閑話 アルトとアニの二人旅
今日は、ハイデマリー、あの子の父親であるフィンが訪ねてくるということで、あたしとアニは家族水入らずの時間を過ごさせてあげようというアニの提案でハイデマリーの収納魔法からクルマを拝借し、適当にどこかに行こうということになった。といっても、そこまで離れたとことにはいけないし、この辺りはもう見尽くしてるのよね。あたしはあの子みたいにテレポートも使えないし。イメージが難しすぎて創るのも無理だわ。こういう時、あの子のすごさを実感するわね。ちなみに、イザベルは他の半デーモンたちと過ごすって言っていたわ。あの子にとっての家族はやっぱり、半デーモンたちなのでしょうね。
「無計画に出てきたけど、アニはいきたいところとかあるかしら?」
クルマを走らせながらアニに聞いてみる。
「ここからすぐに行けるところと言ったら王都ぐらいですよ…そういえば、最近王都に何か面白い場所が出来たと使用人たちが噂しているのを聞きました」
「面白い場所?なんだかざっくりしてるわね…まあ、他に行く当てもないし行ってみましょうか」
そんなわけで、目的地は決まった。今日は、いつも安全運転ってうるさいハイデマリーもいないし、少し飛ばしていきましょう!!
「ここに来るのも久しぶりですね」
少し飛ばし過ぎたみたいで、今まではクルマだと何時間かかかっていた王都までの道のりを、一時間と少しで到着してしまった。さすがにやり過ぎたわね…速すぎて、運転している私も少し怖かったわ。でも隣のアニが顔色一つ変えないから、速度を落としたらなんか負けた気がするし。早くつけたんだから結果的には良いことだったのよ。そう思うことにしよう。
「そうね。それで、さっき言ってた面白い場所って言うのはどこなのかしら」
「確か中央広場で開かれている催しで、物語を人間が演じるものだそうです」
「へえ。確かに面白そうだけど、そういうのは時間が決まってるんじゃないの?」
「確かにそうかもしれません。でも、そういったことは町の掲示板を使って知らせている場合が多いですから、見に行ってみましょう」
掲示板自体の場所は前に見たから知っていて、すぐに見つけることが出来た。それによると、一日に何度か公演しているようで、次の公演は大体二十分後ね。
「時間的にはちょうどいいですね。この催しを見る客は軽食を買っていって何か食べながら楽しむみたいですよ。その客を目当てに屋台を出している商会なんかが多いみたいですから」
「じゃあ、少し早めに行って屋台でお昼を買いましょうか」
王都の中央付近にある広場はものすごく賑わっていた。この様子だと、結構人気があるみたいね。これは、例の催し目当てじゃなくて、屋台目当ての客もいるんじゃないかしら。
「ええと…あ、向こうの方で料金を払って入場するみたいですね。人だかりが出来てます」
屋台が数店舗並ぶ先に、確かに人だかりが見える。その先の大きな台の上で演じるみたいね。あそこの人だかりが全部見物客だとしたら、あまり見えないかもしれないし、視力を強化しておいた方が良いかしら。
「まずは、軽食からね。どんなものがあるのかしら」
アニと軽く話しながら買い物を済ませる。あたしが買ったのは、茹でて潰した芋を衣で包んで油で揚げた「コロッケ」ってもの。アニが買ったのはパンの間に野菜や肉といった具材を挿んだものですごく食べやすそうに見えたわ。食べ応えもありそうね。
「アルト様は何を買ったのですか?」
「潰した芋を衣で包んで油で揚げたコロッケってものらしいわ。結構人気みたいよ?」
「コロッケですか…聞きなれないですがいい匂がします。アルト様は新しいもの好きなんですね」
「アニが買ったのも見慣れないけど…」
「私が買ったのはよくあるものですよ。外で食べる物としては食べやすいですから」
「あら、初めて見るものだったから新しいものだと思ったわ」
手に入れた軽食について語り合いながら、その足で入場手続きを済ませる。どうやら、入り口のところに門のように稼働する部分が付いた腰辺りまでの高さの柵が設置されていて、勝手に入れないようになっているみたいだわ。入場料は銅貨が三十枚。安すぎもせず、高すぎもしないこんなもんだろって価格帯ね。
「このくらいの値段なら人が集まるのも納得ね」
「お嬢様が言うには、この世界には娯楽が少ないということでしたから、こういう催しに人が集まるのは当然と言えば当然なのだと思いますよ」
会場になっている広場の奥は、有料エリアになっているから屋台が集まっている方よりは人が少ないけれど、人ごみではないとは言えないわね。その人ごみの中、少し人が少なくなっている場所を見つけ、その青い芝生の上に腰を下ろす。やっぱり台の近くは人が多すぎて無理ね。
「ここからだと見えないだろうから、視力を強化しないとね。アニは出来るんだっけ?」
「私は問題なく見れますよ。お嬢様にも言われましたが、どうやら目がいいみたいなので」
本気で言ってるのかしら。ここからだと、台自体は普通に肉眼でも問題なく認識できるけど、その上に立つ人の動きなんて普通見えないでしょうに。
「まあ、それならいいわ」
「というか、私は声の方が心配です。近くでも聞こえにくそうですし」
「確かに…でも、さすがに対策しているでしょ。客の大部分が声を聞きとれないってなったら、こんなに人が集まることは無いと思うわ。初回でもないわけだし」
「そうですよね」
『皆様。ようこそおいでくださいました。今回の演目は、冒険者物語です。ぜひお楽しみください』
肉声であるとは思えない、大音量でそんな言葉が広場中に響き渡った。
※この世界には、ステージ、舞台といったような言葉が存在しないため、「台」という言葉で表現されています。
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