々商店ぐらいの規模だから、ちょっと考えれば通じないのは分かったはずなのにね。余計な疑念を植え付けてしまったかもしれない。何せ「君は博識だな…」なんて微妙な声音で言ってたし。あの感じだと私が作った造語か何かだと思ってる。お父様との無駄とも思われたやり取りは、これから軽率な発言はしないように気を付けようという、新たな意識を私に刷り込むことになった。





 「それにしても君の発想には驚かされた。こんな便利な魔道具があるとは…それに、君の使える魔力もとんでもないな…」

「アイデアがあっても、高品質の魔力炉が無いと作れないんですよね。それに、ブランデンブルクだと、魔力炉は魔道具ギルドが買い占めてしまっているみたいで、低品質のものですら流通しないんですよ…」

「いいアイデアがあっても、腐ってしまうってことだな。そりゃあ、魔力炉を欲しがるわけだ。でも、いいのか?今更かもしれないが、私が作れる魔力炉では、君が作る魔道具には使えない可能性が高いぞ」

「確かに、拠点に設置しているような規模が大きくて魔力も大量に使うようなものには使えないでしょう。でも、従来にあるような魔道具を作るには十分使えます。魔道具を作るのは私の趣味みたいなものなので、それに絶対に必要な魔力炉は品質関係なく、少しでも多く欲しいのですよ」

「魔道具作りが趣味か…普通、そんな技能があれば趣味に甘んじておく者なんていないだろう。普通ならそれで食っていけるからな」

「私の本業は冒険者ですからね」

「九歳の子供が仕事をしているって言うのもおかしな話だが…」

「確かに、貴族の子供の場合まだ教育段階で執務に携わることは多くないでしょうが、平民の子供なら親の仕事を手伝ったり、簡単な仕事をしている年頃ですよ」

「ほう。そうなのか。いや、よく考えれば子供のころから私も仕事をしていたな…うちは、貧乏な騎士爵家だったから、他の貴族が使う魔道具なんかに魔力を込めさせられてた。今思えば、あれは私の仕事だったんだろう」


他の兄弟がしていた仕事も免除されていたし。なんていう呟きも聞こえてくる。他にはどんな仕事があったんだろうね。


「貴族の子供がする仕事ってどんなものなんですか?」

「うちの場合は、普通に農作業だったな。一応狭い領地を持ってはいたが、騎士爵なんて貴族と平民の境目みたいなものだ。暮らしは平民の富豪ともそんなに変わらないから珍しいことじゃない。この国でもそうじゃないか?」

「どうなんでしょう?私、この国の中でも貴族の知り合い全然いないんですよね…お兄様とお姉様、それにブルグミュラー男爵と、その娘のヘレーネ。後は調停官のヴァネッサさんくらいでしょうか」

「男爵と騎士爵じゃあ、税収や領地の広さだけでもすごい差があるからな。領地持ちで産業が発展していたりすれば、さらに差が生まれる」

「貴族が執務以外にどんな仕事をしているかは少し気になりますけど、知る術がないですね」


 そんな話をしながらの再びのティータイム。拠点の屋敷は広いうえに、魔道具は全体に広がって設置されているから結構動き回って疲れるんだよね。


「お父様は数日滞在予定でしたよね。この町の中とか見てまわりますか?」

「そうだな。明日にでも出てみようか」

「この町の名物は甘味なんですよ。さっき言った甘粉を作っている商店もありますし、それを使ったお菓子を売っているお店もたくさんあります」

「それは楽しみだな。私も果物とかの甘いものはよく食べるから。それに、君の言ってた馬のいらない馬車にも乗ってみたい」


お父様は甘いものが好きみたい。これは、食事のデザートとかも料理人には力を入れてもらわないと。車の方は町まで乗っていけばいいだろう。ブルグミュラーの町の人は見慣れてるから騒ぎになることも無い。


「あれ。でも、明日ですか?今日、この後はどうします?」

「ああ。魔力炉をいくつか作って持ってきたから、私と魔道具を作らないか?」

「いいですね!!どんな魔道具を作りましょうか」

「それは相談だな。魔力炉の品質問題もある。私が持ってきた魔力炉は…」


周囲を見渡すお父様。あ、自分の荷物を探してるのかな。


「すみません。お父様のお荷物は客間の方に運ばせてしまいました」

「そうか。ならその客間まで案内してもらってもいいか?」

「もちろんです」


魔道具を作ろうと誘われるのは、父親にキャッチボールをしようと誘われたようなものなのかな。なんてことを私は考えていた。

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