第二十二話 ミスリルの加工と引き渡し

 鍛冶屋でミスリルを手に入れた私たちは、ほかに特にすることもないからと宿の戻ってきた。そこからアニとアルトは魔法の練習、私はミスリルの加工にチャレンジだ。まず金属を加工する魔法を創るところからだね。延べ棒状になってるミスリルを自由に形を変えられるようしたいわけだから柔らかくして粘土で工作するみたいにしようかな。あとはそれをイメージで成形していく感じで。トリガーは魔法名でいいや。イメージが固まったら早速魔法を創る。

「加工魔法!!」

そう叫ぶと目の前に置いてあったミスリルの延べ棒が空中へと浮かび上がった。おおむねイメージ通りだ。そこから今度はどんな形にするかをイメージする。あんまり大きいものは作れないからやっぱりミニチュアだ。形イメージとしてはミニバンかな。

「おお!!」

目を開けると、そこにはちゃんと車の形をしたおもちゃがあった。

「成功!!ってあれ?」

動かしてみようと手で押してみたけど、タイヤの部分が一切回らない。ただ押されて動いてるだけだ。

「タイヤが回るようにイメージしてなかったからかな。」

見た目だけしかイメージしなかったのは失敗だ。

「それにタイヤまでミスリルになっちゃってるや。まあこれは仕方ない。ミスリルしか使ってないわけだし。」

でも、タイヤについてはまた考えないと。馬車のタイヤを代用すればいいやって思ってたけどそれだと乗り心地が悪くなるし…いっそのこと浮くようにしちゃおうかな。高い高度じゃなくて地面からちょっとだけ浮くようにすれば大した問題もないしね。魔力炉に術式を埋め込むときに少し工夫が必要になるかもだけど。私の浮遊魔法を埋めこんで出力を調整すれば高く飛びすぎることもない。

「やっぱり魔力炉を手に入れないことにはどうしようもないね。詳しいことはそのあとにしよう。」

とりあえずミスリル自体を加工することは成功したわけだし。となると今日はもうやることがない。アニの魔法の練習でも見学しようかな。

 寝室を出ると、アニは掌に小さな水の球を浮かべていた。

「アニ!?もう魔法を使えるようになったの!?」

難しいって聞いてたからびっくりだ。

「アニは常人の中ではピカ一の才能ね。魔力の扱いを覚えてからたった二日で魔法を習得したんだから。」

それはきっとすごいことなんだろうけど、私がミスリルの加工をしていたのは一時間くらいだった。その間に魔法を発動できるようになっていたことが驚きだ。

「まだ、あれから一時間くらいしかたってないのに…」

「お嬢様が寝室にお入りになってから、五時間は経っていますよ。」

アニが掌の上の水を弄びながら言った。

「五時間!?嘘でしょ!?」

カーテンを開けて外を見てみると、辺りはすでに暗くなっていた。かなり集中してたけど、さすがにそんな任時間が経ってるとは思わなかった。たぶん加工に時間がかかったんだね、魔法を創るのにそんなに時間はかからないし。

「そろそろ夕食が運ばれてくる時間ですね。」

そんなことを聞くと途端にお腹が空いてくる。そういえばお昼もまだだった。お昼は宿にいないことも多いから、頼まないと運ばれてこないし。

「私もお昼を摂っていないのでお腹が空きました。」

どうやらアニも集中していてご飯を食べてないみたい。アルトはそもそも食事をする必要がないからこの数日は食べたり食べなかったりだ。

 「コンコンコン」

そんなことを話しながら夕食に思いを馳せているとグッドタイミングで部屋の扉が叩かれた。

「きっと夕食ですね。私が出ます。」

そんなことを言ってアニは扉の方へと向かっていった。

「ミスリルの加工はどうだったの?」

「加工自体はうまくいったんだけどね。車を作る道はまだ遠そうだよ。」

「車?ああ馬のいらない馬車だから車ね。いい響きね。」

「私が考えたわけじゃないけどね。てっきり知ってると思ってたけど。」

「知らないわよ。あなたが考えたんじゃないなら前世の知識でしょ?」

「出会った時、私の頭の中を覗いてたからその時に見てるのかなと思って。」

「ああ。なるほどね。覗いたのはたしかだけど、全てを見たわけじゃないわ。」

「そうなんだ。」

「お嬢様。アルト様。お客様です。」

そう言って戻ってきたアニの後ろには冒険者ギルドの支部長である、ジェイミー・ランペルツが立っていた。

「こんな時間に申し訳ありません。お二人にお聞きしたいことがありまして。」

「それはいいけど、わたしたちがこの宿に泊まってるってどうして分かったの?」

ジェイミーに宿の話をした覚えはないけど…

「いえ、この町の宿屋で富裕層向けのものはここだけなので、ここではないかと思っただけです。違った場合はほかの宿屋を回ればいいだけなので。」

この町の性質上、たぶん宿はたくさんあると思うけど…

「なるほど。それで要件は?」

続けて聞いてみる。

「はい。路地裏で水の球に閉じ込められた冒険者が見つかりまして。お二人なら何か知っているのではないかと…」

意外と早く見つかったね。私たちは悪くないしそのままのことを言えばいいだけだ。

「ああ。それなら、今日の依頼の報奨金目当てにあたしたちを襲ってきたから閉じ込めてやったのよ。何か問題かしら。」

私の代わりにアルトがそう答えた。

「いえ、問題ありません。大方そんなことだろうと思っていましたから。金貨数百枚が絡む事件ですから自衛のため、命を奪ったとしても特に問題にはならなかったでしょう。それに彼らの素行の悪さはギルド内でもたびたび問題視されていましたから。」

「そんな奴らなんでさっさと捕まえなかったのさ。」

おかげで私たちが面倒なことになった。

「明確な証拠が見つかっていませんでしたので…。ですが今回の件は助かりました。つきましては、王国への引き渡しのため、魔法を解除していただきたいのですがお願いできますでしょうか?」

「それは、いいけど今解除しちゃっても大丈夫?」

今解除したらそのまま逃げられるかもしれない。

「驚きました。遠隔で解除ができるのですね。直接訪れなければ無理だと思っていたので…。解除していただいて問題ありません。衛兵隊が包囲しているので。」

「なら問題ないね。」

そう言って私は無意識化で流し続けていた魔力を意図的に止めた。

「一応解除したよ。もしかしたら水球自体に魔力が少し残ってるかもだから、すぐにはなくならないかも。」

「了解しました。ご協力ありがとうございました。」

そう言い残して、ジェイミーは去っていった。

 そこから数分後、見計らったように運ばれてきた夕食に舌鼓を打ち、今日という日にさよならを告げた。

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